国賊の母

中国現代文学傑作セレクション 一九一〇-四〇年代のモダン・通俗・戦争 [ 大東和重 ]

価格:10,780円
(2019/12/29 17:28時点)
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中華民国期の作家・王平陵の短編。中国現代文学傑作セレクションにて翻訳が掲載されている。
日中戦争の頃、さる村の治安維持会の長を務める張大雄は自らの保身のため、日本兵達に村の若者を次々と引き渡していく。張大雄の母親は、その中国人としてあるまじき非道な行いを阻止しようと奔走する。

王平陵という作家、私も本作を読むまでは殆ど知らなかったのだが、国民党系列の文芸グループに属して活動していたようだ。中国現代文学傑作セレクションでは、本短編の前に「民族主義文芸運動宣言」なるものが載せられている。これは当時の国民党文芸グループの文芸路線を明瞭にしたもので、要約するなら「作家同士バラバラのテーマで文芸活動するのをやめて、西欧諸国にならい民族主義を柱とした文芸活動をしよう!」といった感じ。
しかし主張の裏側には、この時期流行していたプロレタリア文学(左翼作家達)への対抗意識がある。中国政府が国民党・共産党の二派を形成して争っていたように、文壇でも両者が主導権を争っていた。文学を通じた活動で、知識人層の支持者を自陣営に取り込むのが本当の目的だったのだ。そんな情勢なので、文学も必然と政治的な色を帯びる。当時の知識人達が何を問題にしいていたかといえば、西欧列強や日本による侵略行為。ゆえに抗日ものがよく作品のテーマに選ばれたわけ。
本作もその典型例。お話は単純そのもの。文章がくどい。張大雄もわかりやすい悪役だし転向があっさりしすぎ。描いてあること自体は立派なお話なんだけれども、所詮抗日は建前で、プロパガンダが大目的だったんだろうな、という意図が透けて見えるから面白さも評価も半減する。もっとも、それは農村バンザイ労働者バンザイな人民文学をやってた共産党側だって似たようなもんだけど。こういう作品読む度、つくづく老舎や巴金は偉大な作家だったと感嘆する。

当時の文壇の雰囲気を知る、という意味では価値のある作品だと思う。

芙蓉千里

中華民国期のハルビンを舞台にした長編小説。作者は須賀しのぶ。少女小説畑の方だが、歴史背景の盛り込み方や文章のスタイルはなかなか硬派で、本格的な歴史モノを読んでいる気分にさせてくれる。

あらすじ
女衒に売られて中国大陸へやってきた辻芸人あがりのフミ。一緒に売られたタエと共に、彼女はハルビンの遊郭「酔芙蓉」で働くことになる。最初は表にも出れない下働きのフミだったが、ある時角兵衛獅子の舞を宴席で披露したことをきっかけに、体を売る女郎ではなく、芸を売る芸妓として頭角を現していく。月日が過ぎる中、フミはやがて大陸浪人の奔放な山村、貴族出身で芸術狂の黒谷、二人の男に惹かれていくのだが…。

まず舞台設定が素晴らしい。ただでさえあまり描かれない中華民国期、それも上海や南京ではなくハルビン、さらに主役が妓女。本作の面白さは、この設定によるところが大きいのでは。
中華民国期のハルビンは国際都市である。中国人だけでなく、朝鮮人も日本人もロシア人もいる。ゆえに妓楼を描くことによって、様々な階層、色んな種類の人間を描くことが出来る。徐々に征服者として振る舞う日本人、日本へ反感を大きくしていく中国人、国際情勢に巻き込まれる被害者の朝鮮人、国内の問題から別天地に希望を求めるロシア人、などなど。妓女達の暮らしも、国際情勢の変化によって大きく揺れ動く。そこにドラマが生まれるのだ。

主人公コンビのフミとタエもそれぞれに魅力的。不幸な過去をばねに、大陸一の女郎になることを目指すフミ。何事にも物怖じしない生き方がとにかく素敵。少女小説系の作品って、恋愛面では受け身な女性が多いけれども、フミはそちらでも積極性を発揮する。山村に対してはまだ子供の頃に「私を貰うって約束してくださいね(はぁと)」、黒谷に対しては「絶対私のこと惚れさせてやるから覚悟しとけや!」と迫る。なかなかいないぞ、こういう主人公。ラストにおける決断はホロリとさせられた。
もう一人の主人公・タエも非常に魅力的。中国へ渡ってきた時はすぐに折れてしまいそうなほど惰弱だったのに、どんどん逞しくなって客を弄べるほどの妓女になる。もともと目的意識も無く、フミのためにただただ頑張るというモチベーションだったので、これはもしや百合展開にでもなるのかと思ったけどそんなことは無かった。文庫版「芙蓉千里」の後には、タエが主役の短編が掲載されており、そこではロシア人貴族の息子との甘い恋愛が描かれている。ここでのタエは本当に普通の女子っぽい恋をしていて可愛い。

ちなみに本作はシリーズもので、続編が三編ほど描かれている。機会があればそちらも読んでみたい。
舞台が激動の時代だし、酔芙蓉では先輩妓女の死が相次ぐといった事件も起こるのだが、フミの前向きなキャラもあってか、ストーリーはさほど暗さを感じない。さわやかに読める作品なので、興味があれば是非。

武侠大幇会に参加してきました

年に一度の武侠迷イベント、第十五回武侠大幇会に今回も参加してきました!
今回、岡崎先生はご多忙のため欠席だったそうで、残念至極。とはいえ、懐かしの英雄女侠に沢山再会出来ました。ぶんぶん拱手しながら挨拶出来るのがめっちゃ楽しい。ずっと武侠もしくは中国ものでトークし続けられるのは本当に幸せっす。もちろん一次会だけでは物足りず二次会にも参戦。金庸館行きたくなったし、パチモン金庸作品が読みたくなったし、お会いした方々の中華創作も買いたくなったし、コスプレもしたいし、最近減少気味だったオタク成分をたっぷり補充出来ました。

さらに新しい出会いも沢山ありました。Twitterでちらほら名前を耳にしていたあの方が!あるいはずっと前にコメントを交わしていたあの方が!さらにはお仕事関係で繋がりまであった方が!あるいは、相手の方が私の名前を知っていたり…。リアルで江湖によくある「ご高名はかねがね」なやり取りが出来るんだから面白い。

毎回恒例のくじ引きでは、中国古典女子のトランプをゲット。タイトルが仕女(宮女)ってなってるけどフツーに柳如是とか紅楼夢のヒロインが混じってて選定がようわからん。あと、前から気になってたケン・リュウの翻訳作品もいただきました。いずれレビューを書きたい。
そのほか、昨年亡くなられた金庸先生にメッセージを書くことが出来ました。あれからもう一年経ってしまったとは、はやいなぁ。金庸作品も年々国内へ入ってこなくなってきているのが悲しい。近頃の作品だと2019年版倚天屠龍記はかなりの良作だったので、是非MAXAMさんに頑張って欲しいです。

皆様、楽しい一時をありがとうございました。是非また次回の大幇会にてお会いしましょう!