紅楼夢之金玉良縁(邦題:紅楼夢~運命に引き裂かれた愛~)

中国古典四大名著「紅楼夢」の映像化。監督は胡玫。
※このレビューは鑑賞二回目のものになります(昨年11月の映画祭にて鑑賞済み)。そのため、一度目のレビューを先に読んでいただくとよりわかりやすいです。下記よりどうぞ。
紅楼夢之金玉良縁(邦題:新紅楼夢~天運良縁~)

ものがたり
さる大貴族の賈家は世代を経るごとに堕落し、表向きの華やかさと裏腹に没落の影が近づいていた。病気がちだが才気溢れる少女・林黛玉は、従兄弟の賈宝玉とともに育ち、心を通わせる仲だった。しかし周囲を取り巻く大人達の陰謀が、想い合う二人を容赦なく引き裂いていく…。

中国では昨年夏の公開後に散々酷評され、一年近く経っても配信すら始まらないという悲しい状況の中、何があったのか日本公開の流れに。実は日本に先駆けてアメリカでも放映されており、監督は国内評価の低さを挽回しようと積極的に海外へ売り込んでいたようだ。本国の状況から、もう二度と見れないんじゃないかと思ってたので日本公開は大変ありがたかった。

で、普段は同じ作品をレビューしたりすることなんて無いんですが、なんといっても大好きな紅楼夢のことなので、再鑑賞した感想をつらつら書いていきます。

結論から言うとこの作品は、

主役カップルへの愛が重すぎる紅迷(紅楼夢ファン)の監督が作った、一部の人間にしか刺さらない二次創作同人

です!!
なので、監督と癖が合えば楽しめるけど、正直それ以外の人達、つまり原作ファンとか紅楼夢初心者はお断りレベルなくらい突き放してる(作ってる本人は多分そんなつもりなかったかもだけど…)。

宝玉と黛玉の恋愛劇として割り切って見れば面白いし、完成度も高いと思う。
問題は、そこに特化し過ぎて犠牲にした部分も多過ぎたところ。ざっくり挙げると以下。
・原作ストーリー改変多数
・キャラ改変も多数
・監督独自の新解釈も盛り込む
・本筋と関係ない小話もやたら盛り込む
これらのせいで、原作ファンにも、未読ファンにも受け容れがたい内容となってしまったのは否めない。
特に物語とキャラクターは監督の宝・黛びいきのせいでかなり歪みが生じている。

個別に説明していこう。まずは物語。
基本的に、二時間程度の尺になる単発映画や舞台だと、紅楼夢は宝黛釵(宝玉、黛玉、宝釵)の恋愛話部分だけを抽出するのがセオリー。そのため使われるシーンも大体決まっている。本作も一見それに倣いながら、実はセオリー外しがかなり多く、従来の紅楼夢ファン達を面食らわせる結果になってしまったように思う。
まず気になるのが、時系列の組み替え。ざっくりな流れだが、下記の通り。

雪山の宝玉(原作120回以降)
黛玉の実家帰省(原作14回)
返済打合せ(原作になし)
寧国邸の花見~太虚幻境(原作5回)
ベッドでの宝黛いちゃいちゃ(原作19回)
宝釵上京(原作4回)
黛玉の嫉妬+史湘雲(原作20回)
カップル西廂記読書(原作23回)
劉ばあさんの来訪(第6回+40回)
大観園設営・元春省親(第17~19回)
凧揚げ(原作80回)
宝玉紛失(原作95回)
偽装結婚・黛玉の死(原作96~98回)
ラストの回想は第3回、上京直後の場面(ラスト以外にも中盤で挿入あり)

従来の紅楼夢映画なら、第三回の黛玉上京から始まるのが通例だ。だから観客の多くは、最初に実家帰省の場面を持ってきたところに面食らうと思う。原作を一度読んだ程度ではかえって混乱してしまうのでは。
また、映像化で必ずといっていいほど出てくる原作第五十七回「慧紫鵑」の場面がない。これは中盤のターニングポイントで、宝玉と黛玉が互いの想いを確認する超重要なエピなのだけれど、本作では省かれていた。
なんでこうなってるかというと、本作の宝黛釵の構図は、宝黛の関係性がほぼ固まっている状態で始まっているからだ(監督は宝黛推しだから)。それは映画序盤で、実家から戻った黛玉が宝玉と再会する場面を見ればよくわかる。他にも宝玉から西瓜をすすめられて機嫌を直すシーンや、香袋で喧嘩するも手巾一つで相手の想いを汲み取り和解するシーンなど、黛玉は原作よりずっと宝玉に素直で心を許している。最初から仲のいいカップルとして描写されているのだ。原作では黛玉の性格が捻くれまくっているので、こんなにあっさり進展していない。
で、そんな監督の宝・黛ごり押しの影響か、本作の宝釵は露骨にカップルの敵扱いにされてしまっている。
たとえば、宝釵の合流は時系列入れ替えでわざと遅らされている。完全に恋人に割り込む敵の構図だ。他の映像作品なら確実に省かれる薛蟠の犯罪シーンを最初に持ってきて、観客の薛家へのイメージを下げにかかったり、キャラ改編されまくってすっかり性格の悪くなった薛夫人が黛玉をディスったり、姉の王夫人に「何とか犯罪をもみ消せないかしら」と泣きついたりする。肝心の宝釵も心情描写が足りなくて、クライマックスの偽装結婚も自我が無いまま言いなりになっているようにしか見えない(申し訳程度に蜘蛛の糸=がんじがらめみたいな演出をちょろっと出すだけ。雑過ぎぃ!)。他の紅楼夢映画なら、黛玉との友情に背くことへの葛藤とか、陰謀に加担してしまった悲しみとかも描かれるのに本作の宝釵は涙一つ流さない。
いくらなんでも悪く描きすぎやろ。※記事下参照
反面、黛玉についてはこれでもか!とかわいそうな描写を積み上げている。
・凧揚げの場面は原作だと黛玉も姉妹達と一緒なのに、本作では病気でぽつねんと部屋に引きこもり。
・王夫人や薛夫人に悪口を言われる(原作ではこんな露骨ではない。なんなら薛夫人は黛玉を可愛がっている)。
・父親の財産を賈家に奪われ大観園造設に使われる、といった本作独自の解釈展開があり「搾取される黛ちゃんがかわいそう!」と強調。(実際は賈家の崩壊も描かれないのでなんか無意味なエピソードになってしまっている)。
・孤独な黛玉に対し、宝玉と史太君が数少ない味方であることを強調。

このように、時系列入れ替えや人物改編の大半は、宝玉と黛玉の関係性の強調、薛一家へのヘイト強調といったかたちで行われている。

いや、それってなんか……タチの悪いオタクの二次創作とおんなじじゃん!!
二次同人創作と上で書いたのは、そういうわけである(あと、一瞬しか出ないキャラを大量に出したり、尺の限られる映画で本筋と関係無い話を無理矢理ぶち込んだりするのもオタ的な感覚を感じる)。
そもそも原作ファン(特に宝釵ファン)に喧嘩売ってるとしか思えないし、原作未読勢はお断りなくらい説明不足だし、中国大陸でめちゃくちゃ批判を食らったのも、まあそうだろうね…と納得してしまう。
とはいえ……である! 胡玫監督の黛玉愛は、作品を通してしびれるくらいに伝わってきた。胡玫監督は間違いなく生粋の紅迷だ。紅楼夢を好きすぎて、黛玉を愛しすぎているがゆえに、それが歪みとして作中に改編とか原作無視というかたちで出てきてしまったんだと思う。
それはね、ほんと伝わってきたわけよ。だからもう、宝玉と黛玉の話にフォーカスして観れば泣ける。何度も。宝玉の「僕は出家する!」、黛玉の「あなたはどうして病気になったの」~「忘れないでね」、ラストシーンの黛玉の笑顔……!
全部、いい!!! 紅楼夢を深くわかっている人が作ったのが、めっちゃ伝わってくる。
原作映像化としてみたら、せいぜい二十点~三十点くらいだろうけれど、紅楼夢好きの二次創作として観れば、八十点くらいになるだろうか。なんなら、歴代で見てきた紅楼夢映像作品の中でも上位に食い込むくらい。というか、私も紅楼夢のドラマにしろ映画にしろ散々見てきていて、今更新作で原作通りやられてもなぁ、という思いが常々あった。だから、良くも悪くも熱意をもって新しい紅楼夢を作ろうとした胡玫監督の心意気は買いたい。

