
1980年の文革映画。制作は峨眉电影制片厂。
文革後の1970年代末から1980年代にかけて、被害を受けた人々の立場から革命の反省を描いた傷痕文学というジャンルが生まれた。その初期代表作として有名な鄭義の同名短編小説を改変したのが本作。
有名な作品ということなので、ネットに落ちていたのを字幕鑑賞。
ものがたり
若き学生の盧丹楓と李紅鋼はよき恋人同士だった。1966年、文化大革命が始まると丹楓は紅衛兵に入隊。古い悪習を打破し新しい中国建設への貢献を志す。紅鋼も彼女に触発されて革命運動に参加。しかし、運動が激化するにつれ同志達の中に「紅旗派」と「井岡山派」の派閥が生まれ、盧丹楓と李紅鋼も袂を分かつことになってしまう。
ある時、紅鋼は恩師だった王に出会い、彼に対立派の拠点調査と丹楓の説得を依頼する。王は丹楓の部隊に捕らわれるが、彼女もまた王を解放する代わりに紅鋼へ手紙を託す。
その日、学校を占拠した井岡山派に対し、紅旗派が部隊を率いて攻撃を開始。追い詰められた盧丹楓は投降を拒否して自殺。その死を嘆いた李紅鋼もまた、数年後に同胞殺害の罪を問われて処刑されるのだった。
本作で描かれているのは、文化大革命初期の1966~67における奪権運動期。きっかけは毛沢東が権力奪回のため紅衛兵を組織・先導してありもしない仮想敵の攻撃を始めたことだが、ほどなく大衆側の運動が激化していき、党側がコントロールのため軍を使って鎮圧に乗り出す無茶苦茶な事態になってしまった。
当初の紅衛兵の攻撃対象は旧習(古い思想や文化全般。この当時でいえば資本主義やブルジョア的存在。例えば地主や資産家は昔ながらの権力者なので、打倒すべき古い人達になる。教育者や芸術家も古い価値観を植え付けてくる人達なのでやはり打倒対象)であり、運動の根っこでいえば実は昨今の男女平等とかLGBTとか環境問題(女性もインフラで働くべき、男も家事育児すべき、多様な性を認めろ、鯨を食うな)あたりとそんなに変わらない。「古い思想や文化をアップデートしよう!」と主張するだけなら、誰もそれが悪いこととは思わないだろう。けれども、少し過激化すると、ペンキを芸術品にぶちまけたり、街頭で「男はウンコしか産まない!」とか極端なことを言い始めたり、さらに本格化すると運動は組織化され常に敵を求めて攻撃をするようになり、もっといけば最後は武力闘争になる。このあたりになると思想も先鋭化して、ついていけない仲間は容赦無く弾圧したり、殺してしまったりする。文革に限らないが、人間のやってることの本質なんて今も昔もそんなに変わらないのだ。運動の大本の動機は純粋だから、参加してる人々は自分達の悪を疑わない。文革は権力を奪回した毛沢東や党にすらも牙を剥き、最終的には誰が加害者で被害者なのかも判じがたい国難になってしまった。日本人は文革にせよ天安門事件にせよ共産党=悪の単純な構図で論じがちだが、そうした無理解から脱却するためにももっと大陸側の情報や文化を積極的に摂取する必要があると思う(それでも「党の検閲が入ってるから意味ない!」と頭ごなしに否定ばかりして見向きもしない人とかはどうしようもないけど)。
本作に登場する盧丹楓と李紅鋼も、そんな思想運動に振り回されて死んでいく。「紅旗派」と「井岡山派」の具体的な主張の違いは説明されないが、同胞の殺し合いをしている時点で主張の正しさなどどうでもいい話だろう。
作劇の都合とはいえ、丹楓の変貌ぶりがめちゃくちゃ急なのはちょっと気になった。台詞まわしも舞台くさい大袈裟な感じだが、これはまあ古い映画だから仕方ない。というか文革期の革命劇がそういう演技をやってたので、80年代初期の中国映画はまだその名残がまだ感じられる。
反対に、昔の作品ならではの良さもたくさんある。学校を舞台にした終盤の激戦は、実際の学校を撮影に使っているようで見ごたえあり。共産党は男女平等を掲げているだけあってこの時代でありながら女性も銃をとって男顔負けに戦う。多用される赤い背景も印象に残る。列車の上に載って(今だと危なくて撮れなそうな場面)決裂してしまった関係を語り合う盧丹楓と李紅鋼のシーンも良い。そのほか文革から制作が間も無いこともあって、つるし上げや論争の場面などにも現代作品には無いリアリティがあった。
当時の様相を味わう意味ではかなり良い作品なので、文革ものに触れてみたい方は是非。
以下キャスト
徐楓 / 盧丹楓
素朴な女学生だったが紅衛兵入隊をきっかけに過激な闘士へ変貌。毛沢東路線を盲信して、恋人の李紅鋼との対立や武装闘争もいとわなくなる。演じる徐楓さん、出演作が全然ないみたいで本作以外の情報が確認できず。
王尔利 / 李紅鋼
パイロット志望の学生で丹楓の恋人。紅衛兵になった丹楓に半ば引っ張られる形で革命運動に参入。しかし過激路線を行く彼女と対立し、戦う羽目になってしまう。丹楓のことは気にかけつつも、その派閥である井岡山派への敵意は強く、仲間を組織して殲滅にかかる。徐楓さんと同様、調べても出演作が殆ど出てこないが、どうも制作側になって映像制作自体には関わっている模様。
凃中如 / 王老師
丹楓達の美術教師だったが、革命がはじまると弾圧の対象になってしまった。闘争中、教え子たちに再会し、和解の仲介役を託されるが果たせず。若き二人が「教訓すべき歴史」として死んでいったことを嘆じる。
夏楠 / 小兔子
井岡山派の少年。幼いながら革命精神に染まりきっており、母と妹の説得を振り切って戦場に向かう。外部へ援助を求める任務の帰り、渡河中に狙撃された傷がもとで死亡。
马功伟 / 曹新华
紅旗派の一員。決戦に際し、李紅鋼が盧丹楓の恋人であったことをなじる。仲間内でも常に思想闘争が絶えないのが文革。
牛千 / 趙師傅
紅旗派の指導員。ベテランだけあって戦争慣れしている。若い世代中心の紅衛兵部隊だと年長者はそこまで指導力を発揮出来ないのか、仲間割れが起きてもなだめ役に徹している。