それからの三国志(上(烈風の巻)) (文芸社文庫) [ 内田重久 ] 価格:638円 |
日本では吉川版を始めとする創作三国志の影響か、諸葛亮死後の三国模様はよくスルーされてしまう。それまでの主要人物がいなくて寂しい、物語的に面白くない、などファンそれぞれの主張はあるが、本作はそんないまいちスポットのあたりにくい統一までの三国志について、小説仕立てで紹介している。
ちなみに中国の通俗古典小説を読み慣れていれば、原作である三国志演義の諸葛亮死後~晋統一も別に出来が悪いとは感じないように思う。「諸葛亮死後がつまらない」の意見は、あくまで日本人の創作した三国志ものにしか触れていないファンが、演義をよく読まずに下している評価、というのが私の印象。
あとがきによると作者は在野の研究者?らしく、それだけに論文や研究本のように内容が堅くならず、ライトな三国志好きにも読みやすい作り。章ごとに各国の主要人物を視点として(蜀なら姜維、魏なら司馬兄弟など)、三国統一までどのような歴史の流れがあったかを語っていく。特に物語ではスルーされがちな各国の政治や経済についても詳しく触れられているのは良いところ。結果的に統一は果たしたものの、何だかんだ屋台骨が結構脆かったのでは、と感じさせる魏の内情もよく描かれて面白い。個人的には病をおして反乱鎮圧に向かう司馬師と、都を守る司馬昭の兄弟愛に胸が熱くなった。
もっとも、作者は本流の研究者でもなければ小説家でもないので、歴史公証や物語描写などでいちいち細かな不満が出てしまうのはやむを得ない。あと、魏呉蜀の話の配分にやたら偏りが生じているのも気になる。多分作者は蜀(というか姜維)が好きで、その彼の魅力を伝えるには宿敵にも詳しく言及しなければならないから魏へページが費やされている。そのあおりを食らってか、呉については明らかに深掘りが足りない。有名な陸抗と羊祜のエピソードくらい載せて欲しかったし、呉の最期の奮戦についてもあっさり過ぎ。このあたり、研究者ならもっと配慮があっただろうし、小説家なら盛り上がりの目のつけどころとして外さない場面だと思うのだけど。
とどのつまり、本作の問題は諸葛亮死後の三国志を楽しみたいなら演義でいいよね、の域を超えられていないところではないだろうか。研究書として読むにはバランスが悪く、物語として読むなら演義の方がよく描けている。
それでも、現代人向けにわかりやすく三国の終末を紹介した良書だとは思う。諸葛亮の死後で三国志がストップしてしまっている方々は是非どうぞ。