リメイクとしての仮面ライダー 「シン・仮面ライダー」と「仮面ライダー THE EIRST」

シン・仮面ライダー見てきました! めっちゃ面白かったです。
石ノ森章太郎の原作漫画およびTV版をかけあわせたリメイクな感じ。
ただ、なんというか、オタクとして力の入れどころが少しずれてるんじゃないか…というのが最終的な感想でした。
実は、本作以前に同じようなアプローチをした作品が作られているので、鑑賞後は頭の中でなんとなーく両者を見比べてしまいました。
そう、2005年公開の「仮面ライダー THE FIRST」です。続編の「THE NEXT」も含めて二作作られたのですが、こちらも石ノ森章太郎の原作漫画およびTV版の要素を盛り込んだリメイク映画でした。

どちらにも良い点、悪い点があるのですが、二作を比較しながら「シン」の感想を書いてみよう、ということで以下、だらだらと語っていきます。ネタバレ全開です。あと「THE FIRST」シリーズも視聴前提で書いてるのでご注意ください。

・本郷猛について
仮面ライダーとはどんな存在か。原作漫画およびTV版では、世界征服を目指す強大な悪の組織に、一人で立ち向かうヒーロー(一応、協力者はそれなりにいるにせよ)というのが、概ねファンの見解だと思います(ですよね…?)。孤高であるからこそ、本郷のヒーロー姓、改造人間としての悲しみが際立つわけで。
「シン」の本郷はこの点、あんまり満たしていなかったのではないでしょうか。特に前半、基本的に戦いを主導する立場にいるのはヒロインのルリ子で、本郷は彼女のボディーガード的な立ち位置に留まっている印象でした。そのうえ、アンチショッカーを標榜とする組織の人間達もなかなか優秀で、積極的にショッカーへ攻勢をかけるし、自分達で怪人も倒してしまうしで、これでは本郷のヒーロー性がどうしても薄まってしまいます。
翻って「THE FIRST」は、改造人間にされた自身を受け入れる時間も与えられず、周囲に理解者もおらず、そんな中でショッカーが次々に刺客を送ってくる、と本郷の孤高を物語の中できちんと演出していました。まあ、こちらも「シン」同様、ショッカーへ挑んでいく理由が惚れた女を助けるため、という個人的な動機だったのですが(二作目のNEXTでは、前作よりり作中年月が経過していたためか、考え方もただ人類のためにショッカーを倒す、というヒーロー的な理由になってました)。
なので、本郷猛の再現としては「THE FIRST」の方が原作にもTVにも近かったのでは、という気がします。
ちなみにライダーのビジュアルはどっちも好きです。

・ショッカーについて
正直「シン」がショッカーの設定をがっつり改編したのには驚きでした。「シン」のショッカーはシンプルな世界征服をたくらむ悪の組織、ではありません。ここは変にあれこれ理屈をつけ加えて欲しくなかったなぁというのが正直な感想。世界的な組織にも関わらず、創設者絡みの話が絡んだせいで、妙にスケールの小ささを感じました。
あと、怪人達のハイテンションなイカレぶりは明らかに失敗だったと思います。原作にあった怪人たちの不気味さって、そういうとこじゃないだろ~、と。グロテスクな暴力演出もねえ。血が出るとかじゃなくて、人が溶けるとか、顔中に不気味な痣が浮かぶとか、初代のホラー演出だったと思うのですが。やたら説明的な台詞も何だかな。けれども、生物感とメカニカルな感じをかけあわせたデザインは凄くよかったです。
「THE FIRST」におけるショッカーの設定は、ほぼ原作そのまんまです。怪人達は狂気を感じさせながらも抑えた演技をしていたと思います。が、スネークやコブラといった、善人をベースにした怪人の悲劇をきちんと描ききれなかったと思います。正直、ストーリーの後味を悪くするだけで作劇上何のプラスにもなってませんでした(本郷達はスネークやコブラが、もとは完治出来ない病に冒された少年少女だと一切知らないまま、ただの怪人として倒してしまう)。さすがに制作陣も失敗だと思ったのか、続編の「THE NEXT」は同じパターンを踏襲しつつも、もう少しうまい感じに話をまとめてました。
悪の組織としてのスケール感は、複数の幹部が出てきたり、社会の中で暗躍している感じが描写されたり、原作とテレビに通じる再現度でした。

