中華人民共和国演義 1、2巻

【中古】 中華人民共和国演義(1) 毛沢東の登場 /張涛之(著者),伏見茂(訳者),陳栄芳(訳者) 【中古】afb

価格:200円
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1996年刊行。張涛之作。日本語訳は全六巻。
中華人民共和国の成立と、その後の様々な事件を描く長編小説。演義と名のつく通り、多数の人物が登場し、物語も概ね史実をなぞっている。
今回は1巻と2巻についてレビューする。

1巻「毛沢東の登場」
帯のキャッチコピーは「三国志を彷彿とさせる現代中国の国盗り物語」。まあ、共産党vs国民党vs日本軍、と考えれば三国志っぽいようなそうでもないような。
物語は共産党の結成、国民党および日本軍との激闘、中華人民共和国の建国までを描いている。
肝心の内容についてだが…色々大事なところをすっ飛ばし過ぎではなかろうか? 建国の父として登場したかと思ったらろくな見せ場も無く退場する孫文とか、あちこちで割拠していたはずなのに無視されまくってる軍閥勢力とか、何より日中戦争の詳細が殆ど描写されず、あっさり終わってしまったのには驚いた。百団体戦とか台児荘の戦いとか、物語として面白くなりそうなネタはいっぱいあるじゃん! なぜ書かない? 個人的にかなり残念な部分だった。
じゃあ主にどんな話が展開されているのかといえば、ほぼ共産党vs国民党の内戦模様。しかしこちらも物足りない部分が多い。いくら史実をなぞるとはいえ小説なのだから、長征とか西安事件はもっとドラマチックにやって欲しかった。1950年代の小説とか回想録なんて、それこそ「嘘つけ!」と言いたくなるくらい大袈裟に八路軍の勇士を描写してたわけだし。
演義小説、というだけあってキャラの数は多い。蒋介石はわかりやすい悪の親玉キャラになっており、敵対勢力の共産党を圧倒的な数の暴力でつぶそうとする。適度におバカなあたりが抗日ドラマの日本軍司令官を彷彿とさせる。それを迎え撃つは毛沢東&周恩来のコンビ。誰に対しても誠実で聖人君子を体現したような周恩来に対し、清濁併せ持ち時には冷酷な判断も下せる毛沢東など、なかなかキャラは立っている。毛沢東が独裁者として変貌していく過程は、本作の見所の一つだと思う。他にも彭徳懐やら朱徳、陳毅など、中華人民共和国には欠かせない偉人が脇をかため、史実を知っていればなかなか楽しめるはず。
中盤以降はよくある抗日ドラマのように、共産党の一方的な勝利が続く。戦争描写は総じてさほど面白くない。まあ三国志演義のように華々しい一騎打ちが現代戦で描けるわけもなし、これは仕方ないところか。

二巻「朝鮮戦争」
帯のキャッチコピーは「アメリカ軍仁川上陸!毛沢東のつぎの手は?」
内容は朝鮮戦争及び、それに伴うソ連・アメリカへの外交と政治劇。1巻は色んなところが削られてがっくりきたが、この巻は丸ごと朝鮮戦争で占められ、その過程もじっくり描かれる。
印象的だったのが、建国間もない中国にとって、朝鮮戦争がいかに大きなリスクを負ったものだったかということ。共産党の人民解放軍はもともと近代的な装備が乏しく、経済的にも貧しい国だった。党内の対立もあれば、国民党の残党や、社会主義に従わない資本家もいる。バックについているソ連も社会主義に対する意見の相違や、指導者同士の目論見もあって、全然あてに出来ない。このような状態の中国が、わざわざ朝鮮で、しかも世界トップクラスの大国であるアメリカと戦うことは非常に大きなプレッシャーだったのだ。戦うべきか、見逃すべきか、共産党首脳陣が苦悩する姿は、物語ながら私にとって大きな発見だった。
とはいえやっぱり物語なので、中国解放軍は世界最強の勇敢な軍隊であり、対するアメリカ軍は抗日ドラマの日本兵並みにスペックがガタ落ちしている。 戦争も休戦という形で終結しているのに、周恩来が「我々の勝利だ!」などと声高に宣言しているのは苦笑するしかない。
スペックと言えば、ソ連陣営も中国へ背信行為を続けるしょーもない連中みたいに描かれており(まあ実際、史実でも五〇年代のソ連は大変な時期だったわけで…)、このあたりも中国からすると油断ならぬ同盟国として、物語の緊張感を上手く高めている。
そのほか三巻への布石として、社会主義推進のため奮闘する人民の活躍も描かれる。郝建秀という人物を、私はこの作品で初めて知った。貧民出身の女工であった彼女は、社会主義のシステムによって大学で学び、故郷の発展に貢献していく。中国の社会主義改革は失敗ばかりが取り上げられるけれど、雷峰みたいな社会主義的な英雄を沢山生み出していたとも思う。特に女性の社会進出については、かなりの進展があったのではなかろうか。男女平等の実現が作中のあちこちで語られている。
女性といえば、忘れちゃいけないのが江青。これまたステレオタイプの悪女キャラである。武訓伝やソ連滞在時の事件など、彼女にまつわるエピソードは豊富に描写されている。その後の動向については、また以降の巻のレビューで語るとしよう。

共産党礼賛の描写もマイルドで、普通に読める歴史小説だとは思う。ただ、やっぱり話の取捨選択と、小説として盛り上げるべきところをスルーしてしまっているのは気になるかも。