金庸徹底考察 天龍八部 主人公編 虚竹

【中古】 天龍八部(8) 雁門悲歌 /金庸(著者),土屋文子(訳者),岡崎由美(その他) 【中古】afb

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金庸作品「天龍八部」に登場する主人公の一人。その出番は物語も後半に入ってからとかなり遅い。

劇中の活躍
大事件の連続で荒れまくっている武林。少林寺もその災厄を逃れることは出来ず、乞幇の新幇主から武林第一を競う挑戦状を叩きつけられていた。少林寺は各方面へ、本件に関する知らせを届けることに。虚竹は一門でも末弟子にすぎなかったが、人手不足のため初めてのおつかいに。
下山早々、道中で出会った墓容家の家臣達に絡まれる。そんなところへさらに武林を騒がせている悪人・丁春秋と出くわしてしまい、彼ら一門の争いに巻き込まれてしまう。丁春秋は同門の弟弟子・蘇星河が珍瓏大会で後継者選びをしていると知り、一門の奥義を奪い取ろうともくろんでいたのだった。折しも、珍瓏大会には四大悪人や慕容復をはじめとする武術の達人がズラリ。しかし、誰一人として珍瓏を解けない。四大悪人の頭・段延慶が珍瓏に惑わされて自害しかけると、虚竹は慈悲の心を起こして局面に割って入り、彼の命を救う。段延慶はその恩返しとして、自ら虚竹に助言を行い珍瓏を解かせる。蘇星河は虚竹を認め、彼を師の無崖子がいる部屋へと案内する。無崖子は虚竹を騙してその武功をすっかり奪い去り、代わりに自分の七十年分の内力を与えて無理やり弟子にしてしまった。そして丁春秋討伐を約束させて息絶える。蘇星河も直後の丁春秋戦で命を落としてしまい、虚竹は途方に暮れながら各地をさまよう。
途中、金庸屈指の小悪魔・阿紫に肉を無理やり食べさせられたりしながらの道中、天山童婆殺害をもくろむ豪傑達の集会に出くわす。そこで一人の少女が殺されそうになっているのを見つけ、思わず助け出す虚竹。ところが、その美少女こそ豪傑達が恐れる天山童婆その人なのだった。若返りという特殊な体質を持つ彼女は、もとの年齢に戻るまでの九十日間、武功が失われてしまうのだった。虚竹が無崖子の弟子であると知った童婆は、自分のボディガードをするように要求し、その代わりに技を教えることを提案。だが、虚竹は彼女があまりにも外道なのでドン引きしてしまう。そんな矢先、童婆の妹弟子である李秋水が現れ、危うく二人は殺されそうになる。必死の逃亡で西夏宮殿の氷室に隠れた二人は、そこで武術の修行にいそしむ。虚竹が頑なに戒律を遵守するので、ブチ切れた童婆は西夏の姫君を連れて来て虚竹と一晩を一緒に過ごさせる。思わず戒律を破って卒業してしまう虚竹なのだった。虚竹は姫を夢姑と呼び、彼女に会わせてもらう代わりに童婆の修行に励む。童婆は順調に力を回復していたが、ある日李秋水が二人のいる氷室を襲撃。激闘で姉妹は共倒れになってしまう。童婆の遺言で、虚竹は霊鷲宮の主人を受け継ぐ。その霊鷲宮は、天山童婆討伐をたくらむ豪傑達の襲撃を受けていた。虚竹はその現場に乗り込み、その場にいた段誉の助けも借りて豪傑達から霊鷲宮を取り戻す。段誉と意気投合した虚竹は、彼と義兄弟の契りを結ぶのだった。
虚竹は豪傑達に植えられた童婆の生死符を抜き取った後、少林寺に戻る。自らの罪を懺悔する日々を送っていると、突如少林寺の絶技を狙う外部の達人が次々に押し寄せてくる。少林寺の七十二絶技を立て続けに披露してみせた鳩摩智に圧倒される少林寺首脳。しかし虚竹は、鳩摩智の七十二絶技が逍遥派の内功をもとにした偽物だと見抜き、彼に戦いを挑む。この激闘は、霊鷲宮の女子たちが乱入したことで引き分けに終わった。折しも、丐幇や星宿派をはじめ少林寺のふもとには豪傑が大集結、ついには簫峯までが姿を見せた。虚竹は段誉・簫峯と改めて義兄弟の契りを結び、因縁の敵丁春秋に立ち向かい、とうとうこれを破った。乱戦の中で、少林寺の玄慈方丈と四大悪人の葉二娘が自分の実の両親であったことを知る。そして二人とも騒ぎの中で命を落としてしまうのだった。虚竹は結局少林寺に戻ること叶わず、段誉の西夏公主嫁捕りについていく。しかし、その公主こそ思い焦がれていた夢姑であり、再会を果たした二人はついに結ばれた。
しばらく時を経て、簫峯救出作戦に参加。段誉と共に遼皇帝を捕らえるなどして活躍するが、簫峯は遼の南進を食い止める代わりに自らの命を落とす。全てが終わると、虚竹は段誉達と共に帰路へ着くのだった。

