神鵰剣侠(神鵰侠侶) レビュー

【中古】 神雕剣侠(第一巻) 忘れがたみ /金庸(著者),岡崎由美(著者) 【中古】afb

価格:200円
(2020/9/22 09:45時点)
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射鵰三部作の第二弾。
前作で横死した売国奴・楊康の遺児である楊過が主人公。彼の前には、父の死にまつわる怨恨、武芸を教えてくれた師との禁じられた恋愛、宋を狙う蒙古との戦争など、幾多の試練が襲い掛かる…。

物語は前作よりも陰惨な雰囲気が漂い、宋と蒙古の壮絶な全面戦争も描かれる。メディアでは至高のラブストーリーとして紹介されるけれど、恋愛パートの出来栄えは正直それほど良くないと思う。特にヒロインである小龍女の造型は明らかに失敗じゃなかろうか。彼女の言動・行動はどれも褒められたものでは無く、結果として悪い方向に及ばなかった(一部は明らかに人として間違ってるように感じるけど…)だけで、やってることは郭芙レベルと殆ど変わらない気がする。
二人の恋を阻む試練に対しても、小龍女は常に逃げの一手を続けるばかりで、正面から解決する姿勢を見せてくれない。もっとも、彼女がこういうヒロインだからこそ、劇毒を受けたり片腕を失っても彼女を求め続ける楊過の姿が、より感動的に見えるのも確か。
本作は恋愛ものではなく、楊過の成長譚として読んだ方が面白いと思う。楊過は郭靖と違い自立もしていれば行動力もあるので、自らぐいぐい物語を動かしてくれるのが良い。無個性で真面目な連中が多い金庸主人公の中では癖も強く、すんなり進みそうな展開を予想外な方向へかき回したりもする。
特に十六年後を描いた終盤は秀逸。月日の重みや、楊過の中年侠客としての落ち着き、キーポジションにいる郭襄の存在、再会の背後で始まる全面決戦など、話を盛り上げるためのシチュエーションがどれも完璧だ。
前作続投の五絶は相変わらず存在感が大きく、本作から登場する新キャラ達をも食ってしまっている。早くに欧陽峰と洪七公を退場させたのは英断だったのでは。それでも残り三人は十六年後の話まで生き延び、戦争にまで参加して大活躍。みんなもう九十歳軽く越えてるんですけどね…。
前作から月日を重ね、どっしりした中年侠客に成長した郭靖・黄蓉も沢山見せ場を与えられているが、楊過との因縁絡みではどうしても悪い印象がつきまとい、五絶に比べて損をしてるかも。

設定面では中盤以降のキーカードになる情花や謎生物の神鵰など、ファンタジーに片足を突っ込んだような要素が射鵰より増えている。荒唐無稽なカンフー描写を含め、ここらへんをすんなり受け入れられるかどうかが、武侠にはまる境目なのでは。どうでもいいが、金庸小説を読み慣れてくると、絶世の武術家が跋扈する江湖では、楊過のように片腕無くすことはさほどハンデじゃない気がしてしまう。敵キャラも含めれば五体不満足なケースは結構出てくるし。
そのほか、前作から思い切り堕落してしまった全真教や、あまりにあんまりな郭芙の造型は色々ショック。続作の倚天屠龍記でも感じることだけど、金庸先生は組織や血の継承に関して、結構ドライだと思う。

ちょっと批判気味なことも書いたけれど、十六年後の物語がとにかく素晴らしいので、それだけで全部許せてしまう傑作。