ともあれ、級者向け作品はであることに変わりないと思う。前のレビューでも書いたけど、原作は数回読んで映像作品もいくつか見ておいた方がいい。ある程度紅楼夢好きの下地がないと、映像美とかセットのすごさみたいなとこにしか良さが見出しにくいと思う。あー、日本でこれがどう評価されるのやら…。
とりあえず、全然ヒットしなかったとしても日本の配給会社さんにはDVD出して欲しいです。よろしくお願いします…。それか三回目見に行くか…。

以下雑感。
・冒頭の雪山シーン、剃髪せずさ迷ってるのでまだ出家前? でも石や絳珠草が出てきてるってことはもう幻境まで来てるんだろうか。よくわからん。なんか馬まで引き連れてるのは他の映画版にない描写で新鮮。
・大観園の建設が後半にもってかれてるので、読西廂の場面って多分賈家の庭園だろうけど、一体ドコなんだろ。
・凧揚げの場面、宝玉が「林妹妹も誘ってあげたいな」に対する宝釵の「あなたが代わりにあげてるじゃない」の台詞。病気な人を連れてくるのは良くないでしょという合理的な意図を含みつつも宝釵らしい冷たさがあって、監督、宝釵のキャラをしっかり理解しつつ彼女の好感度下げようとしてやがる…!と唸らされた。
・宝釵撲蝶。宝釵の名場面なのに何故か原作に出てきてない宝玉が現れ「姐姐、遊ぼうよ」「お互いいい歳なんだから、男女の弁えを持って。あなたは遊ぶより勉強した方がいいわよ」「はぁ。黛ちゃんならそんな言い方しないけどなぁ」とわざわざ宝釵と宝玉の距離感が開くエピに改編されてる。だからやりすぎぃ!
・晴雯とか秦可卿とかいつの間にかフェードアウトしてる人達が何人かいた(原作時系列だと死んでる)。
・賈家三姉妹、鑑賞二回目でも見分けがつかなかった。
・音楽が大変素晴らしい。特に「読西廂」の場面で流れる曲(他にも凧揚げとエンディングで使われてました)。
・賈家の経済事情に散々触れておきながら賈家崩壊を描かなかったのはやっぱりマイナスだよな~。「財産奪われる黛ちゃんかわいそう!」がやりたかっただけか。
・王熙鳳と賈璉、原作で何度も出てきた浮気話が無いせいかまともに夫婦をやってる感じなのが面白い。

個人的な名場面
・「読西廂」。宝玉が不意に発した「君が死んだら僕は出家する!」の台詞。これは愛してるが気軽に言えない時代の精一杯の告白。音楽の効果もあってとにかく泣ける。
・「元春省親」。実は宝黛釵とはあんまり関係無いエピなのでなんでこれを尺の限られる映画に入れた?という感じはあるんだけど普通にいい場面。ドラマ版では結構じっくりやられるんだけど、映画では必要な台詞とかシーンを凝縮していてこれだけでも泣けるエピに仕上がってる。
・「ばか姐や~黛玉の告白」。原作だと「宝玉さんはどうして病気になったの?」「黛ちゃんのために病気になったんですよ」で終わり。映画では台詞をつけ足して黛玉が読西廂の時の返事をする感じになっている。凄く良い。
・「宝黛初会」。映画のラスト。いい……! これを最後にもってくる胡玫監督のセンス……!! あぁ、あなたは紅楼夢が、黛玉がホントに好きなんですね……!!!

映画見たけど全然わかんなかったよ!という方、よろしければ半年前に見た時の解説記事がありますのでどうぞ。
紅楼夢之金玉良縁 いろいろ解説

※でも、胡玫監督が巧妙なのは、改編を散々やりつつも意外とキャラ解釈でおかしなものがそんなに見当たらないところ。数年前にこれまた紅楼夢ファンに叩かれまくった美好年華研習社 青春紅楼夢なんかと比べたら、めちゃくちゃまともなのだ。

トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦(原題:九龍城寨之圍城)

2024年公開の香港映画。原作は余儿の「九龙城寨」。ネタバレありなのでご注意ください。
ところで、この前見た「紅楼夢之金玉良縁」でも思ったのですが最近の中国映画は制作公司がメチャクチャ多いのでブログで書くときも困ってしまう。冒頭のロゴ連打が凄い…。

あらすじ
かつて香港に存在した魔城・九龍城砦。黒社会の大物が覇権をかけて争い、最後には龙卷风の勝利で幕を閉じる。その後も各勢力がにらみ合いながらも城塞は一定の平穏を保っていたが、そこへ飛び込んできた若者――陈洛军によって新たな戦いが始まろうとしていた…。

てっきり「東方三侠」とか「龍虎門」とか「功夫」みたいなトンデモ武打映画かと思っていたのですが、九龍城砦は往年の姿をリアルに作り込んでノスタルジーがたっぷり、アクションも変なのが一名いた以外(まぁ耐久力は全員化け物クラスだけど)は割合まともな範囲に留まってました。
とても楽しめたんだけど、評価としてはあと一歩な気持ち。王九みたいなキャラを出すなら正直もっと弾けて欲しかった。正直、色んな功夫映画や武打映画を見てる勢としては、アレはまだ大人しい方だと思う。あと、終盤も主人公が大覚醒してパワーアップする展開を期待しちゃうんだよね…(香港映画病)。
日本のネットで絶賛されているのは、やり過ぎるとゲテモノ扱いになるのでリアリティと外連味のバランスがとても良かったこと、最近はこのタイプの映画が全然放映されてなかったゆえに新鮮味を感じる観客が多いこと、といった要因が多いのかな、と思ったり。
以下雑感
・九龍城砦の魔窟っぷりの再現はとても良かった。電気が通らない、まずそうな飯、道が滅茶苦茶狭い、などなど。でもセット撮影の限界か、同じような場所ばかり写るのはやはり気になってしまった。
・媽祖廟についてる傷、爪功のスゴい達人とかがつけたやつなんだろうなと思ってみてたらフツーに得物で切りつけた跡だった…。香港の武打映画のノリに慣れてしまってるとこういうところで拍子抜けさせられてしまう。
・ラスボスが例によって敗北フラグの硬功使いなのは笑った。そしてやっぱり弱点を突かれるのもお約束。
・この手の映画だと主人公が終盤に超パワーアップしたりするんだけど、本作は仲間の力を結集して戦う。これはこれでアツかった。
・主要な役どころで女性キャラが殆ど出てこないのが、原作を無視してまで無理に女性を出そうとする邦画と違っていいところだなぁと思う。悪いが女子供はお呼びじゃないぜ!
・中国映画は大袈裟な表現が多いので九龍城砦すれすれを飛ぶ飛行機とかも何コレwと思われそうだが誇張ではなくマジですれすれを飛んでたりする。こういう小ネタを調べると面白みが増すと思う。

以下キャスト
古天乐 / 龙卷风
九龍城砦の顔役にしてもと黒社会の実力者。かつて城砦の覇権をめぐって一大抗争を勝ち抜いた。老いてなお凄まじい武術を誇る。多分武侠漫画を欠かさず読んでるからだと思う。ビジュアルがイケオヤジ過ぎて好き。ポジションは完全にいつもの香港武打映画の師匠タイプなので、最後は……。

林峯 / 陈洛军
難民として香港にやってきた若者。龙卷风に匿ってもらい、九龍城砦で生活するように。実は出生に秘密あり。
演じる林峯さん、この前見た「倚天屠龍記之九陽神功・聖火雄風」ではCGだらけでいまいちアクションが堪能出来なかったんだけど本作は生身で動きまくってくれて最高でした。そういえばあっちでは古天乐がパパ役だったな。
悲しみや怒りでいきなり覚醒して超パワーアップしたり、変な達人に出会って力を解放してもらったりするような感じがしたけどそんなことはなかった。でも友達みんなで力を合わせて戦うのは良いよね。

刘俊谦 / 信一
九龍城砦の若きリーダー。龙卷风にも深く信頼されている。胡蝶刀による素早い戦いが得意。刘俊谦さん若く見えるけどもうアラフォーなのか…。というか主役四人みんなそれなりの歳だけど。中国人は女性も男性も老けないよなぁ…。

胡子彤 / 十二少
龙卷风の義兄弟・虎哥の幇会に賊する若頭。信一らとは顔なじみ。ただの賑やかしキャラかと思いきや武術も結構な実力。

张文杰 / 四仔
九龍城砦の若医者。常に面具で顔を隠している。黒社会嫌い。鍛え上げられた肉体を武器にする。女友達のエピソード、もしかして投げっぱなしにされた? まあこれで続編作れるな。

