金銭記

中国古典名劇選III [ 後藤裕也 ]

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元の喬吉による才子佳人劇。正式名称は「李太白匹配金銭記」。タイトルに出てくる金銭は、作中の縁結びアイテムになった五十文の開元通宝を示す。
過去に吉川幸次郎氏による翻訳があり、「中国古典文学大系」でも同氏の訳が収録されている。令和になってまた新訳が読めるなんて感激。

ものがたり
若き才子・韓飛卿は、天子の命令で世間の女子達が集う九竜池のお花見に顔を出し、そこで見かけた王府尹の娘・柳眉児に一目惚れしてしまう。柳眉児もまた韓飛卿を見染め、父から厄除けに渡されていた家宝の金銭を、こっそり再会の印として残していく。韓飛卿は柳眉児会いたさに王家の屋敷へ不法侵入をはかるも、とっ捕まってしまう。幸い、王府尹に学問の才能を認められ、家庭教師として就職。が、毎日柳眉児と会う妄想で忙しくまったく手が着かない。
そんなある日、王府尹と飲んだ時に家宝の金銭を持っていたことを詰問され、柳眉児との密かな恋がばれてしまう。罰せられているところに、友人の賀知章が現れて韓飛卿が科挙に及第したことを知らせてくる。王府尹は掌を返して娘を嫁がせようとするが、プライドの高い韓飛卿はその態度にイライラ。そこでもう一人の友人・李太白がとりなしたことにより、ようやく韓飛卿と柳眉児は結ばれるのだった。

コミカルでウィットに富んだ傑作の才子佳人劇。地位も学問もかなぐり捨ててひたすら女を追う韓飛卿の物語が面白いのはもちろん、作中の詞に出てくる多数の恋愛故事や風流人のエピソードが見物。
とにかく韓飛卿のキャラクターが見事。どれだけ痛い目にあっても恋に邁進する姿は笑えるし面白い。何だかんだ一流文人としての矜持もあり、科挙に合格した途端娘の結婚へ乗り気になった王府尹へは「あなたは私を散々虐めましたよねえ」と嫌味を言ったりする。そこも人間くさくて良し。暴走しがちな彼をフォローするのは、友人の賀知章と李太白。特に賀知章は面倒見のいいお兄さんでとっても癒やされる。
ちなみに想い人をゲットするため、彼女の住む屋敷で働くというシチュエーションは後代の才子佳人劇でも割と出てくる。有名なのはやっぱり「唐解元一笑点姻縁」だろうか。唐寅はめっちゃ真面目に働いてたけど、韓飛卿ときたら女の妄想ばかり。しまいには夢で女の幻に会おうとするほど。大分重症である。
また、出番が少ないのであまり目立たないけれど、ヒロインの柳眉児も、最初はいやいやで九竜池へ趣いたのにイケメンを見た途端夢中になって帰宅を引き延ばしまくる、お守りとして渡された家宝を平然と放り出す、などなど結構恋愛脳なお嬢さん。まぁ、昔は今と違って娯楽も少ないし、自由恋愛も無かったのだから、美男美女が偶然出会ったりするとそれこそ運命を感じてしまうんだろうなぁと思う。そんな主人の想いをうまい具合に汲み取る侍女の梅香も、短い出番ながらいい味を出している。

才子佳人劇の中でも傑作の部類だと思うので、気になる方は是非。旧訳と読み比べてみるのも一興だろう。

コメント

  1. 黄梅 より:

    この本わたしも早く買いたいです(^^ゞそしてそんな恋愛脳なバカップル?とは…唐寅、あんまり好きでないんですが(なにかとチート過ぎて)、潜入時には確かにまめに働いてて偉いなと思いました…