・戦闘演出
「シン」の戦闘演出は、初代のリスペクト+アニメ的な構図やカットの多用です。戦闘ポーズをとった時の効果音、戦闘している場所(ダムとか工業地帯とかトンネルの中とか)、飛びかかってくる戦闘員のカットとか、空中のトランポリンジャンプとか、初代仮面ライダーを見てる層には涙チョチョ切れそうな描写ばかりです。
けれど、リスペクトばかりではなく、初代の特撮では技術不足で出来なかったかっこよさの追求も徹底しています。サイクロンの変形とか、ライダーの凄まじい跳躍とか、このあたりは監督のオタク的なこだわりが全開でよかったですね~。怪人は爆発で締めてほしい気持ちもあるんですけど、作劇の都合上、あの死に方が合ってるし、これはこれでアリかな。
ラストの流れも最高。ダブルライダーはやはり燃える。「本郷!」「一文字!」やっぱコレよ。サイクロン号を犠牲にしてボスとの格差を打ち消す展開もアツい。そういえばマスク越しの流血や、マスクが落ちる演出って、漫画やTV版ではなかったような。これはもしかすると「THE FIRST」のリスペクトなんですかね?
「THE FIRST」は、決して嫌いじゃないんですけど、アクションに外連味が無いんですよね…。リアルだけど地味です。ファイティングポーズをとったり感情が高ぶると、瞳が光る演出があったり、いいところも色々あるんですが。あと、音楽とかもね。やっぱ戦闘でレッツゴーライダーキックのテーマが流れると、それだけで燃えちゃうのよ。「THE FIRST」はこういうところのリスペクトがやっぱり足りなかったかなぁという感じ。OPはそのまま使ってたけどね。

・一文字隼人
「シン」にしても「THE FIRST」にしても、どうしてこんなキザ野郎になってしまうんでしょうか?一文字隼人。設定というか経歴についてあまりちゃんと説明しないのは両作品とも同じ。まぁ、これは急遽撮影事故でリタイアした1号の代打で登場した初代にしても同じかもしれんけど。
それでも、2号キャラは基本的においしいところを持っていくのでやっぱかっこいい。特に「シン」の台詞「お見せしよう」「変身」「ショッカーの敵 人類の味方」とかもう最高ですよ。そして原作漫画同様、本郷の意思を次いで戦う決意をかためるシーンも素晴らしい。
「THE FIRST」シリーズの一文字は、リジェクション(改造人間にされた者は血液交換をしないと苦しみに襲われる)に命を削られながら本郷のピンチに駆けつけるという、原作にはなかったアプローチを一から作り上げてヒーローらしさを演出していて、これまたいい感じでした。

・物語
「シン」は…これは言っちゃあなんだけど、緑川ルリ子を話の中心人物に持って行き過ぎたと思います。彼女の存在によって、どうしても本作の戦いがショッカーVSルリ子になってしまい、主役であるはずの本郷が脇へ追いやられてるように感じました。怪獣が主役のゴジラや、異星人がヒーローのウルトラマンなら、あくの強いヒロインがいても作劇上問題なかったのでしょうけど、本作の場合は別です。本郷猛という人間がいて、彼が改造された悲しみや組織の反逆者という立場を背負いながらもヒーローとして戦っていく姿を見たかった。いや、本作も一応そういう筋書きにはなってると思うんですけど、いかんせんルリ子に尺が省かれ過ぎ…。下手すると、本作におけるショッカーの設定絡みもこのルリ子によるところが大きいような。ルリ子のキャラ造形自体は良いし、浜辺さんの演技の素晴らしいのですが…。やはり本郷をもっと話の中心へ据えるべきだった、というのが感想かな。
実は「THE FIRST」もヒロインで損をしてる作品だと思っていて、あの緑川あすかというキャラをもっと魅力的に描いていれば相当名作になっていたと思います。助けられても逆恨みしたり、変に話をこじらせたり、本郷は彼女のどこに惹かれたのやら…。メロドラマみたいなものにも無駄に尺を使うし。続編であすかが出てこなかったことで、本郷が見事にヒーローをやっていたので、余計にそう感じてしまいました。

ネットのレビューもちらほら見たのですが「シン」は賛否両論気味ですね…。
個人的には続編が出来たらまた評価変わりそう。本作の設定を踏襲したら、原作漫画の最終回みたいな話にはならない気もしますが…どうだろう? というわけで第2号ライダーの続編を作ってくれ~!

