※2025/4/26 追記しました。
中国古典小説の最高峰「紅楼夢」は何度も映像化されている。ここでは代表的なものをまとめて紹介したいと思う。
尺の限られる映画版は傾向として宝黛釵の恋愛エピソードを中心に原作を改変している。また、宝玉役は女優が演じることが多い。
映画・ドラマ版共にストーリーは大体現行本をなぞり、また秦可卿絡みは原作でぼかされていた部分を明確に描写するようにしている。
ドラマではオリジナルエピをつけ加えたり、逆に多すぎる登場人物を削ったり細かな改変がある。かの有名な87年版もかなり改編が多く、実は原作未読のファンには優しくない通向けバージョンだったりする。
1927「黛玉葬花」
未見。京劇俳優の梅蘭芳が黛玉を演じている。
1944年映画版「紅楼夢」
モノクロ。往年の上海映画名女優・周璇が黛玉を演じている。が、周璇は黛玉の暗い性格が嫌いだったとか。二時間の長丁場ながら、話の取捨選択には疑問を感じる部分も多い。襲人のぶりっ子ぶりがうざい。
1962年映画版「紅楼夢」
ショウブラザーズ制作。やはり宝・黛・釵中心。余計な部分を切り取り、すっきりまとまっている。古装名女優の楽帝が黛玉役だが、個人的にはあんまり黛玉のイメージではない…。
1962年映画版「紅楼夢」
越劇映画版。越劇名優の徐玉蘭が宝玉を演じる。全編通して歌満載。ビジュアルがちょっとね…。
1975年ドラマ版「紅楼夢」
一部しか見れてない。TVB制作。僅か7集しかなく、宝黛釵のエピソード中心。キャストも絞られている。伍卫国が賈宝玉を演じている。
1977年ドラマ版「紅楼夢」
これまた香港の佳艺电视台が製作。一部しか見れてない。全100集(これ編集絡みで七十集のものもあるみたいです)とあらゆる紅楼夢ドラマの中でもブッチギリの話数。セット衣装音楽どれも香港古装カラーが全開。1975年版と同じく伍卫国が賈宝玉を演じる。賈宝玉を同じ役者が二度演じた例はこれきり。黛玉役の毛舜筠も、宝釵役の米雪も、個人的には往年の武侠ヒロインのイメージが強かったり。
1977「金玉良縁紅楼夢」
ショウブラザーズ制作。監督は「西太后」「倩女幽魂」など古装もので有名な李翰祥。賈宝玉は林青霞。紫鵑役の狄波拉さんがメチャクチャ可愛い。もとは宝釵役だったそうで作中の扱いも厚遇されている。歌多め。偽装結婚に至るまでの流れがシンプルな感じに改変されている。
1987年大陸ドラマ版「紅楼夢」
ご存じ紅楼夢ドラマの決定版。全36集。とにかくキャスティングが見事。陈晓旭の黛玉は、ビジュアルも中身もそれまでのイメージを覆したと思う。単なる見た目の美しさ以上の再現を目指した結果だろう。製作裏話などでよく語られるが、原作ぴったりのビジュアルを重視して演劇業界と無関係なところから引っ張られてるキャストが多い。ストーリーもやや省略気味ながら丁寧に映像化、終盤はドラマ独自の完全オリジナル展開になるが、これがまた素晴らしい出来。湘雲の最後はやるせない。そのほかファンタジー色を削ることで、現実味の強いドラマになった。音楽がどれも良くて印象に残る。
1989年映画版「紅楼夢」
全6部作12時間。87年ドラマ版とほぼ同時期に製作。こちらは最後まで現行本に忠実なストーリー。ただし、一部の話は時系列を入れ替えている。87年版では抜かれたファンタジー要素も網羅されており、原作忠実度でいえばこっちの方が上かもしれない。キャストはドラマ版と大分異なるベクトルで集められているが、こちらはこちらで素晴らしい。87年版は無名の役者が多いが、本作はかなり有名どころを引っ張ってきているので演技力が高い。晴雯と湘雲はかなり好き。
1996年台湾版ドラマ「紅楼夢」
全73集。なんというか作りがあまりにフツーの古装ドラマ過ぎる。衣装もセットも音楽も。紅楼夢というのは基本的に日常で起きる騒動の羅列なので、平坦に映像化するととてもつまらなくなってしまう。本作はそれが顕著。キャストも侍女達は良かったけど主要ヒロインはあまり魅力的な人がいない。終盤は地味に曹雪芹の原案を取り入れていて、夜回りする宝玉や乞食になってさまよう湘雲など珍しいものが見られる。
2000年ドラマ版「紅楼夢」
越劇風ドラマ。全キャストが女優。台詞も劇調なので慣れない人は見るのがキツイかも。一部エピソードは入れ替えあり。宝玉誕生時のあれこれ、秦可卿の侍女のその後、司棋と藩又安の恋愛、嫁いだ迎春のDVなど、他の映像作品では見られないシーンが沢山あって面白い。新しいドラマを作るなら、単なる原作再現ばかりじゃなくてこういうアプローチももっとやって欲しい。
2009年ドラマ版「黛玉傳」