洪金宝 / 大老板
香港黒幇の大物。龙卷风とはライバル関係。九龍城砦を買い取って売りさばこうと目論む。老獪なだけでなく武術の実力も本物。演じるはみんな大好き洪金宝さん。最初は寝込みをあっさり近づかれたりしたので、もしかして今回は動かない役かなぁ~と思ったけどやっぱりサモハンゆえにそんなことはなかった。

伍允龙 / 王九
大老板の側近。おちゃらけているが実力は本物で、硬功とそれを応用した武術を使う。割とリアリティ寄りな本作において一人だけ人外ぶりを発揮。でも香港武打に慣れてる人からするとまだまだ常人の範囲だろう…。ちゃんと主役が四人がかりで戦うのも納得出来るくらいの強さと外道さが描写されていたのが良い。演じる伍允龙さん、ノリノリで歌ったり憎めない感じも出しているのが好き。

任贤齐 / 狄秋
龙卷风の義兄弟。かつての闘争で妻子を陳占に殺され、今なおその血を引いた人間を殺そうと復讐に燃える。演じる任贤齐さんは往年の武侠ドラマでよく主役を演じてた人。

黄德斌 / 虎哥
龙卷风の義兄弟。かつての闘争で片目を失っている。十二少のことを深く愛している。今も優れた武術をほこるが、陈洛军の若さと力に任せた戦いぶりには圧されてしまった。終盤戦では出番無し。

郭富城 / 陈占
龙卷风のライバルだった凄腕の使い手。しかし、戦ううちに熱い友情で結ばれるように。各所で相当な恨みを買っており、その遺恨が陈洛军達へ降りかかってくることになる。鎌アクションがかっこ良い。

紅楼夢之金玉良縁 いろいろ解説

先日中国映画週間にて鑑賞した「紅楼夢之金玉良縁」。かなり原作をいじった部分があるので、気になった部分をまとめて紹介&解説してみようと思います。
映画を見てよくわからなかった方、これから見る参考にしたい方、よろしければ見てみてください。ネタバレ含んでいるので、予備知識なしで見てみたい方はプラウザバック推奨。

時系列について
本作は物語の順序がかなり入れ替えられている。大陸でも多かった「原作と乖離している」という批判の理由も、これによるところが大きいのでは。
ざっくりとした場面分けですが、以下に書き出してみます。
1回しか通しで見てないので、いくらか曖昧な部分もありますがご容赦を。

上から冒頭順。

雪山の宝玉(原作120回以降)
黛玉の実家帰省(原作14回)
返済打合せ(原作になし)
寧国邸の花見~太虚幻境(原作5回)
ベッドでの宝黛いちゃいちゃ(原作19回)
宝釵上京(原作4回)
黛玉の嫉妬+史湘雲(原作20回)
カップル西廂記読書(原作23回)
劉ばあさんの来訪(第6回+40回)
大観園設営・元春省親(第17~19回)
凧揚げ(原作80回)
宝玉紛失(原作95回)
偽装結婚・黛玉の死(原作96~98回)
ラストの回想は第3回、上京直後の場面(ラスト以外にも中盤で挿入あり)。

上記の通り、かなり大胆に変更されているのがわかると思う。中盤の抜けが大きいように感じるかもしれないが、これは時間の限られる映画版や舞台版だとよくある現象。原作も中盤は宝黛釵よりもお家騒動や日常の事件が話の中心になるので。
本作がこのように物語を組み替えているのは、宝黛の悲劇をスムーズに見せる制作側の意図があったのだと思う。特筆すべきはレビューでも書いたように宝・黛の関係性が序盤でほぼ出来上がっているところ。そこから二人目のメインヒロインである薛宝釵が合流するので、彼女は作劇上完全に恋の邪魔者にしかなってない。原作では宝釵の合流が早いため、黛玉は宝・釵の二人が仲良くなることに何度も嫉妬するし、中盤の慧紫鵑まで二人の仲ははっきり固まらない。
宝釵も大人の都合で無理矢理宝玉へ嫁ぐことになった被害者なのだけれど、映画では宝黛の恋模様に比重が置かれて、宝釵の心情が全然描写されなかったのはやはりマイナス部分。
そのほかも時間の都合で説明放棄している場面が多々あり。
・冒頭のさまよう宝玉の経緯
原作の最終回以降にあたる場面だが、映画の最後で冒頭に繋げるシーンを作っていないので多分原作未読だと意味不明だと思う。原作では賈家没落→宝玉は科挙受験の後に失踪→出家して俗世を去る。という流れ。
・太虚幻境
あまりにも内容をはしょりすぎているので何がなんだかわからない人も多いだろう。原作未読で映画を初めて観た方で、夢の可卿と宝玉の二人が何をしたかわかる人、いるんだろうか?
・紛失した通霊宝玉の行方
当然のように説明無し。原作では突然行方不明になり、宝玉結婚後、僧が届けてくる。映画では王夫人が結婚謀略をすすめるため持って行ってしまったのでは…と匂わせたようなシーンも見られるが、結局真相まで描かれなかったので不明。
・賈家の最後
前編通して賈家の苦しい経済状況を描いている割に、その末路に触れなかったのもいかがなものか。

その他、色々映画を理解するうえで知っておくとよい知識、あとは引っかかる箇所

・最初のシーン、宝玉が雪中の草に語りかけるが、黛玉の前世は絳珠草という仙草。黛玉は天界で枯れそうになっていた時、前世の宝玉(神瑛使者)に甘露をかけてもらったことがある。現世ではその恩として涙を返す定めになっていた。宝玉は原作の116回で再び太虚幻境を訪れ、諸々の因縁を知る。劇中ではここらへん一切の説明が無い。いきなり初見の観客を突き放しまくりなスタートを切り、結局全編このノリなのだから知ってる側からしてもちょっと唖然としてしまう。

・最初の宴会で盗み食いを働いた少年は宝玉の腹違いの弟・賈環。なんか主役っぽい登場のムーブだけどこの後殆ど出てこない。宝玉と違って容姿才能性格全部ダメなキャラで、作中何度も騒ぎを起こす。

・太虚幻境で宝玉は可卿という女子に会い、セックスのやり方を手ほどきしてもらう。目が覚めた時に襲人が「どうして濡れているんです?」と尋ねたのは夢精したから。あの水に溺れる演出でわかった人いるのかな?

・秦可卿は舅の賈珍と不倫関係にある。原作では後にそのことが原因で可卿は自殺(原作13回)。しかし映画では二人がどうなったのかは描かれず、ただ汚い内情を暴露したのみ。中盤で出てきた老使用人・焦大が嘆いていたのはこの二人のこと。

・宝玉が黛玉へプレゼントした数珠は、賈家と懇意な貴族・北静王が宝玉を気に入って贈ってくれたもの。黛玉は「男のものは全部汚いから」と受け取らなかったが、これは要するに「(あなた以外の)他の男の持ってたものはいらない」という高度なツンデレ仕草である。

・何度かうつる二頭の獅子は寧国邸の大門にある像。作中のとある人物が「寧国邸で汚れていないのは門前の獅子だけ」と口にするなど、ある意味腐敗の象徴。

・黛玉が史湘雲をけなして席を立つ場面。湘雲は舌っ足らずなので数字の「二(er)」が上手く発音出来ず「愛(ai)」になってしまい、宝玉を「二哥哥(二番目の兄様。宝玉は賈政の次男)」ではなく「愛哥哥(ラブ兄様)」と呼ぶ。字幕は「二の兄様」になっていたが、ここらへんは原語ギャグを翻訳するのが難しいところ。

・宝玉と黛玉が一緒に読んだ本のタイトルは「会真記」。一般には「西廂記」の名称の方が有名だろう。中国の才子佳人劇では一番有名な作品。
黛玉に何を読んでいるのかきかれて宝玉が最初「大学だよぉ」と誤魔化した理由は、当時小説本の類が低俗な娯楽で教養人が読むべきものではないとされていたから。西廂記は当時では御法度な自由恋愛を描いているので、まあ現代にわかりやすく置き換えればエロ本みたいなもの。じゃあ二人はエロ本読んで素晴らしい!と感動してたのか、とか突っ込まれそうだがこれも細かく説明すると、小説も何百年かけて多数作られるうちに、一流文人すら虜にする傑作が生まれてきていて、西廂記はその一つだった(もちろん、表向きは教養人の面子もあってまともに文壇で評価されたりはしないんだけれども)。
字が読めない庶民は、講釈などを通して小説を堪能するので物語にばかり注目するけれども、文人達はむしろ文章の方に目がいく。宝玉と黛玉が感動したのも無論後者。
もともと科挙嫌いだが詩作など文書の才能がある宝玉は、こうした小説の良さを見抜く資質があったというわけ。また黛玉も実家で父親の趣味から本格的な学問教育を施された身なので、良い文章がどんなものかを理解している。さらに言うと彼女は蘇州育ちなので学問のスタイルも頭ガチガチの教養人ではなく自由を重んじるタイプ(それは彼女が作中で述べる詩作論や実際に作った詩を見るとよくわかる)だから、宝玉と同じく小説の良さを理解できた(一方で、物語についてははしたない、ともコメントしている)。
ちなみに、どうしてこんな本を宝玉が持っていたのかというと、退屈そうにしていた彼のため下男がこっそり街で買ってきてあげたから。
…たった一場面説明するのになんでこんなに長い文章を書いてるんだ俺は。

