水滸伝で好きな豪傑達を語ってみる

中国古典四大名著の一つ「水滸伝」。
宋代・梁山泊に集った豪傑の活躍を描いた傑作古典小説である。
本作には百八人の個性溢れる豪傑が登場するのだが、その中でも私が好きなキャラ達についてちょっと語っていきたい。ちなみに原作読んでる前提の内容ですので、ネタバレなど避けたい方はご注意ください。紹介順番は、概ね好きなキャラ順です。

石秀
天慧星の生まれ変わり。梁山泊での序列は三十三位。水滸伝の豪傑といえば、後先考えず行動し、殺人したり大騒動を引き起こしたりがしょっちゅうである。そんな中だと、石秀は慎重派で、危険を察知するとまず身を避ける。しかし、手出しが必要な局面になれば徹底的にやる。バランスのとれた行動力を持つ好漢だと思う。藩巧雲不倫事件の対処はスマートだし、盧俊義を救った北京での大立ち回りもストレートでかっこいい。割と堅気なタイプで、梁山泊に入る前はまっとうな商いでちまちま暮らしているのも好感度が高い。
武術の腕前もかなりのもの。しかし表立った活動よりは敵地潜入や内部工作が多い。これも行商スキルの賜物か。
一本気すぎる義兄の楊雄に対しては面倒見のいい弟という感じ。戴宗とも出会って以来仲良しらしく、一緒に飲みに行った九十回の雰囲気がとっても好き。時遷とは互いの能力を補い合う名コンビで、本編でも度々組んで潜入任務をこなしている。
現代人でもすんなり受け入れやすい人格、ほどよい出番と強さ、梁山泊でも読んでいて最も安心出来るキャラだと思う。

李逵
天殺星の生まれ変わりで序列は二十二位。宋江兄貴大好きな、梁山泊最凶の殺戮モンスター。彼の前では魯智深なんてまだまだまともな人である。
とにかく李逵の出てくる場面では人が死ぬ。何せ殺しは彼にとって家業であり特技であり趣味である。
トラブルに出くわせばとりあえず人をばっさり、その肉を食らい、金目のものをいただき、家を焼いて去る。こんな調子が普通なのだから。
不倫沙汰にぶつかればカップルを斧でぶった斬るのみならず、肉を斧でずたずたに砕き「こんだけ細かく刻めば化けて出てこれないな!」と得意顔。もはやその手並みは芸術の域。
李逵を語るうえで外せないのが、朱仝仲間入り作戦における知事の子供殺しだろう。いくらアウトローでで殺しに慣れた好漢揃いの梁山伯といえど、そしていくらリーダーである宋江・呉用らの命令といえど、罪もない子供を手にかけるのはさすがに気が引けたはず。こういう仕事はやっぱり李逵にしかできない。この男からすれば「宋兄貴がやって欲しいというんだからやればいいじゃないか!」で終わりだ。
そんな宋江との関係も凄く好き。二人の友情については、始まり方も結構丁寧に描かれている。憧れの宋江に出会い、頑張ってもてなそうとするんだけど失敗の連続。しかし宋江はちっとも咎めず、逆に取りなしてくれる。こんなことされた日にゃ、そりゃ惚れ込んじゃうよね。とはいえ李逵も盲従しているわけじゃなくて、悪いと思ったことは宋江相手でもきっちり言うし、一線を越えれば殺そうともする。常に全身全霊でぶつかり合う関係性が良いのだ。
ブログやツイッターで事あるごとに書いてるけれど、二人の最期は中国古典小説屈指の感動場面。宋江のように人から慕われてみたいし、李逵のように人を慕ってみたい。男の友情ここに極まれり、である。

戴宗
天速星の生まれ変わり。梁山泊での地位は二十位。序列の高さにもかかわらず、宋江が「誰か行ってくれないか」とお遣いを依頼すれば必ずといっていいほど名をあげる働き者。初登場のシーンは完全に悪党丸出しの牢役人だけど、読んでいくうちにどんどん印象が変わる人。特にコミュ力の高さは梁山泊でも屈指。
彼の特技といえば一日に何百里も走れる神行法の道術。半分ファンタジーに足を突っ込みつつ、それでいてリアルなテイストを失っていない絶妙さがいい感じ。しかし、これほど凄い能力があるのに何で牢役人なんかやっていたのやら。
咄嗟の知恵はそんなに働く方ではないのか、逮捕から逃がそうとして宋江を無意味にうんこまみれにしてしまったシーンがほんと好き(こんな小細工で誤魔化せると思った宋江も大概だけど)。水滸伝屈指のお笑いシーンだと思う。

張清
天捷星の生まれ変わり。序列は梁山泊十六位。石つぶての達人。敵として現れ、立て続けに好漢達を打ち破った初戦のインパクトがとてもデカい。水滸伝はいわゆるジャンプ漫画などの法則と同様、後に出てくる豪傑ほど手強く、仲間になった時の序列も高くなりやすい。反面、梁山泊入りして以降出番や個性を失ってしまう例も割とあるのだけれど(単に強いだけで個性があんまり見えてこない関勝とかね…)、張青は童貫戦、高俅戦、遼戦、田虎戦など常に最前線で活躍。かなり恵まれている。つぶてだけでなく、一応槍も使える。が、方臘戦ではその槍のせいで隙を作り、命を落としてしまう。
瓊英とのエピソードは百二十回本の後付ながらいい出来だと思う。色を遠ざけてこそ好漢!な水滸伝豪傑達の中にありながらド直球に恋をしてゴールインしてしまうのが面白い。それだけに、生き別れてしまった最期が悲しくもある。

