蓬莱同楽集

漢詩同人グループ「蓬莱同楽社」による作品集。2018年刊行。
総勢十五名の詩人による作品が掲載されている。形式やテーマは統一されておらず、各人が自由に創作している。白文、読下し、現代語訳、註がついていて非常に親切。

中国文芸の中でも、漢詩は特に歴史が長く奥深い。ゆえに、書き手はもちろん読み手にもある程度のレベルが要求される。形式や作法を厳格に守って作られた詩もあれば、それをまったく無視して創作した作品もある。
本作は特定のテーマを設けておらず、多数の詩人がそれぞれ自由に個性を発揮して詩作をしている。ゆえにバラエティ溢れた内容で、読んでいる間はとても楽しめたのだけれど、感想を書く段になってとても悩んだ。どの作品も異なった良さがあり、また私自身にも好き嫌いがあるし(私自身は古詩のように素朴な表現の詩が好きで、註が多過ぎたり、技巧に凝り過ぎたりしているものは苦手)、どんな基準で評価したものかわからなかった。改めて漢詩鑑賞の難しさを思い知らされた。

以下、特に気に入った作品にコメントを少々。細かいことは抜きにして、純粋に良かったなあと思う点を書いておくことにする。

地理「偶成」
詩でセルフイントロダクションなんてカッコいい。最後の一句「芳樽折柳又斜陽」がとってもステキ。ハードボイルドっぽい風情がある。

花菖蒲「獨思君」
恋について詠んだ作品。ストレートで心に強く響く内容が良かった。言葉のチョイスが素晴らしく、とても中華テイストに溢れていて、小説の一場面を読んでいるような気持ちにさせられた。

櫻岳「看櫻」
酒に酔って筆を執る…なんて書いてるのに作者コメントの「私は飲酒経験値ありません」には笑った。作者自身のことを詠んでいるんだろうけど、詩の中にある情景はいつのどんな時代にも通じることだなあと思ったりした。

盡誠堂主人「讃世紀末覇者」
北斗の拳のラオウについて詠んでいる。こういうの好きです(笑)。

飯田周山「常州覧古」
三首の七言絶句で茨城県について詠んだ作品。なるほどこういうアプローチの仕方もあるのだなぁと思う。

望之「推特戯詩」
五首も寄稿されていてどれも良かったのだけれど、ツイッターのことを詠んだこの詩が一番面白かった。現代語やネットスラングを違和感無く作品へ盛り込んでいるのには感嘆する。

酔翁「閲廣陵書畫録」
最後の二句がとっても素敵。「性霊」や「焼残事」など言葉のチョイスは、とても考えられていると思った。広島の雅称について初めて知った。