金庸原作武侠小説「射鵰英雄伝」の2024年ドラマ版。鉄血丹心はもともと名作と名高い83年ドラマ版の副題だが、本作ではそれがメインタイトルに用いられている。
以下、ネタバレ含みで感想。
ストーリーは概ね原作通りながら、30集しかないためかなり省略されている。かと思いきや原作未読の視聴者へのフォローなのか要所で過去回想が挿入される。ところがこれが曲者で、入れるタイミングが悪かったり、長ったらしくなって本筋の方が置き去りにされたり、あまり演出としてうまくない。特に14話のラストで桃花島から出発したくだりなど、次話でいきなり明霞島の遭難場面から始まるので「あれ? もしかして一話くらい飛ばしちゃった?」と誤解してしまった(しばらくして遭難の回想が入るんだけど、普通に時系列順でやっても問題無い場面だと思うし、何より西毒北丐のバトルが雑に流されてしまったのが不満…)。
また、物語の展開が早すぎるせいで、原作の名シーンも感動がそれぞれ薄らいでしまった。特に江南七怪の死や蒙古軍遠征の話は序盤をごっそり削ってしまった影響がもろに出ている。大理の四高弟の試練とか、テムジンの血族争いとか、削って正解だと思うシーンも無くは無いけど…。
アクションはCG過多の最近には珍しく生身多めでいい感じ。けれども一つ一つの戦闘シーンが短すぎ。特に煙雨楼戦で北斗陣が数十秒と持たず破られたのはあんまりだと思った。そこはもう少し盛り上げるとこやろー!
ちなみに、何故か梅超風関連のバトルだけは時間もじっくりとられてて充実してた感じがする。
内功修行や陣形の説明では何故か毎回夜空に星がきらめく演出。伝えたいことはまあわかるけどなんか違う気がする。
キャストは割と再現頑張っていると思う。郭靖、楊康は原作を再現しつつそれぞれ違うタイプのイケメンになっていていい感じ。反面、メインヒロイン二人はどっちも不満(詳しくは以下のキャスト欄で書く)。脇役はどれも良かったけど、個人的には孟子義さんの梅超風がダントツ。制作側からもかなりいい扱いをされてると思う。あとは趙健の裘千仞・千丈。本作で一番ギャグがうまかったし、シリアスの使い分けも見事。四大達人はちょっと若めかな? でも主演達も結構若いのでそんなに気にならなかった。
セットは金が無いのかしょっちゅう似たような場面が映る。今時の古装なので小道具がどれも綺麗すぎるのは相変わらず。楊康が穆念慈と流浪する場面は、もっと貧乏くささとか汚さが強調されてると良かったんだけど…。
歌無しのOPはかっこよくて好み。でもあれだけ戦う映像流して期待値あげておきながら、いざ本編のアクションが上記の通りの短さだからこれは結構な詐欺だと思う。音楽といえば、なんか呪怨の幽霊みたいなゲーゲー声の流れるBGMはダサかった。
過去作を色々見てきた身としては、手放しで面白い!とは褒められないんだけど、話がサクサク進むしビジュアルも悪くないので概ね満足な出来です。ただ、初心者向けならもっと面白いバージョンがあるかなぁ~とは感じた。
以下キャスト
此沙 / 郭靖
ちょっと天然ぽくて大らかな雰囲気のビジュアルがイメージと合ってていい感じ。中身も概ね再現されてるだけど、話をスムーズに進めるためか原作には無いクレバーさを出したりするのが時々違和感(おとりを使って欧阳克を欺いたりとか、原作郭靖じゃ絶体出来ない)。上でも言ったけど序盤のあれこれを削られているので師匠との絆や蒙古・宋の間での葛藤とかがイマイチ感じられない。最終回では悩みから解放されたのがきっかけで異常に強くなり、裘千仞のみならず欧阳锋もタイマンで圧倒。さすがにやり過ぎでは…。
包上恩 / 黄蓉
