中国古典戯曲の傑作『桃花扇』の映像作品。制作は西安電影製片。モノクロ。原作以外に歐陽予倩の話劇版の内容も取り入れている。
あらすじ
明朝末年、王朝の腐敗が進む中、書生の侯朝宗は奸臣を打倒すべく復者の一員として活動していた。そんな彼を慕う南京の名妓・李香君。復者を潰すべく暗躍する奸臣達、北方から攻め寄せる清軍。明の最後が迫る中、侯朝宗と李香君の運命は…。
原作の桃花扇は恋愛、政治、戦争と作中で扱われているテーマが多岐にわたり、登場人物も非常に多い。そのため、時間の限られる映画や舞台のリメイクではどのテーマに比重を置くかが重要になってくる。歐陽予倩の話劇版は日中戦争期に作られたこともあり抗日が主要テーマだった。作中の見せ場である侯朝宗の変節は、漢奸となった汪精衞を揶揄したもの。が、本作の制作は戦後なので当然抗日的な色味は薄い。恋愛や政争も中途半端な感じ。清にくだった侯朝宗の姿をクライマックスにするなら、もう少し心変わりする場面にも時間を省くべきだったと思う。
古い映画なので合戦シーンも無し。江南水郷の景観も、モノクロだとちょっと物足りないかな。妓女達の衣装もカラーで見たい。
とはいえ、長大な桃花扇をコンパクトな長さで楽しめるよい作品だと思う。
王丹鳳/李香君
南京の名妓。義気にも溢れ、腐敗朝廷に対抗する侯朝宗を同じ志の知己として愛する。奸臣達による南京政権が出来上がると強制的に舞妓として呼ばれるが、歌と踊りで彼らを痛罵。清軍が南京を陥落させると寺に避難したが病にかかる。そこで侯朝宗と再会するが…。
演じる王丹鳳さんが美しい。李香君にぴったりだと思う。
馮喆/侯朝宗
南京の若き文人。腐敗した朝廷に立ち向かう義士だったが、戦乱を経て心変わり。清朝にくだって弁髪姿で李香君に再会するも、激しく拒絶されてしまう。
彼なりに考えて恋人のもとへ帰ってきたんだろうに、香君のみならず他の人達からも冷たい視線を浴びる。結構可哀想…。まあ本人もあからさまに清朝ファッションをしていったのがよくなかったかもしれない。
韓濤/阮大鋮
朝廷の奸臣。侯朝宗を陥れ、李香君を無理矢理宮中へ連行し踊りをさせる。本作ではひたすら単純な悪役。
周文彬/柳敬亭
講釈師。老齢ながら義気にも厚く、影から侯朝宗をバックアップする。
虞俊芳/鄭妥娘
南京の妓女。香君とは姉妹の仲。史実では名妓なのだが、どうも桃花扇だとコミカルな役回りにされているような。