小説同人誌「破滅派」十五合掲載の短編小説。現代物の収録が多い中で唯一中国が舞台の作品。文学フリマにて購入。人生に絶望した若き書生と、滅亡した小村の娘との恋を描く。
及第できずに腐っている若き書生、恋する幽霊、怪奇の背後にある歴史的悲劇……などなど志怪小説のお約束がふんだんに盛り込まれている。特色としては、志怪小説の幽霊は割とふわっとした理由で人間に近づいてくることが多い中、本作ではかなり重たくて凄惨な背景が用意されている。おかげで本当に怖さを感じさせる作品になっている。幽霊達の世界に安寧があり、現実の世界が過酷、という対比も王道ながら好印象。
八股文に対する愚痴や地理描写など、作中のあちこちで作者の深い中国知識が発揮されており、中国好きな読者なら唸らされること間違いなし。
ちなみに主要舞台となる白藤村の元ネタが実在しているのかは私もちゃんと調べていないので不明。でも、こういう事実か虚構かが絶妙にわからない案配で描かれているのも中国古典小説らしさがあって良い感じ。文章もくだけすぎず堅すぎず、とてもいい案配だと思う。
不満、というほどでもないのだけれど、物語がどこまでもストレートに進んでいくので、何かしら意外性のようなものがあればよかったかもしれない。
短いながら本場中国テイストを味わえる見事な作品。