【バーゲン本】目撃!文化大革命 特別付録:DVD夜明けの国 (DVDブック) [ 土屋 昌明 ] 価格:1,832円 |
岩波映画製作所による記録映画。文化大革命の初期における北京や瀋陽など中国東北一帯の生活や実情を、日本の撮影隊が半年に渡って取材、主に農村や工場での暮らしを通して、社会主義がいかに実践されているかを映している。
現代の我々は、この時期の中国がボロボロだったことは既に知っている。一九六六年といえばかの大躍進政策の終了か僅か五年、まだ人的被害は各地で続いていた。学校の歴史授業などで少しこの時代をかじった人々なら、本編で写されている人々の生活風景が、豊かな場所の一面を切り取っただけであることは理解出来るはず。より詳しい人なら「あ、これはヤバイ……」と感じる部分が多々あると思う。
だからといって、この作品を中国政府による社会主義のイメージビデオだ、と単純に切り捨ててしまっては何にもならない。
社会主義の目指すところは、現代の我々が求めていることと殆ど同じだ。貧富の差の解消、公共サービスの充実、男女平等……。ただ、理論ばかりが先行して、人間という生き物の実態にそぐわないから、いざやってみると失敗してしまう。
でも、社会主義が机上の空論だと人類がはっきり確信できたのは、ソ連や中国の実践があったからこそだ。この映画が作られた時代は、まだまだ社会主義に対する理想が根強く生きていた。確かに人類の歴史上でも類を見ない大失敗になってしまったけれど、未来を生きている私達は是非過去から学ばなければならない。
本作では、社会主義が本当に実行されている。例えば農村。彼らは農業だけに従事しているのかと思いきや、そうではない。当時の中国では人民公社といって、一つの村に政治・教育・商業・製造・医療・軍事と、あらゆるシステムを自給自足で行う組織体制を作っていた。つまり人民公社に属していれば、教育も医療も受けられるし、仕事や食事にも困らない!ということなのだけれど、現実はもちろん甘く無い。一人の人間が出来ることには限りがあるのだ。製造業に農業に医療にと、何でもかんでもこなせるはずがない。そんなことをやると専門性がガタ落ちして、中途半端な能力を持った人間ばかりが仕事に従事することとなる。また、何でもかんでもタダにしてしまうと、人々のモチベーションは確実に下がる。働いてもタダ、働かなくてもタダなら、殆どの人々は働かない方を選ぶからだ。
人民公社の有名な失敗の一つに、製鉄事業がある。知識も経験も無い農民が製鉄を行った結果、大量の鉄クズを生み出してしてしまった。しかも製鉄に従事したせいで、本来やるべき農業が疎かになり、収穫が出来なくなってしまった…。ちなみに人民公社のシステム自体は本作の頃にはもう破綻気味で、生産大隊として再編が行われている(主な変更としては、人民公社に帰属させていたあらゆる権利を、下部組織や人民へ一部返還した)。
前置きが長くなってしまったが、本作ではそれらの弊害をガン無視して、いいところだけを映している。農業の傍ら工業に手を出したり、男女問わず色んな仕事に従事したり、週に一度は毛沢東語録片手に政治講義をしたり。
上で述べた農民達による製鉄も出てくる。「何年か前、農民達は製鉄をした経験がある…」といったナレーションが出てきたが、これは明らかに大躍進時代のことを言ってるのだろう。本編ではもちろん、悪いことには触れていないけど。
一番面白かったのはやはり国慶節の場面だろうか。当時の中国のムードが伝わってくる。毛沢東語録を片手にスローガン唱和して行進する人々の姿に時代を感じる。
初期の紅衛兵の姿も印象深い。革命運動推進のため、部隊が各地に派遣されていたのだとか。都市部で弾圧運動をやっていたイメージなので、これは意外だった。肝心の運動内容については詳しくは紹介されていないけれど、持ち物に楽器があるあたり、革命劇を街頭でやったりしたのかな。どこの人民公社にも紅衛兵専用の接待所があったそうな。ボンボンの学生出身も多いだろうから、こういう施設が無いと音を上げちゃう気もする。
都市と農村の格差をなくす、というのは現代の中国に至っても大きな課題だけど、アナログな時代だけにその苦労も凄まじい。殆ど人海戦術と力業。山岳地帯の農村に娯楽や医療を届けに行くのに、車もつかえないから足で行く、とか…。いやあ凄いよ中国。
映像資料として、色々と見るべき価値のある作品だとは思う。