中国文学の歴史 元明清の白話文学 (東方選書 63) [ 小松謙 ] 価格:2640円 |
中国文学の歴史について、特に小説中心にその発展と受容を解説した本。
中国文学史を一言で表す時「漢文唐詩宋詞元曲明清小説」というフレーズが使われるように、本格的に小説文化が躍進したのは明代以降。
けれども、その前段階としてとても重要なのが金〜元代の散曲や雑劇。これが無ければ明での小説文化隆盛は起こり得なかった。本書の最大の特徴は、一章丸ごと使ってこの金・元代における小説文化への影響を語っている点。
詳しくは本を読んでもらえばいいので軽く流すけど、金〜元代で重要なのが
・文学を独占してたエリート層が異民族支配下で没落、庶民の芸能と迎合する
・物語が台本やネタ本として刊行されるようになる
・小説本が商品として出版・販売される土台が出来る
といったところ。専門書はともかく、より一般向けなスタイルでここらへんをわかりやすく解説している本は稀だと思う。
続く明代の章は、基本的な解説はもちろんのこと、ちょっと捻りのある内容が加わっていてこれまた面白い。メインで取り上げられている「三国志演義」と「水滸伝」が、特に戦術の指南や文官の武官軽視への反対メッセージを込めていた、という分析がとても興味深かった。
また、中国の古典名著の多くはその優れた文章によって評価されてきたわけだけれど、翻訳で古典を読む現代日本人には、文章のどこがどう優れているのかわからない、という人も多いと思う。本書はそこも丁寧に解説しているので、原文を読まずとも古典名著の文章がいかにスゴイものだったか、が理解出来るはず。
作中では多数の作品が紹介されてるけれど、有難いことに大半は翻訳がある。個人的に好きな「嬌紅記」に触れてくれたのは大変嬉しい。「救風塵」はドラマ「夢華録」の影響があるんだかないんだか、最近この類の解説書でも名前を見かける頻度が増えたような。
ちなみに清代はおまけ程度。「紅楼夢」も「儒林外史」もその気になったら解説だけで一冊作れちゃうからしゃーない。清の小説文化隆盛は明を凌ぐ勢いなんだけど、あんまりあれこれ語っても紙幅の関係もあるし著者側が本書で伝えたいことがぶれてしまうと思うので…。
中国小説史について詳しく知りたいなら是非買って損は無い一冊。また本書を読んでから演義や水滸伝を読むと、新しい発見が色々出てきてさらに古典名著を楽しめるのでは。お値段も手頃で、超おすすめです。