1987年の大陸ドラマ。巴金の代表的な小説「家」「春」「秋」の激流三部作を映像化した作品。監督は李莉。さらに芸術顧問としてあの曹禺が参加している(おそらく、過去に巴金作品の話劇を作った経歴があるからだと思われる)。すげえ。
全19話という短い話数ながら、原作のストーリーをきっちり再現している。構成としては1~9話が「家」、10~14話が「春」、15~19話までが「秋」という感じ。ドラマは主人公・覚新の青春時代から始まり、原作よりも時系列が整理されていてわかりやすい。キャストのビジュアルも大分はまっているし、衣装やセットも素晴らしい。何分古いドラマなので、現代の目で見ると演出に稚拙な部分も目立つが、原作の硬派な雰囲気とは合っている気もするし、これはこれでいいかも。
さて、本作最大の見どころは、何といっても87年ドラマ版紅楼夢で二大メインヒロインを演じた陈晓旭と张莉が出演していること! 二人が演じる梅芬と鸣凤も、封建主義の犠牲者という一面があるし、紅楼夢の林黛玉と薛宝釵を意識しているような印象を受ける。実際、彼女達の出番は前半の半分程度しかないんだけど、紅楼夢ファンならこのキャスティングを見て放っておけるわけがない。ほんと、誰が考えたんだろうなあコレ。
もちろん、あの巴金小説が原作なので、彼女達目当てじゃなくても存分に楽しめる。何気に大陸で激流三部作をきちんと映像化した作品は少ないので、巴金が好きなら是非見るべし。
キャスト
林达信/高觉新
高家の新世代。新式の教育を学び、愛し合う恋人もいたが、家の掟によってその青春は破壊される。亡くなった父に代わって家を継ぐうち、本人は半分高家の流儀に流されており、それに反抗的な弟達とも溝を作りがち。家庭内で次々に起こる悲劇を見て、彼の善良な心は次第に蝕まれていく。演じている林达信、優しさと弱さを兼ね備えたインテリ中国男児っぽさが素敵。学生服姿はちょっと無理があったけど。
孙启新/高觉民
覚新の弟。思想的には末の觉慧寄りだが、彼よりもマイルドに生きている。觉慧が上海へ去ってからは家庭内で彼の代わりを担い、声を荒げることが多くなる。ビジュアル的には一番大人しそうな感じなんだけど。
傅以宏/高觉慧
三兄弟の末っ子。「家」における主役。高家の旧思想にことごとく反抗する武闘派。家のやり方に従順な兄にも厳しい態度をとる。上海へ行ってからは原作通り出番なし。
陈晓旭/梅芬
覚新の従姉妹。覚新と想いあう仲だったが、家の掟により二人の結婚は許されず、それぞれ別の相手に嫁ぐことに。演じる陈晓旭のせいで、何かにつけて林黛玉と結びつきを考えてしまう。黛玉が望まぬ相手に嫁いだらこんな感じになったのでは…。紅楼夢もこの家春秋もほぼ同時期の制作なのに、役柄のせいか本作の陈晓旭はかなり大人びて見える。ちなみに彼女が出演したドラマは紅楼夢と本作だけだったりする。
张 莉/鸣凤
高家の侍女。觉慧を恋い慕っているが、絶対的な身分差があるために思い悩む。やがて家長の命令で妾として売られることになり、人生に絶望。投身自殺して果てる。演じている张莉のせいもあるだろうけど、上の者達や習わしに対して従順に生き、そのため不幸になってしまう生き様が薛宝釵を思い起こさせる。
徐娅/李瑞珏
覚新の妻。おみくじで当たったため高家に嫁いでくる。覚新とは良好な家庭を築いていくものの、家のしきたりによって彼女も犠牲者になってしまう。邪気の無い優しげなビジュアルが原作の李瑞珏のイメージそのもので素敵。結婚後の暮らしぶりを見る限り、何だかんだ覚新が最も愛した人だと思う。
