上海灘 1980年周潤發版

1908年制作。TVBの連続ドラマ。全25話。中華民国期の上海を舞台に、黒社会の闘争を描く。
周潤發(チョウ・ユンファ)という大スターの出世作。本作がなければ後の香港ノワールも無かったのではなかろうか。YouTubeで全話が配信されていたので今回視聴。北京語だったので音声はオリジナルじゃないかも。以前、2006年の新上海灘を見ていたので、リメイクもとである本作もずっと見たいと思っていた。
で、結果は大満足。歴史に残る名作だと思う。黒社会の生き残りをかけた争いや、男達の友情、そこに関わってくる女性達、どれも濃厚で見ごたえがあった。葉麗儀が歌う主題歌も素晴らしい。

ボリュームのある新版(全四十話ほど)を先に見ていたせいもあるんだろうけど、物語の展開が滅茶苦茶早い。文強はあっという間にのしあがったかと思えば事件に巻き込まれてやくざを引退、それから家族を得るも平穏は続かず、復讐ため上海に舞い戻り…と展開が忙しい。ラストも怒濤の展開続きで凄い終わり方。脇役はその回に出てきたかと思ったらどんどん死ぬ。特に幇の部下キャラとかはみんな似たような見た目と名前なのでなかなか記憶に残らない。アクションはテレビスケールなうえに時代も古めなのであまり見ごたえはないけど(ホアッとかハイッ、とか叫びながらカンフーやってるのが微笑ましい)、容赦なく人が死ぬのでなかなか緊張感がある。

撮影はセットだけでなくオープンも多め。そのせいか画質の差が激しい。祖界が舞台なので敵役として日本人も出てくる。セットとかはそれなりに日本っぽさが再現されてる…と思う。しかし「味の素」とか「山口香子(李淑蘭)」って…ほとんど実名だけど出しちゃっていいの? 今の時代でやったら間違いなく訴えられそうだ。
ちなみに続集があるんだとか。周潤發も趙雅芝もいなくなったのに?と思うんだけど気になるので、いずれ見てみたい。

以下キャスト
許文強/周潤發
主人公。かつて北京で学生運動をしていたが、恋人の死と入獄で挫折。その後上海にわたり黒社会でのしあがっていく。知力武力も相当なもの。無駄な血は流したがらない主義だが、弟分である丁力の暴走や、仕えている馮敬堯の悪巧みに巻き込まれ、黒社会の深みにはまっていく。あと、女性絡みは結構心の弱さが出る。
演じる周潤發がとにかくイケメン。長い手足と背の高さでスーツがよく似合いアクションも映える。もう帽子を被りタバコをふかしてるだけで絵になる。顔立ちもまさにインテリヤクザといった感じ。リメイク版の黄暁明が演じる許文強も素晴らしかったけど、それもやっぱりこの周潤發版があってこそだったんだなぁと思う。

丁力/呂良偉
もと貧民街の梨売り。根は単純だが誠実で恩義に厚い。許文強の手引きで黒社会に入り、以後は兄弟としてのしあがっていく。最初は上流階級や裏社会のルールに不馴れだったり、猪突猛進気味な姿勢が災いしてトラブルを起こすこともあったが、文強と別れて自立してからは武力だけでなく知略も駆使する一流のやくざに成長。自分を引き立ててくれた馮敬堯には恩を抱くものの、次第に文強と同じく彼のやり方に疑問を抱いていく。家庭では自分が嫌悪した父親と同じくDV気質な面があり、女関係も文強に比べ荒れ気味。母親には頭があがらない。

馮敬堯/劉丹
表の顔は上海の名士。貧乏からのし上がったため彼を純粋に慕う者も多い。が、裏では黒社会にもコネクトを持ち様々な陰謀をめぐらす。娘や客達の前で見せる紳士的な穏やかさもあくまで作り物、実際は陰湿で怒りっぽく、歯向かう部下や競争相手は徹底的に潰す。また利権のためなら敵国である日本人と組むことも厭わない。そんな諸々が災いして、許文強の離反、そして報復の対象に。とはいえ、娘に対する愛情は本物。演じる劉丹の演技がとにかく素晴らしい。

馮程程/趙雅芝
馮敬堯の一人娘。文強と恋に落ちるが、黒社会の争いが二人を引き離していく。演じるは往年の名優、趙雅芝さん。この人はほんと昔から顔が変わらないな。
世間知らずのお嬢様が父の悪事や社会の変化を通し、一人の女性として自立していく様が良かった。終盤ではひたすら戦うばかりの男達にはない心の強さを見せてくれた。

方艷芸(方艷雲)/林建明
上海社交界の花。許文強の学友でもあり、ことあるごとに手を貸す。戦いの中で親しい人達を失っていった文強にとって、数少ない心の拠り所だったが…。
新上海灘ではメインヒロインの一人だったが、本作ではちょっと出番は少なめ。ボリューム盛った髪型と、サテンつやつやなチャイナドレスが時代を感じさせる。最近のドラマ、こういうのあまり着なくなったよね?

蘇旺娣/景黛音
香港へ逃れた許文強が出会った女性。その清貧な生き方が荒んでいた文強の心を癒やし、やがて深い仲で結ばれる。しかし…。
演じる景黛音さんは色んな武侠ドラマのサブヒロインで有名。まあ要するに当て馬ばかりなんですが。

山口香子(李淑蘭)/歐陽珮珊
日本軍の女スパイ。馮敬堯と結託して上海における日本の利権拡大を狙う。武術に優れるほか、変装の名人らしいが身につけている腕輪のせいで結構正体バレバレ。
元ネタは言わずもがな。80年代ならご本人も存命中でまだまだお元気だった頃だけど、クレームにならなかったんだろうか。

陳翰林/湯鎮業
愛国心溢れる青年。程程の学友。混乱を極める上海の中で刑事になり、若干向こう見ずながらも悪事の摘発に動く。文強には程程を挟んで対抗心を抱いていたが、次第に心を許す中に。演じる湯鎮業さんは古装だとインテリ文人役が多め。本作も時代がシフトしただけでそのまんまのイメージ。

劉明/林文偉
精武門の高弟。掌門の死後は弟子達を率いる。文強とは一時敵対したが、日本人撃退をきっかけに協力する。精武門は銃がものを言う時代にカンフーを使い、また日本人の策略にあっさり引っ掛かってやられていくので何だかみんなお間抜け。暇な時はやたらトランプとかで遊んでるのも呑気な感じ。

聶仁王/黄新
上海の名士。馮敬堯とは敵対している。文強が馮敬堯への復讐をする際は手を結んだ。馮敬堯よりまともかもと思われたが、闘争を勝ち抜くのに手段を選ばぬ点では似たり寄ったり。

長貴/廖啟智
貧民街の青年。文強と丁力を慕っている。丁力のつてで部下になり、終盤はすっかり馴染んでいた。