価格:3,520円 |
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謝肇淛の随筆集。明末の官吏だった作者が、赴任した各地の見聞を書き留めたもの。
とにかく話題のバラエティが凄い。政治、経済、学問、文芸、酒食、祭事、歴史、商売、治水、医学、珍品、迷信、動植物、怪異、あらゆることについて述べている。それも単なる事物の紹介に留まらず、いちいち細やかな考察が入っており、作者の見識の高さをうかがわせる。
もし中華系の創作がしたいなら、本作はまたとない資料になると思う。食べ物や芸術品を参照するも良し、アイディアの元ネタに使うも良し、色々と役立ってくれる。
個人的には文芸評がとても面白い。当時も「小説が史実に合致しなければ書くべきではない」という極端な史実厨がいたようで、作者は彼らに対し「そんなら史書でも読んでりゃいいじゃん。ナンセンスだよ」と述べたりしている。
当時のタイムリーな話題だったこともあるのだろうけれど、国防や倭寇、異民族に関する記述が目立つ。万歴期はまだ女真人(後の清)がそれほど大きな脅威になっていなかったとはいえ、三大征(ボバイの乱、朝鮮戦争、楊応龍の乱)のような大事件も起きていたし、軍事は切実な問題だったに違いない。作者自身もしばらく工部や軍部で働いており、本作で屯田の重要性を説いたり、正規軍の弱体ぶりを嘆いたりしているのもその経験ゆえだろう。
またこの頃は、経済文化の絶頂と裏腹に、官吏の腐敗が上下問わず酷くなっていた。受験の不正や役人の横暴などについても、作者は細かく述べている。それほど逼迫した書き方ではないけど、明は確実に終わりへ進み始めていたのだと感じる。
清代に入ると、本作は検閲に引っかかって禁書となってしまった。一方、同時期の日本では輸入によって流通し、一種の百科事典として愛読されていたそうな。