中国古典小説史 漢初から清末にいたる小説概念の変遷 (ちくま学芸文庫 オー38-1) [ 大塚 秀高 ] 価格:1430円 |
先日、神保町でまとめ買いした本のうちの一冊。
漢~清末まで中国古典小説の変遷についてまとめられている。もとは放送大学用のテキストだったらしい。
これまで中国文学史を扱った本は何冊か読んできたのだけれども、本書の特徴は唐宋代の伝奇に重きを置いて小説の発展を論じているところだと思う。全十五章のうち、相当な部分で伝奇に言及している。未翻訳だけど中国では有名なタイトルを取り上げているのはとてもいいと感じた(王魁伝とかね)。
ただ、中国小説史を語るうえで宋元の戯曲・雑劇の関わりをガン無視してしまうのはさすがにどうかと思った。そりゃ小説じゃないし紙幅とかの関係で論じる余裕が無い…という言い分もまあ理解出来なくはないけど、戯曲絡みの話を抜いたせいで十四章以降はどれも説明が苦しすぎる。特に才子佳人絡み。そもそも作者が小説変遷で重要視してる伝奇の大半って、完成形は小説じゃなくて戯曲じゃない? 西廂記も嬌紅記も白蛇伝も(まぁ白蛇伝は小説もあるか。本作じゃ触れられてないけど)。だから伝奇を重視するなら、尚更戯曲に触れないのはどうかという気もする。
あと「金瓶梅」と「紅楼夢」など一部の例外を除いて中国は長編小説を作れなかった、というのも暴論過ぎないだろうか。例外がどのくらいの数を言ってるのかはわからないけど、作者が言ってる伝奇とか元ネタに頼らない長編小説なら「鏡花縁」とか「品花宝鑑」みたいに探せばいくらでもあるんじゃ? 他にも「儒林外史」の物語形式が「水滸伝」前半の主人公が次々変わる展開を模倣したっていうのも、ちょっとこじつけだよなぁ。
前半はまだ読めるけど、後半は色々気になってしまう本だった。
中国小説史をわかりやすく学びたいなら、私は他の本をお勧めするかな…。
あと、嬌紅記ファンとしては、どうせ伝奇について語るならもっとこの作品に深く触れてほしかったところ。だって宋元時代の貴重な長編伝奇じゃん…。