狐村滞在記

よくこのブログで紹介している、ひつじ書房さんの「中国現代文学」シリーズの短編作品。
僻地の診療所を舞台としたホラー小説。
感想を書くのにネタバレが避けられないので、先に読んでおきたい方はバックしてください。

 

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感想(0件)

ものがたり
李小琳の現代ホラー小説。二万元の報酬につられて、人里離れた狐村の診療所へやってきた若き女医・小杜。ところが、その診療所は薬の処方といい治療の仕方といい、小杜がつとめていた病院とはどこか違っていた。慣れない田舎暮らしと、診療所をとりまく癖の強い人物達。小杜の違和感は次第に大きくなり、やがて診療所の恐るべき実態を目にする…。

以下、ネタバレ感想

 

 

 

 

 

 

 

 

診療所の裏では若い肉体を解剖して臓器売買らしきものが行われていた…というオチ。一応、田舎暮らしに疲弊して疑心暗鬼になった主人公の妄想、という可能性もあるけど。
人肉とか臓器提供とか、現代でもこういう話にリアリティを出せるのは凄い。まあ、実際それらが中国社会で本当に横行しているかは別として…。
中国の田舎って、日本と比較してもホラーな雰囲気を作れる未開の場所が沢山ある気がする。都市部を離れたら滅茶苦茶交通の不便なところはまだ多いし。ちなみに、本編の舞台になっている狐村は架空の村だそうな。
窮地に陥っても金への執着は捨てきれない小杜(こういう逞しいところ好き)、三輪タクシーとの値切り交渉、都会と田舎の落差、こういうあたりの描写も今時の中国小説ならでは。

以前紹介した「明光書店奮闘記」も含め、この中国現代文学21巻は良作揃いなのでとてもお勧め。

上海灘 1980年周潤發版

1908年制作。TVBの連続ドラマ。全25話。中華民国期の上海を舞台に、黒社会の闘争を描く。
周潤發(チョウ・ユンファ)という大スターの出世作。本作がなければ後の香港ノワールも無かったのではなかろうか。YouTubeで全話が配信されていたので今回視聴。北京語だったので音声はオリジナルじゃないかも。以前、2006年の新上海灘を見ていたので、リメイクもとである本作もずっと見たいと思っていた。
で、結果は大満足。歴史に残る名作だと思う。黒社会の生き残りをかけた争いや、男達の友情、そこに関わってくる女性達、どれも濃厚で見ごたえがあった。葉麗儀が歌う主題歌も素晴らしい。

ボリュームのある新版(全四十話ほど)を先に見ていたせいもあるんだろうけど、物語の展開が滅茶苦茶早い。文強はあっという間にのしあがったかと思えば事件に巻き込まれてやくざを引退、それから家族を得るも平穏は続かず、復讐ため上海に舞い戻り…と展開が忙しい。ラストも怒濤の展開続きで凄い終わり方。脇役はその回に出てきたかと思ったらどんどん死ぬ。特に幇の部下キャラとかはみんな似たような見た目と名前なのでなかなか記憶に残らない。アクションはテレビスケールなうえに時代も古めなのであまり見ごたえはないけど(ホアッとかハイッ、とか叫びながらカンフーやってるのが微笑ましい)、容赦なく人が死ぬのでなかなか緊張感がある。

撮影はセットだけでなくオープンも多め。そのせいか画質の差が激しい。祖界が舞台なので敵役として日本人も出てくる。セットとかはそれなりに日本っぽさが再現されてる…と思う。しかし「味の素」とか「山口香子(李淑蘭)」って…ほとんど実名だけど出しちゃっていいの? 今の時代でやったら間違いなく訴えられそうだ。
ちなみに続集があるんだとか。周潤發も趙雅芝もいなくなったのに?と思うんだけど気になるので、いずれ見てみたい。

以下キャスト
許文強/周潤發
主人公。かつて北京で学生運動をしていたが、恋人の死と入獄で挫折。その後上海にわたり黒社会でのしあがっていく。知力武力も相当なもの。無駄な血は流したがらない主義だが、弟分である丁力の暴走や、仕えている馮敬堯の悪巧みに巻き込まれ、黒社会の深みにはまっていく。あと、女性絡みは結構心の弱さが出る。
演じる周潤發がとにかくイケメン。長い手足と背の高さでスーツがよく似合いアクションも映える。もう帽子を被りタバコをふかしてるだけで絵になる。顔立ちもまさにインテリヤクザといった感じ。リメイク版の黄暁明が演じる許文強も素晴らしかったけど、それもやっぱりこの周潤發版があってこそだったんだなぁと思う。

