サークル「満州研究会」にて定期的に刊行されている同人誌。複数のライターによる紀行文や研究文が掲載されている。
東方書店でたまたま見かけたので購入。今回のは記念号とのこと。内容はマニアックで濃いものばかり、これぞ同人誌ならではという作り。そしてとても読みやすい。
以下、個人的に面白かったタイトルを紹介。
・「空から満州を見てみよう」第一部・第二部
写真・地図つきで満州の地理を紹介。そして満州の地理調査におけるあれこれなども。当時の日本にとって広大な満州はさぞ手にあまっただろうと感じさせる記事。特に林海雪原に入ろうものなら匪賊だらけなので、安全確保した地理調査の手段として空撮が用いられたんだとか。ところが今度はその空撮した写真をめぐって陸・海軍の縄張り争いが生じたり、この時期ならではのドラマが興味深い。
・いごこちのわるい【狭間】――今村栄治『同行者』にみる異民・異郷・異心
朝鮮人作家・今村栄治の小説「同行者」に関する考察文。大変面白かった。五族共和という非現実的な理想の中で、結局どこにも属せない人間の苦しみというものが、当時は沢山あったのではないか。とりあえずこの作品はいずれ読んでみたい。入手がなかなか大変そうだけど、だからこそ読む価値がある。
・八路軍と日中貿易――戦後日中関係史
満州で暮らし、その後八路軍入りした日本人が、戦後日中貿易でどのような働きをしたかを述べた記事。レアなうえにもレアケースでとにかくマニアックな内容。日中専門商社は、大陸のゴタゴタ(大躍進や文革)や当時の外交情勢もあって困難も多く、そのために八路軍出身である日本人が表に立つことでスムーズな取引に繋がったのだとか。そして彼らの存在が、現代における日中貿易の源流にもなっているとも。
現代に残る資料も少ないらしく、筆者の苦労と情熱を感じさせる。こういうものはもっと読みたい。
上記以外も楽しんで読める記事が沢山。
いずれバックナンバーも買ってみようかと思う。研究会の皆様には今後とも頑張って欲しい。