全35集。タイトルは「黛玉傳」だが、中身はフツーに紅楼夢。キャストは2010年ドラマ版のオーディションで勝ち残った者を起用している。衣装含めたビジュアルは2010年版よりマシ。全体的に可もなく不可もない出来。終盤にかけてのストーリーは曹雪芹の原案をかなり採用していて好感が持てる。紫鵑がとっても可愛い。
2010年ドラマ版「新版紅楼夢」
全50集。大陸二度目のドラマ化ということで、かなり気合を入れて作ったはいいが、見事に爆死した作品。厳選されたキャストは衣装のせいでビジュアルが台無し。ヒロインがみんなおんなじ髪型をしてるので個性が全滅して見分けがつかない。2010年代は紅楼夢以外の四大名著も続々リメイクされ、割とドラマオリジナルな解釈を盛り込んでいたのに、本作は特に無し。というか厳しいファンの目や紅楼夢初心者に配慮しまくった結果、無駄にナレーション多めで説明調になり、原作を再現しようとするあまり映像化としてのチャレンジが出来ず大変平坦な内容になっている。あとあの多用される早回しなんなん? 演出がキモすぎる。普通に撮れ。お金と人は存分につぎ込まれていると思うが、紅楼夢ドラマとしてはおすすめ出来ない作品。
2024年映画版「紅楼夢之金玉良縁」
長い制作期間と莫大な制作費をかけて制作された劇場版。物語は例によって宝黛釵中心だが、物語人物ともに改編箇所が多くしかも新解釈まで取り入れている。これらが原作再現を期待したであろうファンの怒りを買い、大陸では爆死した。
とはいえ、宝黛推しの監督が自分の癖をありったけ詰めこんだ二次創作同人として観れば、かなりいい出来。ただし原作を何回か読み、かつ監督の癖や改編を受け入れられないと楽しめない。それ出す意味あるんか?なくらい一瞬しか出ないキャラ、お前らもちろん原作読んでるやろ?な前提で雑に流される場面の数々、恐らく一部の人にしか受けないであろう解釈、などタチの悪い二次オタ特有の創作感が随所に滲み出てるのも評価を落とした原因かな。キャストも批判されてたけど、演技は頑張ってたと思う。あと、音楽が凄くいい。
このほか、戦前に多数の映画作品あり。どれも未見で手元の情報も少ないので、またいずれの機会に。
初めての方にオススメなのは意外と「黛玉伝」あたりかもしれない。ドラマとしては長すぎず、目立った欠点がそんなに無いので。
出来の良さとしてはやはり87年ドラマ版、それから89年映画版が個人的な二強。
コメント
台湾版見ました!大丈夫、そんなに見なくても…な感じです(製作者さんすみません)。昼メロ風に感じてしまい、見終わるのが苦痛でした。ただ、林黛玉役の女優さんのスチールが写りの悪いものばかり流通している気がして。そこはすごくもったいないと思いました!そして王熙鳳がやや歳が上すぎた気も…。
金玉良縁紅楼夢も見ましたが、伝統に則り女優宝玉、そして林青霞のバタ臭い林黛玉。楽蒂とはまた別のベクトルでイメージではありませんでした。健康そうに見えるし(爆)楽蒂はまだ憂いが感じられたけど、この作品では林黛玉が単なるヒステリーみたいに…。
越劇紅楼夢30集ご覧くださって嬉しいです!周囲の越劇ファンてすら見てない人多数。こらっ司棋の話は良かったですね、子ども役者へのフォーカスなど、さすが越劇そのものが戯曲ならではだなぁと。この作品、基本は越劇女優さんの出演/演唱なのですが、なぜか肝心の林黛玉は昆曲女優の余彬さん、王熙鳳も別畑の方で、わざわざ他の越劇女優が吹き替えてます。
寧波小百花越劇団がメインで作られていて、薛宝釵や賈政はそこの看板役者さん(当時)、また越劇界スターの陳飛、呉鳳花(浙江紹興小百花越劇団)が薛姨媽や柳湘蓮と、劇団同士の軋轢とか…と裏話への想像も膨らみます
60年代の越劇版は歌は好きですが、今からすると確かに普通のビジュアルとしてはあれですね主演の林黛玉/王文娟老師、ご健在ですよ。すごい。紫鵑の孟莉英さんもですが90歳こえてお元気なのは王老師のみ、他の方は鬼籍に(年代的に当たり前)。
香港版は私も「これは武俠物をみている気分になりそうだぁ〜」と…そして話数は多ければ面白いとか、原作を活かせるわけではない!と感じたのでした…。
映画版北影紅楼夢、私も晴雯と史湘雲大好きです!見た目だけならCCTV版と同じくらい好き。こちらの史湘雲はさらに幼い感じで、晴雯はさらにお高く止まった感じなのが、いいなーと思いました。宝玉役の夏欽さんは、この抜擢なら越劇界で活躍してそうなのにこの後全然履歴がないなぁ…と探したことが有りまして、引退されて水着姿の写真がよく出てきます。ちょっとびっくりします。賈宝玉の女装水着…ではないですが。