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【中古】中国現代文学選集17 記録文学集III 回想の区瞿秋白・方志敏-戦闘の生涯・長征追憶・悲壮な進軍 価格:880円 |
中国共産党初期の中心人物でもある文学者・瞿秋白の生涯と最期について記した回想録。作者は後妻であった楊之華。
どうして急に瞿秋白の本をレビューしたのかというと、今年は彼が亡くなって九十周年にあたるため。中国のネットニュースでもちらほら話題になっているので、私自身の再学習も兼ねて本棚から一冊引っ張り出してきた次第。
日本では孫文や魯迅ほどの知名度は無いが、中国共産党を語るのであれば外すことの出来ない人物である。特に早くからロシア~ソ連との繋がりを持ち、共産主義に深く触れていた。上海の大学で教鞭をとっていた際は、階級を問わず後の共産党に関わる人々が多く駆けつけその授業を受けていたという。
この手の人物の例に漏れず共産党~人民共和国設立~文化大革命期のゴタゴタによって党からの評価が二転三転しているのだけれども、現在は概ね共産党初期の功労者、という立ち位置で落ち着いている。業績として大きいのは翻訳および政治論文。日本で知られていないのはやはり小説作品の類が無いせいだろうか(魯迅なんかも小説より散文の方がずっと多いんだけどね)。
で、この回想録は上海時代における瞿秋白と楊之華の出会い、その後の地下潜伏と工作活動、数々の文人との交流、国民党による逮捕と処刑までがつづられている。
もっとも執筆時期が一九五〇年代と毛沢東全盛期なので、指導部に媚びを売っているのでは邪推したくなる記述も少なくない。例えば秋白が毛沢東の書いた「湖南農民運動革命」という文章に感銘を受けたとか(註でもおかしな部分があると突っ込まれているが…)。他にも、毛沢東と対立した張国燾の路線に瞿秋白も反対していたとか。有名な話だが、毛沢東は留学経験も無ければ本場のマルクス・レーニン主義の学習にも疎く、党内のインテリ派とは相容れない部分があった。後に毛沢東自身も瞿秋白批判を行っているので、尚更本書の記述は批判をかわす意図があったのではという印象を受ける。
まあそのあたりはさておいて、本書を読むと魯迅、茅盾、葉紹鈞といった日本人に馴染みある近代作家の名前が沢山出てくる。これだけでも、瞿秋白の当時の文壇における交友と影響力の大きさを感じ取れるだろう。特に魯迅は知己とも言える存在で、逮捕された瞿秋白を救い出そうと最後まで尽力していた。秋白は政治的文章を多く書いているが、どちらかといえば根っからの学者・文人肌で、翻訳一筋に尽くしていれば国民党・共産党の闘争に巻き込まれることもなかったと感じる。
ちなみに中山公園でのあまりにも堂々とした処刑直前の姿は映画などでもよく映像化されるが、やはり美化し過ぎではなかろうか。まあ瞿秋白に限らず革命英雄はみんなこんな感じだけど…。
翻訳自体が古いので現在の研究に照らしたらあてにならない部分もあるだろうけれど、楊之華との愛情に満ちた家族生活から、瞿秋白の素の人物像は深く感じとれると思う。