・雨の中、誰も門を開けてくれないことにいらだった宝玉は腹いせに襲人を蹴ってしまう。映画ではその後何事もなかったが、原作だと怪我がもとで襲人はしばらく寝込んでしまう。ついでに言うとこのあたりで襲人が結構野心的でただのいい娘でないことが明かされる。

・通霊宝玉の正体は女媧が天地を創造する際に沢山の石を用いたが、1個だけ余ってしまったもの。下界におりてみたいという願いを聞き届けてもらい、宝玉と一緒に現世へ転生。赤ん坊だった宝玉の口に含まれていた。紅楼夢とはこの通霊宝玉の見聞きした物語であることが原作第1回で語られる。基本的に宝玉とは一心同体の存在であり、宝玉の体調が悪化すると玉もくもったりする。周囲の大人達が命の玉と呼んで大事にしているのはそのため。

・黛玉の最期の台詞「宝玉、你好…」。これは「好」の続きが途切れているので、「宝玉,你好狠!(宝玉さん、なんて酷い人なの!)」「宝玉,你好好活着(宝玉さん、お元気で!)」と二通りに意味がとれる。映画字幕では後者。原作では紫鵑が前者の解釈をして、宝玉を長く恨んだ。

大体こんな感じかな。
制作側の都合とはいえ、原作いじりや説明不足が非常に多い。だから原作派の紅迷が怒るのも無理はない。原作未読派ではついていけない。
とはいえ、映像表現は変に奇をてらっていないし、初心者とか紅迷へ気を遣ったり媚びを売ったりせず「新しい紅楼夢」を作ろうとしたのはとてもよく伝わる。実際、宝黛の恋愛エピソートとして見るならかなり良い出来だと思う。

なので、改めて本作を一言で評するなら「二次創作として見るなら80点、原作映像化として見るなら25点」といったところだろうか。

紅楼夢之金玉良縁(邦題:新紅楼夢~天運良縁~)

2024年制作の古装映画。
原作は中国古典四大名著「紅楼夢」。監督は胡玫。製作会社は沢山あったので割愛(笑)
一部ネタバレ込みなのでご注意ください。

ものがたり
さる大貴族の賈家は世代を経るごとに堕落し、表向きの華やかさと裏腹に没落の影が近づいていた。病気がちだが才気溢れる少女・林黛玉は、従兄弟の賈宝玉とともに育ち、心を通わせる仲だった。しかし周囲を取り巻く大人達の陰謀が、想い合う二人を容赦なく引き裂いていく…。

諸事情で制作が伸びに伸び、ファンを散々待たせてようやく公開された。
が、大陸では公開直後から批判の嵐。まあ最近の紅楼夢は何を作っても炎上ばっかなのでまたか…と思いつつ、こんな評価の悪さじゃ日本での放映も無理だろうと落ち込んでいた矢先、今年の中国映画週間にピックされていたので即チケット購入。

まーガッカリしたくないから期待せず観るかぁと、頭空っぽにして観賞。
で…。

 

 

……え?

……アレ?

なにこれ。

 

面白いじゃん!!!!!
ていうか、泣いちゃったよ!!!!何度も!!!!(後で詳しく)

でも同時に思った。
これ、どう考えても紅迷(紅楼夢ファン)向けの映画だと。
原作を一度通読した程度ではついていけないと思う。なんならドラマや映画とかも幾つか履修して色んな紅楼夢に慣れておけ、とすら感じるレベル。
それくらい原作未読の観客への突き放しが凄い。少なくとも下記あたりが壁になると感じた。

・ストーリーの時系列が滅茶苦茶変更されてる。なので個々の場面をちゃんと記憶してないと、原作一度読んだくらいではかえって混乱してしまう。
・細かいエピとかまで拾い上げて二時間足らずの映画にぶち込んでいるにも関わらず、原作未読の人達をフォローする説明が一切無い。
・同じく原作のギャグや言葉遊び、アイテムや設定についても一切説明が無い。太虚幻境とかあれじゃ意味不明だろ。
・一部キャラは上映時間と原作いじくりの関係で改変が激しい。

……どうしろと!!???
Twitter上でいくつか観た日本人の感想が全然わからなかった、なのもよくわかる。わかるわけがない。
なんなら中国人でも無理だろ、これ。

一応、私はわかる側の人間だったので、つまずくことなく観れた。というか、予想を色々裏切られて凄く楽しめた。
以下は箇条書きでざっくりした感想。
・二時間で本当によくまとめた。凄すぎる。時系列入れ替えは仕方ないというか、こうするのか!と感心すらした。ちなみに過去の紅楼夢映像作品でも時系列入れ替えとかは案外やってたりするので私は割と許容派。でもそれを知らないと「胡玫監督は紅楼夢を滅茶苦茶にしている!」と誤解しかねない。上で映画なんかもいくつか観た方がいいと書いたのはそのため。
・ちゃんと宝黛釵の悲劇をメインに描けている。特に良かったのが古典っぽい古くささが抜けてて、現代人が共感できるように表現してるとこ。普通の泣ける古装ラブストーリーだった。
・宝玉と黛玉、ビジュアルはもう一歩だったけど本人達の演技と演出でほぼカバーしてた。好きになった。
・音楽が大変よかった。葬花の挿入歌もダイナミックに映像を使っていて効果的。
・セット小道具は、観る前はまたいらんとこにじゃぶじゃぶ金使ってんのかとか思ってたけどいい感じに裏切られた。とてもストレートに大貴族の豪邸を表現している。変な凝り方をしてた2010年版のせいでセット周りに金を使うことへの拒否反応が出てたようだ。
・空を飛ぶアングルから屋敷や庭園をうつしたショットが多い。わかりやすく広大さが演出されてる。よく考えたらこういう現代風演出を紅楼夢の映像作品で全然観たことがない。細かいことだけど感動した。
・映像美とはこういう素直な表現でこそ生まれるんだなと2010年版のクソな映像の数々を思い出しながら感じた。
・宝玉の「君が去ったら僕は出家する!」で泣いた(1回目)。そう、これは当時の精一杯の愛の告白なんだよね。それを現代人にも通じるように表現してる。胡玫監督はわかってる!!
・元春の家族との再会エピ普通に泣けたわ(2回目)。いらんとか言ってごめん。
・魂を無くした宝玉に林黛玉が告白する場面で泣いた(3回目)。中盤とここで出てきた「経国美女~」のあれは原作になかったやつだけど、泣いてしまったからこれは監督の勝ちだわ。
・ラストの〇〇の表情(未見の方々の楽しみのために伏せておきます)。泣いた。監督のオタ魂というか愛を感じた。
・キャラ改変はメインの宝黛のための犠牲と思えばまあ許容範囲。特に薛夫人は激しかった。十二釵は殆どいるだけ参戦だけどまあこれもしょーがない。
・気に入ったキャラは王夫人。外面だけ優しそうで中が腹黒な演技が見事。ちなみに通霊宝玉紛失→婚礼謀策の流れ、なんか王夫人の意味ありげなカットがいくつも流れてるんだけど…もしかして?と妄想出来たりしちゃうのも楽しい。
・賈璉と王熙鳳の濡れ場というなんだか珍しいものを見せられた。
・一瞬しか出番が無いくせに意味ありげに画面に出てくるキャラ多数。これは多分わざとだと思う。お前ら紅楼夢ちゃんと読んでるかぁ~?(ニヤニヤ)という監督からの嫌がらせと受け取った。もちろん読んでますとも!
・これまでの映像作品では薄く描かれがちな賈家の経済事情を全面的に出してきてるのが新鮮。のっけから男どもが顔をつき合わせて朝廷への返済会議をしてる。林如海の財産を大観園の造営に利用する展開は本作オリジナル。せっかく新作作るんだから新しい解釈も入れよう!という監督の気概を感じる。
・薛藩が犯罪→宝釵が入内の資格を失う→だったらいいとこに嫁がせなくては、の流れ。原作はここまでガツガツしてないんだけど映画では婚礼への伏線にもなっていてわかりやすいと思った。
・胡玫監督がインタビューで述べてた「陰謀と愛情」というテーマは概ね理解した。もともと彼女は2010年版ドラマで監督をするはずが降板してしまった経緯があって、ドラマ版でやりたかったことを今回の映画に反映したのかな。でも生憎テーマを描ききるには映画が短すぎ…。もともとは三部作構成だったらしいし。ロードオブザリングみたいにエクステンデッド版とか作ってくれないかな…笑

