滅亡

巴金の中編小説にして処女作。彼がフランス滞在中に書き上げた。もともと発表の予定は無く、親しい者だけに読んでもらうつもりで原稿を上海に送ったところ、雑誌「小説月報」に採用され、彼の生涯に渡る作家生活の幕開けを作った。
物語は、知識人青年の杜大心が、愛や幸せや革命への希望を打ち砕かれて滅亡するまでを描く。杜大心のモデルは巴金本人であり、当時の彼の苦しみが作中にも反映されている。
 巴金の素晴らしさは、愛を大きなスケールで語るところだと思う。単なる男女個人の恋愛にとどまらず、隣人愛とか、兄弟愛とか、人類愛とか、作品の根底にはいつも愛があって、愛するがゆえの苦しみも沢山描かれる。
 杜大心は、彼の思想を愛したために殉死した隣人へ報いるため、彼を愛してくれる女性を振りきり、死を選択する。彼の死に対し、女性はまた愛で報いる。作中の死は不自由な社会による無慈悲なものだけれど、だからこそ精一杯に愛を選択する人々の生き様は美しく、また悲しい。
 とにかく読んでいて苦しくなる作品ではある。特に血気盛んな若い頃とかにこういうのを読んでしまうと、理想の社会の有り様とか、愛と憎しみの正体とか、そういった人生のままならないことについて深く考え込まされてしまうのは間違いない。まあそんな力がみなぎっている作品。社会とか人間の捉え方には大きな理想を抱きすぎていて、そこがちょっと青臭くもあるけれど、巴金は郁達夫や郭沫若みたいに変なひねくれ方をしていないので笑、すんなり読めると思う。

 悲しいことに翻訳は滅茶苦茶古いものしか残ってない。たまたま古書店で見つけたので、買って読んでみた。ちなみに本作は「死去的太陽」「新生」と会わせて革命三部曲とも呼ばれる。是非新訳として刊行して欲しいものだ。