丁力/呂良偉
もと貧民街の梨売り。根は単純だが誠実で恩義に厚い。許文強の手引きで黒社会に入り、以後は兄弟としてのしあがっていく。最初は上流階級や裏社会のルールに不馴れだったり、猪突猛進気味な姿勢が災いしてトラブルを起こすこともあったが、文強と別れて自立してからは武力だけでなく知略も駆使する一流のやくざに成長。自分を引き立ててくれた馮敬堯には恩を抱くものの、次第に文強と同じく彼のやり方に疑問を抱いていく。家庭では自分が嫌悪した父親と同じくDV気質な面があり、女関係も文強に比べ荒れ気味。母親には頭があがらない。

馮敬堯/劉丹
表の顔は上海の名士。貧乏からのし上がったため彼を純粋に慕う者も多い。が、裏では黒社会にもコネクトを持ち様々な陰謀をめぐらす。娘や客達の前で見せる紳士的な穏やかさもあくまで作り物、実際は陰湿で怒りっぽく、歯向かう部下や競争相手は徹底的に潰す。また利権のためなら敵国である日本人と組むことも厭わない。そんな諸々が災いして、許文強の離反、そして報復の対象に。とはいえ、娘に対する愛情は本物。演じる劉丹の演技がとにかく素晴らしい。

馮程程/趙雅芝
馮敬堯の一人娘。文強と恋に落ちるが、黒社会の争いが二人を引き離していく。演じるは往年の名優、趙雅芝さん。この人はほんと昔から顔が変わらないな。
世間知らずのお嬢様が父の悪事や社会の変化を通し、一人の女性として自立していく様が良かった。終盤ではひたすら戦うばかりの男達にはない心の強さを見せてくれた。

方艷芸(方艷雲)/林建明
上海社交界の花。許文強の学友でもあり、ことあるごとに手を貸す。戦いの中で親しい人達を失っていった文強にとって、数少ない心の拠り所だったが…。
新上海灘ではメインヒロインの一人だったが、本作ではちょっと出番は少なめ。ボリューム盛った髪型と、サテンつやつやなチャイナドレスが時代を感じさせる。最近のドラマ、こういうのあまり着なくなったよね?

蘇旺娣/景黛音
香港へ逃れた許文強が出会った女性。その清貧な生き方が荒んでいた文強の心を癒やし、やがて深い仲で結ばれる。しかし…。
演じる景黛音さんは色んな武侠ドラマのサブヒロインで有名。まあ要するに当て馬ばかりなんですが。

山口香子(李淑蘭)/歐陽珮珊
日本軍の女スパイ。馮敬堯と結託して上海における日本の利権拡大を狙う。武術に優れるほか、変装の名人らしいが身につけている腕輪のせいで結構正体バレバレ。
元ネタは言わずもがな。80年代ならご本人も存命中でまだまだお元気だった頃だけど、クレームにならなかったんだろうか。

陳翰林/湯鎮業
愛国心溢れる青年。程程の学友。混乱を極める上海の中で刑事になり、若干向こう見ずながらも悪事の摘発に動く。文強には程程を挟んで対抗心を抱いていたが、次第に心を許す中に。演じる湯鎮業さんは古装だとインテリ文人役が多め。本作も時代がシフトしただけでそのまんまのイメージ。

劉明/林文偉
精武門の高弟。掌門の死後は弟子達を率いる。文強とは一時敵対したが、日本人撃退をきっかけに協力する。精武門は銃がものを言う時代にカンフーを使い、また日本人の策略にあっさり引っ掛かってやられていくので何だかみんなお間抜け。暇な時はやたらトランプとかで遊んでるのも呑気な感じ。

聶仁王/黄新
上海の名士。馮敬堯とは敵対している。文強が馮敬堯への復讐をする際は手を結んだ。馮敬堯よりまともかもと思われたが、闘争を勝ち抜くのに手段を選ばぬ点では似たり寄ったり。

長貴/廖啟智
貧民街の青年。文強と丁力を慕っている。丁力のつてで部下になり、終盤はすっかり馴染んでいた。