杨昆/淑英
高家の二小姐。「春」のヒロイン。父親に望まぬ婚礼を押しつけられ絶望するが、兄弟達の助けで上海へ逃げることに成功する。
施天音/蕙表妹
高家の親戚の一人。望まぬ婚礼を押しつけられ(こればっかだな)、人生に絶望して衰弱、やがて死に至る。覚新とは仲がよく、彼女の死は覚新の心に大きな傷を残した。演者さんは淑英より可愛いと思う。それにしても結婚してから死ぬまで早すぎ。
邰华/高老太爷
高家の家長。家のことについて絶対的な権限を持っており、反抗する者は許さない。
张先衡/高克明
高家の三爺。世代としては二世代目で、覚新達から見れば叔父にあたる。家の流儀に忠実で頭は堅いが、二世代目の中では割合まとも。高老太爷亡き後は家長として家をまとめようとするが、弟達の堕落ぶりもあってうまくいかない。
李长年/高克安
高家の四爺。二世代目におけるダメ人間の一人。常に他人の顔色をうかがって、強者の側についてうまく立ち回ろうとする小物。
吕凉/高克定
高家の五爺。妻をほったらかして女漁りや賭博に走るダメ人間。でも遺産相続の話や宴会イベントではやたら出しゃばる。こんなんに限って最後まで生き延びてしまう。
宋忆宁/琴
高家の親戚筋の一人。覚民と仲が良い。進歩的な教育を受けており、一族の中では最も思想が進んでいる。髪型や衣装も最先端。
郑毓芝/陈姨太
高老太爷の後妻。いつも高老太爷のご機嫌に執心している。若い世代にもあれこれ嫌がらせをするいやなババァ。
张锋/剑云
覚民達の学友。
于菁/淑华
三小姐。覚新達と同腹の妹。まだ精神的に幼いながら、家庭にはびこる悪を敏感に感じ取る。最後まで家に残った数少ない人物。
譚小燕/翠環
高家の侍女。真面目な働き者。「秋」におけるヒロイン。悩める覚新の理解者として、彼と心を通わせていく。やがて、覚新の後妻として迎えられることになるが…。凛々しい顔立ちが美しい。
名場面
1話 二つの結婚
高觉新と梅芬。愛し合っていた二人は、親の言いつけで別の見知らぬ相手と結婚することになってしまう。茫然自失としながら婚礼当日を迎えた高觉新は、新婦の顔を見て呟く。「俺は彼女を知らない……」と。
キャストのせいもあるんだろうけど、初っ端から話が紅楼夢的だな~と思った。梅芬の花嫁姿はとても綺麗。それに比べて觉新の(というか民国期の)新郎衣装はかなりダサい。フツーに赤色の伝統的な婚礼衣装じゃだめなんだろうか。
9話 旅立ち
家庭内の様々な悲劇は、とうとう觉慧に決心をさせ、彼は家を出ていくことにする。觉新は弟に助力を申し出る。
「家」のクライマックス。兄弟愛にただただ涙。
14話 別れた運命
婚礼から程なく、蕙は死んだ。そしてまた淑英にも同じ運命が訪れようとしている。觉新は兄弟達と共に彼女を救い出す。淑英は言う。春がやって来た、と。しかし未だ家に縛り付けられている觉新は…。
「家」では觉慧中心の話が多く、觉新はヘタレのように描かれがちだったが、「春」からは觉新が話の中心になるので、彼の苦悩により同情しやすくなる(人によっては、余計にイラつくかもしれないけど)と思う。
19話 春は来ない
高家の一同は家を売り払い、各々が新しい生活を送ることになった。自分の身を顧みる觉新。これまでの暮らしで、愛した人達は去り、あるいは亡くなっていった。既に生きる望みを無くしていた彼は…。
三部作通しての主人公はやはり觉新。最期の最期で翠環を守り抜く姿にただ涙。
百度リンク