人物
後半主人公の一人。天山童婆征伐~少林寺戦あたりの話は彼が中心となって進む。気弱、ブサメン、平凡な武術、金庸屈指のかませ流派である少林寺の出身など、どっから見てもモブ設定なこのキャラクターが主役の一人として活躍するなど、初見で誰が想像出来ようか。これも金庸作品のお約束無視が多い天龍八部ならではだろう。とはいえ、天山編以降のストーリーは濃い連中が次から次へと現れるので、大人しい虚竹はその中に埋もれがち。そこらへんは金庸主人公らしいといえばらしい。また義侠心もあり、屁理屈こいて全然人のためになることをしない少林寺「玄」の字世代の達人連中よりずっと立派だと思う。同じ主人公勢でも、ストーカー行為のついでにしか義侠心を発揮できない段誉なんかよりずっと好感度は高い。
簫峰らに負けず劣らずの不幸体質で、のっけから悲惨な目に遭いまくる。自分の帰属していた居場所を奪われ、武術を奪われ、信仰を奪われる。ついでに貞操までも奪われる。あ、これはまぁいっか。数々の破壊を乗り越えた先に待っていたのは、他の人間が得ようとしても得られない地位や武術、伴侶だったが、果たしてそれは虚竹自身が望んだものだったのか……。登場が遅いこともあって、出番の尺は段誉や簫峰より少ないのだが、虚竹の背負っている物語は彼らに負けず劣らず濃いものだと思う。欲をいえば、西夏公主をゲットした後の日常なんかについても詳しく知りたかったところ。

武功
初期はモブキャラ程度の実力しか持たなかったが、珍瓏を解いたことで無崖子からスーパーな内功を、天山童婆の指導でスーパーな奥義を授けられ、あれよあれよという間に作中屈指の実力者へ昇格。虚竹は自分を無能だと思っていたようだが、天山童婆からの修行もサクサクこなしており、それなりに武術の素質はあった模様。また経絡についての知識から童婆の特殊な体質を見抜くなどして、彼女にも感心されている。日頃仏典を読み込んでいるおかげで暗記も得意、修行に必要な口訣もすらすら覚えていた。同じくスーパーな武功を手に入れてしまう段誉の場合、パワーアップ手段が色々卑怯すぎて納得いかなったが、虚竹は一応名門の弟子だし、修行シーンもきちんと描かれているのでまだ説得力がある。
少林寺出身に加え、本人の穏やかな性格もあって争いごとを好まず、実際の戦闘では実力を出し切れないことも多々。それでいて丁春秋や鳩摩智らと渡り合っているんだから相当なもんである。最終的には逍遙派三大達人の内功を得たうえ、生死符をはじめとした極悪技も修得したので、主人公三人の中では最も強くなったのではなかろうか。武術に関しては何でもござれな逍遥派のスタイルもあって、いつの間にか人の目玉を移植できるほどの医術マスターにもなっていたりする。逍遥派、はっきり言ってインチキレベルで強すぎる。

少林寺武功
幼い頃から学んでいる。が、実力はかなり下の方だったようだ。作中では内功を無崖子に抜き取られてしまった。外功は下級の弟子が学ぶ「羅漢拳」「韋駄掌」を少林寺の鳩摩智戦で披露。しかし技の性能不足もあって鳩摩智には対抗できず、結局天山派の技に切り替えている。

北冥神功
無崖子に与えられた内力。その力はなんと七十年分。真気により卓越したジャンプ力や攻撃力を得られる。これにより松ぼっくりを投げるだけで人を殺すことが可能となった。また防御力も自然とあがり、丁春秋の毒技をも跳ね返している。内力の質は段誉と同じだが、内功を吸い取る技を会得していないので能動的に他人から内力を奪うことは出来ない。が、作中では天山童婆と李秋水の内力を二人から同時に送り込まれることで吸収している。