メインヒロイン。演技もアクションも頑張ってるんだけど、邪気が足りなくて黄蓉っぽさが薄め。原作みたいな小悪魔アクションをすると現代人には共感されにくいからだろうか。例えば中盤の华筝とのくだりとか、原作黄蓉なら殺しにかかってると思うんだよね…。ていうか穆念慈の方はそうしてるから、ここで郭靖置いて去ってしまうのがやっぱり辻褄合わない…。
ビジュアルもうーん。個人的に若い女優さんはデコ出さない方がかわいくていいと思う。時々前髪の処理が気になった。なんか髪が薄いように見えてしまう。
王弘毅 / 杨康
いかにも貴公子風なビジュアルが郭靖と対になってていい感じ。演技も上手いし。楊康はドラマだと結構改変が多くなるんだけど、原作が描かれた当時と違って現代では郭靖よりも感情移入しやすいキャラだと思う。まあそれだけに原作再現が難しいところもある。序盤はちょくちょく原作に無いエピソードを入れて丁寧に描写していたのが、後半は尺に余裕が無くなったのか割と雑な扱い。せっかく欧阳锋との修行シーンがオリエピで追加されてたのにその後まったく活かされないのはどうなのか。対等なライバルキャラとして郭靖とタイマンで戦う、みたいな展開をやってくれてもいいんだけどなぁ(一応、2007年版ではやってたな。でも実力差つきすぎて殆ど勝負になってなかった…)。
黄羿 / 穆念慈
メインヒロインその2。穆念慈というキャラは結構楊康の改変に左右されるところが大きくて、例えば楊康を有能で狡猾に描きすぎると悪党に騙されてるバカな女に見えてしまう。かといって念慈を自立した立派な女性にしようとすると今度は楊康をヘタレに描かざるを得ない…となかなかバランスが難しい。今回はちょっと前者よりかな。最後は楊康と決別するけど、それまでは結構言いくるめられてしまってる。これまた演者さんには申し訳ないんだけど、穆念慈のイメージと合ってない。というか最近の若い女優さんはこの黄羿さんみたいな顔立ちの人結構見るけど、自分があんまり好みではないせいもあるかも…。
周一围 / 黄药师
東邪。過去作の黄药师ってしかめっ面の頑固親父っていうのが固定イメージだったんだけど、本作はとってもクールで独特な個性を放ってる。正直かなり好き。普段がクールだから、感情が出たときの印象がぐっと強くなっていい(梅超風が死んだ時とか)。髭が無くて何だか若く見えるけど、演者さん的に似合わなそうだからこれはこれでいいかな。
高伟光 / 欧阳锋
西毒。西洋っぽさ強め。ちゃんと蝦蟇功で四つん這いになってくれる。戦闘シーンが大幅にカットされているのが残念。甥への愛情が泣かせる。尺がないのにそのへんは回想でオリジナルエピもある。
何润东 / 段智兴
南帝。この人が南帝を演じてるというのがなんか笑ってしまった。最近あんまりアクションをやってくれなくて悲しい。でもよく考えたらキャストの中でも年輩な方なんだよな…。
明道 / 洪七公
北丐。最初若くて違和感あったんだけど段々見慣れてきた。最終回にて郭靖脳内のマボロシだけど弟子を慰めるくだりはよかった。
孟子义 / 梅超风
桃花島のもと四大弟子。本作のヒロイン枠は実は彼女ではなかろうか。梅超風ってドラマ化の度に若年&美人補正が強まってるけど本作は特に顕著。原作では登場時点で四十歳くらいなんだけど…。主要な戦闘場面もきちんと網羅されていて、いくらかスタンド交えているけどかなりかっこよく描かれている。盲目なのになんであんなにちゃんとした格好してるの?は言っちゃいけないお約束か。盲目といえば時々目が充血しているように真っ赤なのが痛々しい。
凶暴なたたずまいなのに、台詞や表情の端々からうかがえる師匠大好きオーラがかわいい。弟子入りの場面が回想で再現されててこれまたとってもかわいい。
田雷 / 周伯通
天下第一の達人・王重陽の義弟。本作の癒やし枠。これまた戦闘シーンカットで原作の阿呆みたいな強さがあんまり再現されてない。
赵峥 / 完颜洪烈