とまあ、全体的に満足出来る一作でした。
あー、こんなことならチケット二日分とっときゃよかったわ…。
もう一回くらい見たら、自分が今まで観てきた映像作品の中での順位もはっきりしてくると思う。

で、私の感想を話したうえで、本国では批判だらけだったじゃん!という話についても語っておく。
まず私がこの映画で「いい!」と感じた部分をそのまま本作の欠点と考える紅迷も相当いると思う。というかそっちが多数派かな。
時系列ずたずた、キャラ改変あれこれ、これだけでも怒る理由には十分。原作通りにやってほしいという観客からしたら相当なマイナスだろう。大陸では原作からの乖離が激しいという批判が一番多いようだけど、それは本当にその通りで、改変を受け入れられるか受け入れられないかが本作の評価の分かれ目に感じた。また、襲人へのキックとか珍と可卿の関係とか出しっぱにして後はスルーみたいな小エピソードも、雑とかいい加減と感じられても仕方ない。
私はストーリーとか時系列はいじってもいいけど、主要なキャラとか本質的な部分を保ってくれれば許せる。ただ紅楼夢は沢山のファンを抱えているので、何が本質的で大事かはかなり意見が分かれるだろうし、そのうえ大陸第一の古典でもあるから、まぁ荒れるなというのがそもそも無理な話かもしれない。
あと、監督の改変は若者をターゲットとして視野に入れていたんだと思う。物語も台詞も演出も結構ストレートな恋愛ものの流れになっている。黛玉はひねくれ度合がかなりマイルドで、これは原作通りだと(加えていえば二時間の映画だと)嫌な女の子に感じさせてしまうからこうなったのだろう。これ以外にも宝黛の関係性をはっきりわかりやすくするため意図的に省かれたエピがいくつかある。特にその中でも大きいのが「慧紫鵑」じゃないだろうか。これは原作の第五十七回に出てくる場面で、詳しい説明は省くけれど宝黛の恋愛のターニングポイントになる超重要エピである。紅楼夢の単発映画や戯曲は数時間に納めるべく宝黛釵の話を中心にするんだけど、この「慧紫鵑」は必ずといっていいほど盛り込まれている。それほどの場面なのに、本作では省かれていた。なぜなら本作は映画開始時点で殆ど宝黛の関係性が出来上がってるからだ。だから「慧紫鵑」のようにわざわざ家中を巻き込んだ事件を起こし、お互いの気持ちを知る、という流れを組み込む必要がなかった…と私は解釈してる。
なんか話がそれたけど、要するに原作の宝黛の関係性はもっと遠回しで複雑なので、そのまま使うと現代人にも見やすいラブストーリーにはならない。それを監督は色々いじって調整してある。クライマックスで黛玉が「経国美女の~」なんてわかりやすい告白を言うのもその一端だと思う(ただこれも、本作の黛玉が気に入らない観客にとっては失笑ものだろうとは感じた)。
じゃあ若者がこの映画を楽しめるかといえば、原作をそれなり(というかかなり)読んでおけ、という前提条件が厳しすぎるので残念ながらダメでした、ってとこだろう…。
そして改変の数々は当然ながら原作重視、他にも87年ドラマ版聖典派なファンからすると「ふざけんな!!」になってしまった。わかる……わかるんだよそういう人達の気持ちも…。
あと、主役勢の演技を酷評する意見もあったが、これも改変のあれこれで制作側とファン側でキャラ解釈へのブレが出てるせいだと思う。正直私はそんなに酷い演技をしてるとは思わなかった。というか傑作と名高い87年版なんかは原作イメージ重視のキャスティングでむしろ演技力がちょっと…な人達もいたし、まあここらへんは難しいところ。特に2010年版の紅楼夢のように近年の古典名作映像化はオーディションとか制作側のあれやこれなんかも絡んできて、配役の事情は色々複雑じゃないだろうか。

散々褒めたので気になったところや悪かったところにも触れておこう。
・薛宝釵……。悪いけどこれはミスキャストだった。そもそも胡玫監督が宝黛推しみたいなので出番や台詞が少なくていまいち存在感が無く、だったらビジュアルで見せて欲しいところだけど宝釵らしさがちっとも感じられなくて色々残念だった。あの風呂?の場面も別にいらない……。
・襲人が宝玉の理解者みたいなツラしてるのはちょっとイラついた。こいつの本性はプチ王夫人なんだよ!これは監督と私の間で解釈違いがあった模様……笑
・上でも述べたように慧紫鵑の場面がないせいで、紫鵑の出番が少ない。そのせいで黛玉の臨終の「本当の姉妹だと思ってた…」もいまいち説得力が無い。あと、原作では紫鵑の方が宝黛の恋愛について理解してるのに上記の襲人のせいで「主人思いだけど宝玉との恋愛には疎い」みたいな描き方をされてたのがちょっと嫌だった。
・怒濤の勢いで挿入される小エピソードは歯がゆい。特に可卿のは投げっぱなしすぎ。焦大の例の台詞含めて賈家の堕落ぶりを表現したかったのはわかるけど…。
・あまりにも原作未読者置いてけぼりなのはやっぱり気になる。でもそっちに気を遣ってたら私みたいに楽しめなかったのも事実。

以下キャスト
边程/贾宝玉
賈家の変人公子。最初から最後まで一貫して黛玉一筋。普通に演技うまいしやんちゃぶりがとても宝玉していて良かった。演じてる年代も若くて子供っぽさに違和感がないのもいい(2009年「黛玉伝」の馬天宇とか育ちすぎてたし…)。

张淼怡/林黛玉
メインヒロイン。大半の紅迷が納得するような演者さんかと言われたら違うだろうけど、素の写真は割と黛玉っぽかった。ビジュアルの良くない部分、多分髪型だと思う。デコだしって健康的に見えちゃうんだよな。髪を垂らしてもっと弱々しい感じにしてくれれば…。そのほか、宝玉にもいえることだけど、やっぱり雰囲気を現代チックに寄せすぎているのも反感を買う要因の一つだったと思う。でも演技は頑張ってた。クライマックスの告白とか凄いよかった。
映画はいきなり黛玉の帰省場面から始まるので(普通は最初の上京から始まるのがセオリー)、これで面食らった観客も多かったと思うし、なんなら原作未読者はこの時点で置いてけぼりになりかねない。
性格のいじくりもとりあえず一度目の鑑賞では気にならなかった。二回目以降、じっくり見たら気にするかも…。
葬花のように従来だったらじっくり時間をかけてた場面が割と簡単に流されたのもやはり賛否両論かな。かといって、昔の映画同様、黛玉を泣かせて花びら散る中葬花吟を流しても、やっぱ今時にそぐわないというか古くさいよなぁ~という気がする。少なくとも宝黛の恋愛ものとしてみれば綺麗にまとまってる、が私の感想。

黄佳容/薛宝钗
上で述べた通り。撲蝶シーンはひどかった。婚礼も宝釵側の悲しみはスルーされてて、まあつまりこの映画では単純に宝黛の敵扱いなんだよな…。宝釵ファンにはあんまりだと思う。

林鹏/王熙凤
賈家の若嫁。家計管理を任され四苦八苦している。偶然転がり込んできた林家の財産をうまく用いようとするが…。
可もなく不可もなく、といったところか? 映画だからまあ違和感を出さない程度にやってくれれば十分。苦労人なところも描かれてて他の大人キャラより悪役ぶりが半端な感じ。

关晓彤/贾元春
王夫人の長女にして宝玉の姉。貴妃に昇格して賈家に莫大な威光をもたらす。
単発映画で元春の省親が描かれるのは珍しい。关晓彤は友情出演枠。やっぱり元春役には若すぎた。せめてあと五歳くらい年輩だったら…。バラエティで散々古装のコスプレやってたせいで、なんか元春もコス臭く見えてしまった笑

卢燕/贾母
賈家の長者。黛玉を深く愛している。家計のことには疎く、また周囲からの猛プッシュで段々宝釵を宝玉の嫁と認めるように。演じる卢燕さん、1927年生まれらしい…。フツーに演技してたけど元気すぎだろ。