天山折梅手
天山童婆直伝の掌法。僅か六手だが、これらを組み合わせることで天下のいかなる技も解くことが出来るというチート技。無崖子から受け継いだ内力もあってか、さほど苦労せずに修得。ただし極めるには当人のセンスも必要で、かなり奥が深い。霊鷲宮の洞窟にも奥義として刻まれ、配下の四つ子達が学ぼうとしたが、深淵過ぎて会得に至らなかった。作中、虚竹はこれを用いて卓不凡や崔緑華といった達人の得物を軽々と奪い取ってみせた。

天山六陽掌
天山童婆に授けられたもう一つの掌法。童婆は李秋水を一緒に倒す魂胆で虚竹に教えようとしたが、拒まれたので生死符を解く方法と偽って伝授した。強力な掌法だが、折梅手に比べるといまいちどういう技なのか実態がはっきりしない。虚竹の使い方もあるのだろうが、もっぱら防御で威力を発揮している。が、丁春秋戦の描写を見る限りかなり鋭い攻めの技もあるらしい。李秋水戦では習得から間もないにも関わらず使いこなし、相手の掌力をかき消してしまった。

生死符
天山童婆直伝の必殺暗器。撃たれた者は苦しみ抜いて死ぬ。術者にしか解くことは出来ず、いったん当たったら基本的に手の施しようがない。その正体は何と氷のかけら。陰の気を用いて手中の水分を氷に変じるらしい。撃たれる側にしてみれば、ほぼ無形無臭の暗器そのもの。超卑怯。
極悪技ゆえか、虚竹が作中で用いたのは丁春秋戦のみ。この時は酒を媒介にして打ち込んだ。加減がわからず打ち込み過ぎてしまい、丁春秋に想定以上のダメージを与え、決め手となった。

人間関係
簫峰…義兄。…なのだが、兄弟の契りは段誉が勝手に結んだものであり、少林寺の戦いまで当人達が会うことは無かった。そんなんでいいのか。三人がそろった時は既に物語も終盤であり、絡み自体少なかったりする。一応、ともに少林寺の武術を学んだという接点はある。もともと簫峰は江湖の有名人だし、虚竹も面識は無いにせよ名前くらいは知っていただろう。

段誉…義弟。珍瓏以来のつき合いで、出会った当初からお互いに妙なリスペクトを抱いている。天山童婆の一件で義兄弟の契りを結んだ時は、二人とも相手が自分の想い人を好きだと勘違いしていた。天然同士という意味では、まあ馬が合うのだろう。

慕容復…虎竹自身は無自覚ながらも、慕容復の野望をことごとく潰している。

慧浄…虚竹の師匠。弟子に似て優しい人物。影薄し。

丁春秋…星宿派のボス。虚竹にとっては恩師達を殺された因縁の相手。少林寺で手を交えた際には修行の成果もあって圧倒した。

無涯子…第二の師匠。虚竹に自らの内力を与え、逍遙派の未来を託す。丁春秋討伐を命じて命を落とした。イケメンじゃないと妹弟子が技を教えてくれないだろうと変な懸念をしていたけど大丈夫だった。

天山童婆…無涯子の姉弟子。虚竹にとっては実質的な第三の師匠。無涯子の遺言に従って武芸を指導するが、その実態は修行というより虐待に近かった。虚竹のことはその義侠心、名門出身ゆえの知識を高く評価している。

霊鷲宮の配下たち…全員女。童婆の死後、虚竹の配下になる。虚竹なよなよしているので半ばなめてかかっていたが、その優しさや童婆をも上回る優れた武功を見て心服していく。

李秋水…師叔。彼女と童婆の争いに割って入った結果、虚竹は二人の内力を吸収する。

夢姑…西夏の公主。天山童婆の悪巧みで虚竹と何日も体を交える。暗闇の中だったので、お互いの顔も正確に認識していなかった。正体を明かしたら夢が壊れるからと、お互いに「夢郎」「夢姑」の名で呼び合う。なかなか電波な娘だ。後、嫁取りを行って正式に結ばれるが、虚竹は地の文でも言及されているようにブサメンの部類である。公主はそこらへん気にならなかったんだろうかと邪推してしまう。

玄慈…少林寺の方丈。後半で実の父だったことが発覚。スキャンダル過ぎだぜ方丈。

葉二娘…四大悪人の二番手。後半で実の母だったことが発覚。あんまりにも急展開過ぎてポカーンとさせられる。

段延慶…四大悪人のボス。珍瓏で虚竹の無心の一手に命を救われ、彼に珍瓏を解かせることで恩を返した。