金の皇族。郭靖の仇。序盤は楊康との絡みもあって結構出番に恵まれていたんだけれど、敵キャラとしての存在感は段々薄めに。
张志浩 / 欧阳克
欧阳锋の甥。実は息子。序盤における郭靖のライバルポジションだが、エロいことしか考えてないのが災いしてたびたびドジを踏む。最近の厳しい規制のせいか女の子の服も上着一枚程度しか脱がせられない。
赵健 / 裘千仞・裘千丈
鉄掌の幇主とその兄貴のペテン師。兄貴の方は地味に出番が多い。
尤靖茹 / 瑛姑
もと大理国の妃。復讐のため南帝を狙う。黒沼の再現度が良い。話の都合とはいえ、仇の裘千仞が超速で姿を見せたくだりは笑ってしまった。
王九胜 / 马钰
全真教主。一話では郭靖との修行や梅超風との戦闘シーンなど達人の風格が出ていてめちゃくちゃかっこいい。
李进荣 / 丘处机
全真教最高の使い手。原作では物語の発端となるキャラだが、本作では出番も強さもいまいち再現されず。
葛四 / 柯镇恶
江南七怪の筆頭。ツンデレ偏屈な大師父。原作だと目だけで無く足を悪くしているから杖をついてるんだけど、このドラマでは普通に歩いてる。
高子沣 / 朱聪 高峰 / 全金发 白海龙 / 南希仁 宁小花 / 张阿生 李树 / 韩宝驹 沙漩 / 韩小莹
江南七怪の師匠達。張阿生は尺の都合とはいえ雑に死亡。原作と違い韩小莹が郭靖を殺そうとしたのはちょっとショック。朱聪はいかにも文人チックなビジュが良い。
王力 / 铁木真
モンゴルの覇者。序盤がごっそり削られているので、郭靖との絆がいまいち感じられない。
郭金也 / 拖雷
郭靖の義兄弟。郭靖の心が蒙古から離れていくのを感じつつも兄弟の情をまっとうしようとする姿が良き。
马丽亚 / 华筝
郭靖の許嫁。原作では約束と愛情の狭間で煮え切らなかった郭靖がちゃんと黄蓉を選び取るのがドラマ版のいいところ。
個人的に好きなシーン
第3、4集 趙王府潜入作戦
王処一の解毒をするため趙王府に潜入した郭靖・黄蓉のコンビ。完颜洪烈に雇われた欧阳克らが立ちはだかる。しかしそこに意外な助っ人が現れ…? また時を同じくして楊康は母から衝撃的な真実を告げられる。
複数の事件が同時進行し、さらに色んなキャラも加わって序盤屈指の盛り上がりどころ。梅超風の活躍ぶりが素晴らしい。反面、丘処機は原作と異なり毒を受けて早々にダウンしてしまう。
第20集 梅超風 最後の戦い
牛家村に集った全真教のもとに現れる梅超風。過去の因縁もあり、七対一の圧倒的不利な状況でもひるまず戦いをしかける。しかしそこに東邪・西毒がやってきて、勝負の方向は思わぬ行方へ…。
このドラマで一番燃えたバトル。北斗陣の演出がカッコイイ。原作ではvs梅超風が前座でvs東邪がメインなのに、ドラマでは後者の戦いが短く切り上げられてしまったのが残念。
第29,30集 武術への悩み。
黄蓉と母を失い、武術を使うことを拒否しはじめた郭靖。暴徒とした民衆から襲われても無抵抗。それを助けてくれたのは丘処機と柯鎮悪だった…。原作だとここで出てくるのは丘処機だけなんだけどドラマでは柯鎮悪も追加。はっきり言ってこの二人のカウンセリング能力は壊滅的で、案の定郭靖は悩みが深まり戦いの場に居合わせるだけでPTSD状態。なんか原作より酷い状態になってて笑える。いや…シリアスなシーンなんだけど、うん。そして唐突に現れた段皇帝の一陽指洗脳治療でまた爆笑。なにそれ!? でもその後、死んでいった人々が郭靖を導く場面は結構よかった。…かと思ったら七怪の中にしれっと生きてる柯鎮悪も混じっててまた笑いが…。ついでに郭靖を導く七公もマボロシ…。ううん、なにこの脳内世界。でもその後郭靖は悩みから解き放たれて大覚醒。勢いで自分より格上なはずの裘千仞をフルボッコにする。えぇ…? ちょっとカオスすぎ。