杨童舒/王夫人
賈政の妻。家の内向きを任される立場だが基本的に熙鳳へ丸投げ。
終始腹黒さ全開で優しげなビジュアルとのギャップが凄い。どっから見ても諸悪の根源過ぎて笑える。まあ原作もそんな感じだから別に間違ってない笑

罗海琼/薛姨妈
薛宝釵の母にして王夫人の妹。息子が人を殺してしまったので賈家へ転がりこんできた。
めちゃくちゃ悪い女に改変されていて、これは賛否両論分かれそう。とはいえあの姉にしてこの妹ありな感じ。

薛藩/?
薛宝釵の兄。さる公子に売られた香菱を横取りしようとして殺人事件をお越し、薛家が上京する原因に。上京後も遊びほうけていた。演者さんの再現度がなかなか良くて印象に残ったけど、百度などで名前が見つからず。映画のクレジットも早くてわからなかった。

张光北/贾政
栄国邸の主にして宝玉の父。真面目な人物だが視野がせまく賈家の没落が見えていない。
娘である元春との御簾越しの再会が悲しい。これは原作未読だとわからないだろうけど、元春の近くに寄れるのは身内でも女性のみに限定。宝玉は弟で子供なため特別に許された。…というのが一切説明されないのが本作。

李越/贾琏
熙鳳の旦那。イケメン。黛玉を故郷へ送り迎えしたり、それなりに出番あり。
演じる李越さんは熙鳳役の林鹏さんよりずっと若かったりする。

冷鑫瑶/秦可卿
寧国邸・賈蓉の妻。皆に慕われる若嫁だが、裏では…。彼女に関しては詳しいエピがあるんだけど映画では知ってる前提で豪快に流されてる。

姚晓棠/贾迎春 杨宝静/贾探春 黄凰/贾惜春
賈家の三姉妹達。宝黛釵メインなのでほぼいるだけ。探春は黛玉のお見舞いにきてくれた。

江安菁/史湘云
四大家族のうち史家のお嬢様。申し訳程度にメインキャラ達と絡む。愛哥哥のくだりも出てきたけど原語の言葉遊びは翻訳だと限界があって難しい。

王艺潇/李纨
賈家の若き未亡人。もちろん何にも説明されないので原作(以下略

杨祺如/袭人
賈宝玉の筆頭侍女。主人へまめまめしく仕える侍女の鏡。時間の都合でお妾昇格エピとかは無し。終始良い子で描かれているのは気に食わない。こいつはプチ(ry

马菲/晴雯
賈宝玉の侍女。原作では侍女版黛玉的な存在だが本作では黛玉にハンカチを届けるくらいしか目立つ活躍がない。

曲芷含/紫鹃
林黛玉の侍女。もうちょっと黛玉との絆を描いてほしかったところ。とはいえ本作の宝黛は紫鵑無しでも十分カップルしてるのでまあこんなものか。演者さんがいかにもな侍女顔で可愛い。

丁嘉丽/刘姥姥
賈家の遠い親戚。困窮した状況を救ってもらおうと賈家を訪問。原作通りのお下品ギャグも言ってくれる。まあ劇場で笑ってる人はいなかったな…。しかしわざわざこのエピソード入れる必要あったか?は疑問。

というわけで、なんというか通好みの作品でした。
ファンそれぞれの意見があるだろうけど、私は熱意を以てこの映画を完成させてくれた胡玫監督に感謝です!!!

索命逍遙楼

1990年の大陸武侠映画。監督は李文化。

ものがたり
清の同治年間。兗州総兵の白寵は歓楽の限りを尽くす悪党として侠客達に狙われていたが、自らの住処である逍遙楼を万全の罠でかため、誰もが近づけずにいた。そんな白寵を仇と狙う青年・沈龍と、少女義賊の單娥。二人は力を合わせて逍遙楼に挑んでいく。

香港がワンチャイなどの洗練されたカンフー映画を撮っていたのと同じ時期に思えないほど、素朴で荒っぽい出来映え。バタバタせわしないアクションが実に大陸っぽい。ワイヤー、早回し、大袈裟な演出に頼らない堅実な作り、といえば聞こえはいいかも(地味ともいう)。まあこれはこれで好きだけど。

物語はベタベタの仇討ちもの。見所?はヒロインの單娥がピンチシチュのフルコースを食らうとこだろうか。罠にかかって捕まる、縛られる、昏睡薬を盛られてレイプされる、毒を受けてそれをヒーローに吸い出してもらう…などなど。挙げ句の果てにはレイプした男が自分の生き別れた兄でした…というオチ。やり過ぎ。誰得なんだこの爽快感のない展開は。
ラストは定番の出家エンド。まあそうなるしかないよね、これは…。

以下キャスト
黃國強/沈龍
本作のヒーロー。基本的に單娥のピンチに駆けつける役なので影薄め。

楊鳳一/單娥
本作の女主人公。ほどよく弱い。のでしょっちゅう敵にやられたり捕まったりする。演じる楊鳳一さんが美しい。アクションもほぼ自分で演じている模様。ちなみに演員よりも崑曲作家としての業績で有名なんだとか。

王赤/單彪
單娥の父。しかし娘との間には色々秘密がある。負傷していたとはいえ農夫とわんこに追い詰められる姿はなんか情けない。演員さんがよく動いて見応えあり。

王洪濤/白寵
本作のラスボス。逍遙楼にしかけられた数々のトラップを武器に戦う。この手のカンフー映画ありがちで滅茶苦茶しぶとい。演じる王洪濤はあの94年版三国演義の黄忠役。

武侠映画「辺城浪士」と「仁者無敵」の謎

1993年公開の香港武侠映画「辺城浪士」。原作は武侠小説御三家の一人・古龍の同名小説。日本でも「英雄剣」のタイトルでDVDが販売されている。

で、この「辺城浪士」、実はかなり色んなバージョンが出回っているらしく、ネットを見ていてもノーカット版と編集版の二つをよく見かける。ちなみに日本に入ってきているのは編集版のようで、シーンのつなぎにかなり不自然な部分がある。
じゃあノーカット版はしっかりしているのかと思えば、やはりまだ不自然な途切れが残っていて、長年疑問だった。

そんな中で発見したのが「仁者無敵」という作品。サムネがまんま辺城浪士なので、てっきり中国映画によくある別題かと思って中身を見てみたら、これが全然辺城浪士と違う。といっても、キャストは同じだし、どちらの映画にも共通したシーンが30分くらいある。何より重要なのは、辺城浪士でカットされていたと思しき重要な場面が映像化されている! 何コレ? どゆこと? と思って百度の記事をあたったら、真相が書いてあった。何でも、最初は一つの映画として撮影したものを、それぞれ二つに分けて放映したというのだ。
じゃあ、この二つを一緒に見れば、一つの物語としてすっきりまとまった感じになっているのかといえば、それも違う。結末部分や登場人物の最期が全然違っている。だから、片方ずつ見てもストーリーに穴があってわけがわからない、両方見ても終わりが全然違っているので、原作を読まないとどちらが正しいのかわからない、と色々意味不明な事態になっている。
ちなみに「辺城浪士」は1993年の放映、「仁者無敵」は1995年の放映である。どちらも100分くらいの内容。
「辺城浪士」で抜けていた部分を「仁者無敵」のシーンで補って160分くらいにまとめると、綺麗に原作通りでいい作品に
なるんだけど、上映時間の制限とかに引っかかるからこうなったのだろうか。うーむ。

一応、それぞれにコンセプトがあるらしく「辺城浪士」は主人公達の仇討ちに重点が置かれ、「仁者無敵」の方は恋愛に重点が置かれている。が、その重視した部分のせいで、お互いに盛り上がる場面とかを切り捨てているのがもったいない。
例えば「辺城浪士」では、原作の山場である傅紅雪と翠濃の恋愛シーンが丸ごとカット。翠濃はぽっと出てきていつの間にかいなくなる意味不明なキャラになってしまっている。反面、「仁者無敵」は二人の恋愛を全部きちんと映像化しているが、凄腕の剣客・路小佳の出番が全部カットされてしまい「辺城浪士」で見所だったアクションがまったく見れない。それに馬空群の殺し方も物凄く雑。片方ずつ見てしまうと「なんでこのシーンが無いんだ!」となって非常にもどかしくなる。

どうしてわざわざ記事まで書いてこの映画を語るのかというと、結構出来がいいから。アクションもキャストも舞台も悪くない。物語も上述した抜けを除けば原作通り。終盤の傅紅雪vs路小佳は見応えがあって昔はよく繰り返し見ていた。
だからこそ惜しい。誰か、二つの映画をうまくまとめた「完全版」を作ってくれないだろうか。あ、今は動画編集ソフト使えば簡単にできるかな…。

