漫長的余生(果てしない余生)

果てしない余生 ある北魏宮女とその時代 [ 羅 新 ]

価格:5500円
(2025/6/26 23:12時点)
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魏晋南北朝時代の北魏後宮の政情について、一宮女でありながら墓誌の残っている王鐘児の記録を筆頭に、様々な面から解説した研究本。
東方書店さんのネット上の予告を見てからずっと楽しみにしていた。
帯でも宮女・王鐘児の波乱の生涯をプッシュしているが、実際は北魏後宮の制度・歴史に関する内容が中心で、王鐘児の話はそこまでメインではなく、ちょっとタイトル詐欺な気がしなくもない。
墓誌に記された彼女の生涯は形式的にまとめられた綺麗なもの(宮女としていかに立派だったか、という内容に終始している)で、それを読むだけでは影にある悲惨な背景を読み取るのは難しい。そのため、本編では王朝の動乱や後宮制度の事情を深掘りすることで、王鐘児の生涯の実像を浮かび上がらせようと試みている。それによって、確かに墓誌からだけではわからない王鐘児の人生も見えてくるんだけれど、やはりこういう歴史研究的アプローチだと人間の感情部分までを拾い上げるのは限界があって、一人の女性のはっきりした物語を読んだという感じにはならなかった(別に作者のやり方を批判しているんじゃなくて、史書というのはもともと事実を記すものだから、人間の感情面が深掘りされないのは当然で、そこを膨らませようとしたらもう創作に足を突っ込むことになってしまう)。伝わるかわかんないけれど「揚州十日(日記)」を期待して読んだら「嘉定屠城紀略(記録)」だったみたいな。
そもそも一般向けではないだろうし、学術的な本としては全然ありだと思う。
登場人物が多いのと、私自身も普段は宋代以降の本ばかり触れてるので歴史部分を追っていくのが大変だった。もうちょっと勉強しなくては…。「子貴母死」をはじめとした制度の仕組みや、他の時代にも負けない北魏後宮のドロドロぶりなどは興味深かった。
お値段もはるので簡単にはオススメできないけれども、この時代に興味のある方々は読んで損のない一冊だと思う。