葉限

唐の段成式の随筆『酉陽雑俎』に収録されている伝奇小説。作者の創作ではなく、家に仕えていた李士元という者から聞いた話が元ネタだとか。そのストーリーの内容から中国版シンデレラとも呼ばれる。

あらすじ
むかしむかし、中国の南に呉氏という偉い人がいました。呉氏には妻が二人おり、一人目は葉限ちゃんという娘を産んで亡くなりました。葉限ちゃんは賢く、砂金を探すのがうまかったのでお父さんに可愛がられました。しかし、お父さんがある時亡くなってしまいます。以来、二人目の妻――つまり継母は葉限ちゃんを虐め始めました。山へ薪を取りに、川へ水汲みに、と毎日のようにこき使うのでした。
ある日、葉限ちゃんは一匹の魚を見つけると、持って帰り鉢の中で育てました。魚はどんどん大きくなり、器に入らなくなったので裏手の池へ放しました。葉限ちゃんが食事の残りを持って池に行くと、魚はいつも水面に顔を出します。しかし、他の人が近づいても決して姿を見せないのでした。
継母はそんな葉限ちゃんのお楽しみが気に入らないのか、ある日彼女を遠くまで出かけさせると、葉限ちゃんの服を着て池に近づき、魚をおびき寄せます。顔を出した魚はまんまと継母に捕まってしまい、あわれ夕食のオカズにされてしまいました。美味でした。葉限ちゃんは魚が殺されたことを知り嘆き悲しみます。すると、天からみすぼらしい格好の仙人?ぽい人が現れて有難い言葉を授けます。「泣くのはおやめ。魚の骨がウンコの下に捨てられてるから、それを拾って部屋にしまっておきなさい。骨に祈れば、欲しいものは何でも手に入る」
葉限ちゃんが言うとおりにすると、食べ物も服も何でも手に入ったのでした。
ある日、継母が着飾って外出したので、葉限ちゃんも骨の力でお姫様のような格好になり、出かけたのでした。ところが、運悪く継母と娘に見つかり、怪しまれてしまいます。葉限ちゃんは慌てて帰りましたが、その時履いていた金の靴を片方落としてしまいます。
さて、靴は葉限達の隣国・陀汗国の人間に拾われました。国王はその珍しい靴を見て、持ち主を探すべく命令を出します。そしてついに葉限ちゃんを見つけました。王は葉限ちゃんを厚くとりたて、意地悪な継母とその娘は処刑してしまいます。
その後、王は葉限ちゃんの持っていた骨で宝石を沢山出しましたが、ある時霊験も失われ、さらに戦乱で骨も行方不明になってしまったのでした。
おしまい。

粗筋の通り、孤児になって働かされる娘、意地悪な継母、不思議なアイテム、脱げた靴、玉の輿、などなどシンデレラに繋がる多数の要素がある作品。ストーリーが似通っているのは人類考えることはみんな同じ説、ギリシャ神話が海を渡って伝わってきた説(本作の舞台はベトナムとされている。終盤に出てくる反乱は徴姉妹の乱とされる)、などがある。
なにぶん唐代の伝奇小説なので、内容はいたってシンプル、というか色々物足りないし、説明不足で超展開になっている部分も多し。まあ唐代伝奇にはよくあることですが。ちなみに唐代伝奇の多くは後代の通俗小説の元ネタになるのだけど、本作はそういった翻案が見当たらない。とてもリメイクのしやすそうな題材だと思うだけど、明清代の小説家の肌には合わなかったのだろうか。
途中から出てくる陀汗という国についても調べてみたが、それらしい国は出てこず実在ではない模様。

作者の段成式は非常に博識な人で『酉陽雑俎』には本作に限らず多数の面白い話が収録されている。おすすめ。