参考百度リンク
https://baike.baidu.com/item/%E4%BB%81%E8%80%85%E6%97%A0%E6%95%8C/1023219

万水千山 1959年版

1959年の大陸映画。制作は八一电影制片厂。原作は同名タイトルの話劇。
先日1977年の映画版を見たので、最初の映画化であるこちらにも興味を持ち見てみました。

あらすじ
1935年。紅軍は毛沢東の指導の下、蒋介石率いる国民党軍の包囲を突破した。しかし、その後も敵の待ち受ける赤河、高大な雪山、果てしない湿地など幾多の苦難が紅軍を待ち受ける…。

先日、1977年版のレビューをした際に、人民解放軍の協力を得た雪山踏破や湿地行軍のカットがあるということを書いたんだけど、あれは私の認識ミス(百度の制作舞台裏記述を見たんですが、77年版では無く59年版のことだったようです)で、実は全部本作からの流用だったっぽい。
ほぼセット撮影だった77年版に比べ、本作は人と金が存分につぎ込まれている。現地でロケを行い、エキストラを多数動員、火薬もバンバン使っていて戦闘シーンは迫力がある。雪山は実際に登っており、広大な雪原に兵達が長い列を作っているカットは見応えあり。77年版では流された瀘定橋決死隊の活躍もちゃんと描かれ、マジで河の間に渡された細い鎖を前進して戦闘してる。フツーに狙い撃ちされそうだけどそこは物語だしまぁ…。また、何となく暢気な感じのする行軍だった77年版に対し、本作では雪山で落下死する兵や、湿地帯での疲労困憊ぶりが描かれたり、長征の過酷さも強調されている。総じて映像面の面白さは圧倒的に上だと思う。人物描写については、さすがに77年版が200分超の大作なのであちらの方が厚みもあるけれど、同時にプロパガンダの尺も凄かったので、本作の方が色々すっきりしていて見やすいかもしれない。一部キャラの最期も異なる。あと、対国民党よりも抗日が主軸に置かれてるのも特徴か。といっても、キャラ達が要所で抗日に言及するだけで、実際長征中に日本軍と戦うことは無かったけど。
長征を描いた映画として見るべきところは多いと思う。

以下キャスト
蓝马/李有国
紅軍政治教員。優れたリーダーシップで仲間を導く。渡河作戦で負傷し、その後も鉄の意志で行軍を続けたが…。

黄凯/赵志芳
紅軍戦闘隊長。各地の戦いで指揮をとる。

梁玉儒/罗顺成
紅軍副隊長にして李有国の同郷。頼れる相棒として李有国を支える。

白尔纯/小周
紅軍の若き兵士。最初は未熟だったが、長征を通して勇敢な戦士に成長していく。

李萌/李凤莲
李有国の妹。負傷した兄を気にかける。

王纯声/老周
紅軍の老兵士。炊事用の鍋を抱え雪山を上る途中、強風にあおられて転落死。その死は仲間に悼まれた。

倚天屠龍記之九陽神功・聖火雄風

2022年の香港テレビ映画。監督は王晶と姜國民。
金庸の武侠小説「倚天屠龍記」を改変、もっと正確に言うなら1993年に王晶が撮った映画「倚天屠龍記之魔教教主」のリメイク。「倚天屠龍記之魔教教主」は原作を散々はしょった挙げ句中途半端なところで終わってしまったが、本作は後編の「聖火雄風」と合わせて一応しっかり物語を完結させている。といっても、元ネタの小説が長大で筋書きも複雑なため、はしょり具合が豪快なのは旧作と一緒。

ものがたり
極寒の冰火島で生まれた張無忌は両親と共に中原へ戻る。しかし武林の争いに巻き込まれ両親は死亡。張無忌は冰火島で義父の謝遜に教えを受け、再び中原へ。折しも、蒙古朝廷と組んだ成崑によって武林は混乱の最中。張無忌は母と義父の属していた明教を救うべく六大正派との戦いに身を投じるが…。

長大な原作小説を五分の一くらいに圧縮し、かつ設定もいじりまくっている。なので殆ど別物と考えて楽しむのがいいかも。
キャストは武打星や王晶映画おなじみの顔ぶれが勢揃い。皆さんご年輩なこともあってか、役の年齢もそれに応じて引き上げられている。アクションは動ける人達が多いので見応えあり。でもキャラが多すぎるので一人あたりの出番が減ってしまっているのが悲しいところ。あとCG過剰なのも少し気になる。終盤もオリジナル展開。尺が足りないので蒙古との戦いとか殆ど投げっぱなしになってしまってるけどしょうがない。屠龍刀と倚天剣に出番を作ってくれたのはいい感じ。あと、原作を除けば聖火令がここまで強力な武器として取り上げられている作品も珍しいかもしれない。といっても人間を分裂させたり歯車のように回転させたり意味不明なマジックアイテムと化してるけど。まあ笑えるからいいだろう。
総じてそこかしこにちりばめられた金庸成分を楽しみつつ、アクションを見所とする作品。93年版と一緒に見て時代の流れを感じてみるのも一興。

以下キャスト
林峯/張無忌
年齢が三十代にまで引き上げられて大人の侠客に。それでも初心っぽいのが無忌らしい。前半で九陽真経を修得しているので基本的にほぼ負け無し。せっかくアクションも頑張ってるのに過剰なCGで台無しにされている気がしなくもない。

古天樂/張翠山
無忌のパパ。せっかくの古天樂なのに出番が全然無い。

甄子丹/張三丰
武当派の掌門。まさかのドニー・イェンが演じる。原作よりも激情家っぽい感じ。残念ながら後半では殆ど出番がない。

文詠珊/趙敏
メインヒロインその1。無忌との恋愛エピは一応一通り抑えてある。2019年版倚天のようないいドラマを見た後だと、原作通りやられても可もなく不可もなく、といったとこか。

邱意濃/周芷若
メインヒロインその2。猫顔。ダーク化してデコ出しになった方が綺麗に見える。あからさまに小悪魔女してて好き。ラストバトルでは、修行期間が短かったとはいえ九陰真経が少林寺七十二絶技以下の扱い。悲しい。

云千千/小昭
メインヒロインその3。ビジュアルもキャラも93年版を意識してる感じ。原作の殷離役も兼ねており出番多め。

徐錦江/謝遜
明教幹部。無忌の義父でもある。色々説明必要なところがすっ飛ばされてるので原作を知らない人が見たらわけがわからないと思われ。

方中信/楊逍
明教幹部。殷天正・韋一笑と三人コンビで活躍。せっかくの方中信なのにアクションの見せ場があまりない。

駱應鈞/殷天正
明教幹部。光明頂でのバトルがピーク。以後は画面にうつるけどあんまり戦わない。

黃浩然/韋一笑
明教幹部。別名青コウモリ。物凄い髪型をしている。無忌のお付きとしてアクションでは一番出番がある。

郭政鴻/范遙
明教幹部。スパイとして趙敏配下にいた。万安寺で活躍した後は他のメンツに紛れてしまい目立たず。

陳紫函/黛綺絲
もと明教幹部にしてペルシャ総教に仕える身。終盤は聖火令を無忌のもとへ届けて成崑討伐をアシスト…ってわざわざペルシャから駆けつけてきたの?しんど…。

朱晨麗/殷素素
無忌の母。原作と亡くなる経緯が違う。

梁琤/滅絕師太
蛾眉派掌門。過激な尼さん。周芷若に呪いの遺言をするのは原作通り。

黃栢文/宋遠橋 耿長軍/俞蓮舟 黃竣鋒/俞岱巖 徐偉棟/張松溪 何浩文/殷梨亭 洪卓立/莫聲谷
武当派の長老達。通称武当七侠。ワラワラ出てくるが原作にあった出番をことごとく奪われており影が薄い。

劉浩龍/宋青書
武当派の高弟。一門を裏切った後、周芷若にゴミのように扱われあっさり死亡。

釋延能 成崑(即圓真)
謝遜の師匠。蒙古と中原武林の間で暗躍する。本作のラスボス。少林寺七十二絶技と、屠龍刀・倚天剣の両方を手に入れ無忌の前に立ちはだかる。ファンサービスの一環なのか、王昌監督ってこういう奥義のコンボ大好きだよね。自信満々に会得した奥義が見事に敗北フラグな硬功系なのもお約束か。

丁一森/鹿杖客 喻亢/鶴筆翁
趙敏配下の達人。通称「玄冥二老」。原作では終盤まで無忌の前に立ちはだかるが今作では万安寺であっさり戦死。もったいない。

樊少皇/阿狗(玉面劍神南宮野)
趙敏配下の達人。倚天剣を操り無忌へ挑む。演じるは2019年版「倚天屠龍記」で成崑を演じた樊少皇さん。

老人与狗(犬と女と邢老人)

