【中古】 纏足 / 馮 驥才, 納村 公子 / 小学館 [文庫]【メール便送料無料】【あす楽対応】 価格:1,403円 |
舞台は清朝末期。長きに渡って中国女子の伝統習俗だった纏足文化の滅びを描く。
纏足はご存じの方も多いだろうけれど、幼少の頃から足を緊縛して成長を抑え、人工的に小さな足を作る文化。宋代ごろから一般的に広がり、長らく習慣として続いたが、清末以降は西欧文化の流入や自然足運動の隆盛により廃れていった。
纏足が絶対的に悪しき文化だったかといわれると、そんな単純な話ではない。およそ美に関する変わった風習はいつの時代のどんな国にもあるし、何なら現代の女性だってファッションに体を合わせるような無理を少なからずやっているわけで、そういう意味で本作は普遍的な事象を描いた物語だと思う。
ちなみに纏足も西欧文化の流入であっさり滅んだりはせず、その後も細々と存在していた。あとがきによると、山東には2000年近くまで纏足女性用の靴を製造する業者があったというのだからびっくりだ。
さて、主人公の香蓮は幼い頃に纏足を強いられ、壮絶な痛みを味わう。ここらへんの肉体破壊描写は読んでいてかなりキツイ。手術後は歩くこともままならず、ずっと自分の足を憎んでいたが、嫁いでからはむしろそれを武器に他の妻妾と足の大きさを競い、家庭でのし上がっていく。ただ纏足手術をすれば終わり、ではなく、歩き方や見せ方、どんな模様の靴を履くか、など美しさを上げるテクニックが多数存在するのも面白い。纏足を極めた香蓮にとって、小さな足はアイデンティティになる。時代が変わり始め、大きな自然足の文化が流行りだしても、ひたすら纏足を貫き、若い世代にも強要する(と思いきや、ラストで意外などんでん返しが待っているのだけれど)。ついには運動をおこして自然足反対を訴えたりする。西洋のハイヒールやコルセットも体を痛めつける文化だ!という主張はなかなか的を得ていて面白い。
また、纏足文化をめぐる男達の描写も印象的。香蓮の舅である佟忍安は小足マニアで、その素晴らしさを一般人にはわからないオタク的な理論武装で評論する。彼の友人にも、窅娘とか藩妃の故事を引用して纏足文化の蘊蓄を披露したり、まあ何というかオタクあるあるな光景が繰り広げられる笑 こういう愛好家達の姿も、現代のフェティシズムに置き換えれば普遍的な話だと思う。
また、佟家では序列や権力も纏足の美しさが全て。これは実際にそうした家があったのではなくて、作者の創作だろう。中国では家庭闘争を描いた小説やドラマが数多くあるけれど、本作のように足の小さい女が家庭の実権を握る、といった話を他に見たことが無い(私の見聞が浅いだけかもしれんけど。知ってたらどなたか教えてください)。全編通して講談調で、どこかおとぎ話のような雰囲気が漂っているし、あとがきにある作者の執筆意図なども含めて考えると、これは文化風刺な話なのだと思う。
そのほか、佟忍安の本業は骨董の偽造品を売ることなのだが、人を騙すための手練手管が本当に見事。そこまでするか?と思ってしまう。あと、香蓮が嫁いできた時、どれくらい字を読めるか?と忍安に問われて「紅楼夢は読みました」と返す場面にも驚き。貧しい家の子でも読めちゃうものなのか。サブエピソードや細かいところも興味を惹かれる。
纏足はもとより、人類の美の文化ついての闇みたいなものに触れられる良作なので、気になる方はぜひ。