中国現代文学傑作セレクション 一九一〇-四〇年代のモダン・通俗・戦争 [ 大東和重 ] 価格:10,780円 |
中華民国期の作家・王平陵の短編。中国現代文学傑作セレクションにて翻訳が掲載されている。
日中戦争の頃、さる村の治安維持会の長を務める張大雄は自らの保身のため、日本兵達に村の若者を次々と引き渡していく。張大雄の母親は、その中国人としてあるまじき非道な行いを阻止しようと奔走する。
王平陵という作家、私も本作を読むまでは殆ど知らなかったのだが、国民党系列の文芸グループに属して活動していたようだ。中国現代文学傑作セレクションでは、本短編の前に「民族主義文芸運動宣言」なるものが載せられている。これは当時の国民党文芸グループの文芸路線を明瞭にしたもので、要約するなら「作家同士バラバラのテーマで文芸活動するのをやめて、西欧諸国にならい民族主義を柱とした文芸活動をしよう!」といった感じ。
しかし主張の裏側には、この時期流行していたプロレタリア文学(左翼作家達)への対抗意識がある。中国政府が国民党・共産党の二派を形成して争っていたように、文壇でも両者が主導権を争っていた。文学を通じた活動で、知識人層の支持者を自陣営に取り込むのが本当の目的だったのだ。そんな情勢なので、文学も必然と政治的な色を帯びる。当時の知識人達が何を問題にしいていたかといえば、西欧列強や日本による侵略行為。ゆえに抗日ものがよく作品のテーマに選ばれたわけ。
本作もその典型例。お話は単純そのもの。文章がくどい。張大雄もわかりやすい悪役だし転向があっさりしすぎ。描いてあること自体は立派なお話なんだけれども、所詮抗日は建前で、プロパガンダが大目的だったんだろうな、という意図が透けて見えるから面白さも評価も半減する。もっとも、それは農村バンザイ労働者バンザイな人民文学をやってた共産党側だって似たようなもんだけど。こういう作品読む度、つくづく老舎や巴金は偉大な作家だったと感嘆する。
当時の文壇の雰囲気を知る、という意味では価値のある作品だと思う。