後宮詞華伝

後宮詞華伝 笑わぬ花嫁の筆は謎を語りき (コバルト文庫) [ はるおか りの ]

価格:649円
(2020/2/15 17:05時点)
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はるおかりのの中華小説。架空王朝の凱帝国を舞台にした後宮シリーズの一作で、本作は書がテーマになっている。

ものがたり
優れた書の才能を持つ李淑葉は、政略結婚で皇帝の兄・夕遼のもとへ嫁ぐ。しかし継母から長年虐待されていたせいで、夕遼にも愛想良く接することが出来ない。そのうえ、夕遼はもともと妹の香蝶を娶るつもりだったため、この婚礼自体に不満を覚えていた。冷めた婚礼生活を送っていたある日、淑葉は寂しさを紛らわすために字を書く。それを夕遼に見られてしまったのがきっかけで…。

中華後宮ミステリーという触れ込みだが、謎解き要素はさほど多くないし捻りも無い。キャラ小説として楽しむのがいいと思う。
陰キャヒロインの李淑葉がとてもいい味を出している。奥手で虐められててコミュ障で笑顔が浮かべられないなど、それらしい要素がてんこもり。硯や筆などのグッズに目を輝かせているのがいかにも陰キャオタクらしくて良い。虐めのシチュもグッズを取り上げられる、趣味を禁じられる、陽キャで姉のオタをバカにする妹がいるなど、この手のキャラには大ダメージなものばかりで大変よろしい(何が)。「(実家では虐められるので)離婚後も王府にいさせてください。妃ではなく使用人としてで構いません。針仕事でも掃除でも何でもします…」と泣きながら夕遼に訴えるシーンも卑屈すぎて見事。くーたまんねー。
反面、王子キャラの夕遼は割と損をしているかな。序盤の淑葉への態度はいくら何でも酷すぎた。諸々の誤解が解けすっかり仲良くなった中盤以降も、皇帝である嵐快がストーリーの中心になってしまうので、随分影が薄くなってしまう(一応、砂鳥姫との確執というサイドストーリーはあったが、割とテキトーに流されてしまうし)。そもそもキャラとしての個性が嵐快に負けてしまっているんだよなぁ。

後宮内の設定や、書に関する描写は作者の知識が感じられてグッド。というか、ここまで書けるならわざわざ舞台を架空中華にする必要もなかったのでは、と思う。ここらへん、シリーズ物として世界観の統一が必要だから仕方ないんだろうけど。実際の中国を舞台にしていれば、書家や書体についてより広がりを持った書き方が出来たんじゃなかろうか。もったいない。

ともあれ、キャラクター、ストーリー、設定どれもレベルの高い作品なのでオススメ。他のシリーズも機会があればレビューしていきたい。