1993年の大陸映画。北部の貧しい農村を舞台に、文革期の闇を描く。原題は「老人与狗」だが、日本では主要人物である女性を加えて「犬と女と邢老人」とわかりやすいタイトルにしている。監督は「芙蓉鎮」などで有名な謝晋。原作は傷跡文学で有名な張賢亮。

ものがたり
北部の貧しい農村に犬と二人きりで暮らしている邢老人。ある日、物乞いの女が訪れたので面倒を見てやる。彼女は富農出身のため迫害され、山の村から逃げてきたのだった。生産隊の天貴の勧めで、邢老人は女を娶ることにする。しかし女の階級のせいで、正式な結婚は認められなかった。近づく冬を前にして、女は姿を消してしまう。やがて、文革の本格的な波が村にもやってきた。穀物の消費を抑えるため、村中の犬を処分するよう党から命令が下る。邢老人は必死に抵抗するが、やってきた民兵によって犬は殺されてしまうのだった。

文革後、その破壊や事件を扱った傷痕文学が書かれるようになり、さらに80年代後半にかけて多数映画も制作された。本作もその中の一つ。あらかさまな党批判を避けるためか、文革の被害は降ってきた災難のように描写される。背景や事件についても結構ぼかしが入るので、予備知識なしに見るとわからない部分も多くなりがち。
本作も文革の問題を描いているのだが、作中で起きているのは貧農にすむ老人のごく個人的な悲劇だけで、まあこの程度なら「共産党が悪い!」「文革が悪い!」なんてメッセージ性は薄いだろう。それでも、女の口から出てくる大寨運動、富農出身のため結婚できない、林彪批判のスローガンなどなど、制作側がそこかしこに文革の闇を感じられるヒントを小出ししている。
階級闘争で荒れまくる女の出身地も嫌だが、邢老人の村も噂が一瞬で広まり、下品なとこまでプライバシーが筒抜け。こっちはこっちで暮らしづらそうだ。
荒涼とした景色と、埃っぽい映像はいかにもこの時期の大陸映画といった感じ。文革ものに触れたい方にはおすすめの一作。

以下キャスト
谢添/邢老汉
村の老人で犬と二人暮らし。六十歳を過ぎているが妻もおらず女も知らない身。素朴で善良。物乞いに来た女をかくまい、やがて娶ることになるが彼女の抱える政治的な問題には何もしてやれず。

斯琴高娃/匡玉清(逃荒女)
山の村から逃げてきた女。大して裕福な暮らしをしていたわけでもなかったのに富農認定されてしまい、嫁いだ家から逃げ出して邢老人の村にやってくる。迫害を恐れてなかなか自分の素性を明かそうとしなかった。年は四十前で、子供も二人いる。夫は恐らく批判対象となり下放されたか殺されてしまった模様。彼女が逃げた後も迫害は続き、舅は足を折られ、子供は働きにかり出されていた。

高保成/魏老汉
邢老人のご近所。女を娶るように勧めた。

冯恩鹤/魏天贵
魏老人の息子で村の生産隊の隊長。党からの命令は守るものの、その政治的な意図については馬鹿馬鹿しいと思うなど良識派。富農階級の女が結婚出来ない問題に対しても現場対処で柔軟にすり抜けようとした。が、犬の処分については生活上重要な問題でも無いし政治的にうるさいからと、邢老人の立場に同情しつつも命令に従った。

孟瑾/马三婆 刘洋/天贵妻 韦歧琴/乔二 卢春梅/小虎妈
村の女性達。お節介焼き。邢老人と結婚した女への視線がなんかヤダ。本人達は好奇心半分、好意半分なんだろうけど。

王志洪/聂队长
県から来た人民公社の隊長。村人達に階級運動を促し、犬の処分を命じる。真面目に話を聞かない村人達の描写がいかにも県と田舎の政治的意識の差を感じさせて面白い。

高妍/小雪
村の生産隊の女子。帳簿をつけたり、邢老人の失踪した女捜しに同行したりする。劇中では全然説明されないけど恐らく党員か紅衛兵かな?

金玉良縁紅楼夢

1977年の古装映画。中国古典四大名著の一つ「紅楼夢」を映画化。ショウブラザーズ制作。監督は歴史劇を撮らせたら右に出る者はいない李翰祥。

原作から宝黛釵の恋愛エピソードのみを抽出している。これは時間に制約がある戯曲や映画などで古くから用いられている手法の一つ(紅楼夢はただでさえ話が長く、脇のエピソードも多いので)。というわけで紅楼夢初心者にもわかりやすい内容となっている。色々省いた分、十二釵の大半が出てこないのは致し方なし。
タイトルの金玉良縁がちょっと謎。宝玉と黛玉を主軸に考えるなら木石良縁の方がよくないか。字面的に華が無いかもしれないけど。
宝黛釵の出会い、葬花、慧紫鵑など、重要なエピソードはきちんと抑えられていてどれも完成度高し。一部改編として、慧紫鵑の流れから宝玉の病気を祓うため宝釵と結婚させる流れになっている。これはこれでなかなかいい繋ぎ方。キャストも衣装もセットも素晴らしい。古典名著の映像化だけあって気合いを感じる。この時期の古装ものなので、人物がみんな突然歌い出すのが気になる人には気になるかも。特に後半はほぼ歌いっぱなし。
紅楼夢映像作品の中でも良い部類に入ると思う。紅迷はとりあえず見るべし。

以下キャスト
林青霞/贾宝玉
賈家の変人公子。登場シーンからエキセントリック全開。演じるはあの名女優・林青霞。女性が宝玉を演じるのは結構多いパターン。

张艾嘉/林黛玉
ヒロイン。涙の似合う顔立ちで雰囲気は出ている。とはいえ黛玉についてはもっと神なキャスティングが幾つもあるので、张艾嘉も悪くは無いけど…くらいのレベルかな。宝釵には軽口を言いながらも最初から良好な関係。物語も整理されていて黛玉の心情がわかりやすくなっている。どうでもいいけど臨終のシーン、長椅子じゃ無くてもっと寝やすいとこで休ませてあげなよ…って思った。

米雪/薛宝钗
お姉様の風格漂う宝釵。ちょっと説教くさくて宝玉と心の距離があるのは原作通り。かなりはまっている。米雪さんは1977年の香港ドラマ版でも宝釵を演じている。もうちょっと出番多くても良かったかも? 慧紫鵑の後出番が少なくて、やむを得ず政略婚に加担する宝釵の心情も描いてほしかったところ。

狄波拉/紫鹃
黛玉の侍女。滅茶苦茶かわいい。後半も出番多くて黛玉よりも紫鵑ばっかり見てしまった。独唱場面も多いほか、黛玉死後に宝玉の裏切りを非難する場面まで出てくるなど脇キャラにしては破格の扱い。調べてみたところ、もとは演者の狄波拉さんが薛宝釵候補だった(それも監督の李翰祥推し)のを、本人が紫鵑役を希望したのだとか。そんなわけで沢山出してあげたかった、ということらしい。でも確かに宝釵より紫鵑の方が合ってると思う。ナイス。

胡锦/王熙凤
賈家の若嫁。王夫人と組んで宝釵を宝玉の嫁にしようとする。原作のエピをことごとく削られているのでただの悪い女にしか見えない。

欧阳莎菲/王夫人
宝玉の母。見た目だけは優しそう。原作のエピをことごとく削られているので(ry

祝菁/袭人
宝玉の侍女。つり目でちょっと表情がきつい。原作の(ry
宝玉に「あそこにいるのは誰?(宝玉は黛玉と結婚すると思っていたのに宝釵がいた)」と聞かれた時の「何言ってるんです。あなたの奥様ですよ(ごまかし笑顔)」がイラつく。

王莱/贾母
賈家のグレートマザー。映像化されるといつもふくよかなビジュアルなので、本作のほっそりした賈母は珍しいかも?

郭佑华/蒋玉菡
役者にして宝玉の友人。賈政のお仕置きシーンにうまくつなげるための出演。

尤翠玲/晴雯
宝玉の侍女。黛玉へハンカチを届けたり、扉を閉めて黛玉を追い返したり、原作通りなんだけど存在感をあまり感じられないエピしか出てこない。

惠英红/麝月
宝玉の侍女。演じるは往年のアクション名優さん。よく見ないと出番がわからない。

姜南/焦大
賈家に古くから仕える使用人。映画は彼の独白から始まる。