西湖夢尋

西湖夢尋 (東洋文庫) [ 張岱 ]

価格:3,410円
(2021/9/11 22:21時点)
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明末の文人・張岱が杭州・西湖周辺の名所について詩や歴史を交えながら語った文集。
西湖といえば幽霊がよく出る中国古典小説屈指のホラースポット…じゃなくて、古来より中国文人達の心を惹きつけ続けてきた風光明媚な地である。雷峰塔や湖心亭、岳王墳といった名所をご存じの方も多いだろう。
張岱は裕福で学問もある名家の出身、若い頃は気の会う文人や妓女、変人と一緒に遊びまくっていたが、時悪く明朝は清の南下で滅亡してしまう。米が倉から出てくるものだとばかり思っていたスーパー金持ちは、自ら肥桶を担ぐような暮らしへ大転落。それでも明朝への忠義は失わず、清が中国全土を治めた後は山野で暮らした…と彼自身のエピソードだけでも非常に面白い。
そんな張岱の作品には、彼自身の壮絶な経験、科挙だけに縛られず広く収めた学問による豊かな教養、それらが渾然一体となっており、何度も読み返したくなる味わい深さがある。

本作では西湖一帯の名所について、過去から同時代までの有名な文人の詩や、張岱自身の詩を用いつつ紹介している。張岱は官僚を目指さなかったが、個人で史書を作るほど歴史に対する造詣も深く、中には建文帝伝説など、明朝が継続していたら書けなかったであろう逸話についても触れていたりする。
かつての賑やかさを失った杭州の市にまつわる一節は、同じく過去の繁栄をつづった東京夢華録や板橋雑記を彷彿とさせ、ほろりとする。個人的に気になったのは「小青仏舎」のお話。現代でも残っているのだろうか。調べてみたのだが見あたらなかった。あと、寺については焼失と再建、それから通俗古典小説のような逸話の紹介が多い。
一部の文は、彼の著作「瑯環文集」や「陶庵夢憶」と重複している。

これ一冊読むだけで杭州旅行に行った気分になれるので、コロナ渦な現在にはもってこいかもしれない。