魯智深
天孤星の生まれ変わり。序列は十三位。水滸伝豪傑の中でも、きちんと個人の物語があり、それが綺麗に完結しているキャラの一人。力だけを頼みにしていた腕白男が、ひょんなことから出家の道に入り、数々の経験を経て、最期は立派な僧として円寂する。素晴らしい。出番も最初からあるし、ラスボスを討ち取る美味しい役どころもあるし、水滸伝の顔というのもむべなるかな。史進はどこで差がついてしまったのか……。
武松と組ませたら鬼に金棒、よく考えたら二竜山時代は暴れん坊な二人のストッパーになれるような人物がいない。恐ろしいことだ。とはいえ魯智深も首領におさまってからはトップにたつだけの思考や器量を求められただろうし、後半の大人になった彼がいるのも、二竜山時代のおかげかもしれない、なんて思ったりする。

郭盛&呂方
それぞれ地祐星・地佐星の生まれ変わりで序列は五十五位と五十四位。
名はキャラを表すの恒例で、郭盛の「賽仁貴(唐の名将・薛仁貴にも勝る)」という渾名からは自信のほどがうかがえる。反対に呂方は「小温侯(小さな呂布)」。こちらは謙遜家のようだ。といっても、演義最強キャラである呂布に自らをなぞらえているあたり、かえって自慢してるようにとれなくもない。まあ小覇王の周通なんて完全な名前負けもいるから呂方は全然マシな方だ。
ところで、私は郭盛というキャラを水滸伝を読むずっと前から知っていた。十代の頃に読んだ金庸小説「射雕英雄伝」の主人公・郭靖の先祖として名前だけが登場していたからだ。で、実際に何年か後になって水滸伝本編を読んでみたら、さほど目立たぬ脇役だったという…。
それでも、百八星全体の中で見れば、呂方ともどもまだ活躍には恵まれている部類だと思う。比較的早い時期に登場し、梁山泊の主要な戦いにはほぼ参戦している。強さはそれなりで、コンビを組めば何とか達人クラスを倒せるレベルといったところ。このほどよい実力、若武者、競い合う関係、といった要素のおかげで何となく三国志演義の関興・張苞コンビを彷彿とさせる。ちなみに最終的な席次は郭盛の方が下だが、これはお互い納得のうえなのだろうか。まあ入山後はすっかり仲良しな感じだけど。

欧鵬
梁山泊第四十八位。地闊星の生まれ変わり。もと黄門山の首領。え?なんでこんな微妙キャラを?といわれそうだが、初めて水滸伝を読んだ時に凄く活躍を追いかけていたので妙な愛着がある。まず名前と摩雲金翅のあだ名がかっこ良い。それに賊の大将だから強そうだ。とにかく第一印象がよかった。で、その後の活躍は、お察しの通り笑 初戦の祝家荘をはじめ、決して弱くは無いはずなのに、いまいち輝けない。彼の出身である黄門山組は、いずれも戦闘以外に秀でた一芸があるぶん、戦闘だけが見せ場の欧鵬は余計に影が薄くなっているような気もする。龐万春戦における死に様もまさに欧鵬らしいというか。一発目の矢を見事に掴むものの、二発目を受けきれなくて死す。ただでは死ななかった奮闘ぶりに胸が熱くなる。

燕青
天巧星の生まれ変わり。梁山泊の序列は第三十六位。
忠義者の従者キャラ。刺青の美青年と設定だけでもう得してる。ストーリーでも、林冲と同様、登場して間も無く酷い目に遭いまくるため嫌でも読者の同情を誘う。武芸のみならず様々な特技を持ち、北方随一の名妓・李師師を前にしてもなびかない男ぶり、などなど魅力的な部分がとにかく多い。
ラストの盧俊義とのやり取りもいい。「いつでもあなたのおそばにおります」って言い残し去っていく。出番がもう少し早ければなぁ、と思うもったいないキャラ。

時遷
地賊星の生まれ変わり。序列は百七位とかなり低い方だが、作中での活躍はかなり多い。もとが泥棒だけあって、特に盗みや偵察では彼の出番。同じ泥棒稼業ながら失敗ばかりしている百八位の段景住に比べると、その腕の良さが際立つ。徐寧のもとから鎧を盗んだ際、梁の上でネズミの泣き真似をしてやり過ごすシーンが可愛い。別にそんなことしなくてもばれなかった気がするけど、あえて芝居を打ってみせるのがプロフェッショナルなところか。盗みが発覚した後のふてぶてしさとか、なかなか弁が立つところとかも好き。楊雄と昔馴染みのはずだが、梁山泊入りの際に知り合った石秀との方が相性がよかったのか、任務で組んでいることが多い。

書いていくうちにきりが無くなりそうだったので、とりあえずここらへんで笑
水滸伝はとにかくキャラが多いので、その好きも単純なものだったり複雑なものだったり、なかなか一概には語りきれないので、別ブログの西遊記全話レビューが終わったら(まだ数年は先になりますが)、また一人ずつ詳しくその魅力を紹介していきたいと思います。