玉鏡台

中国古典名劇選 II [ 後藤裕也 ]

価格:4,620円
(2020/9/14 23:15時点)
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才子佳人ジャンルの元曲。作者は関漢卿。タイトルの由来は、作中における婚礼の結納品から。

あらすじ
東晋時代。役人の温嶠は、おばである温氏の一人娘・倩英の家庭教師を依頼され、彼女に一目惚れしてしまう。書や琴を教える傍ら、何十歳も年下の倩英を手に入れたいと考える温嶠。折しも、温氏は倩英の婿を探しているところだった。そこで温嶠は「自分と同じ程度の人間なら紹介できるけどいかがですか?」と話し、相手の名を明かさず結納の品を渡す。後日、やってきた仲人に温氏が相手の素性を尋ねると、それは他ならぬ温嶠その人だった。騙されたと知った温氏は結納品を壊そうとするが、皇帝由来の品だったので粗雑に扱うことも出来ない。諦めて娘を輿入れさせたものの、初日から夫婦仲は険悪。それを見かねた府の長官が、仲を取り持とうと宴会を開く。温嶠の優れた文才をみて、倩英はようやく心を開くのだった。

ストーリー自体は、ロリコン趣味な結婚詐欺男が、策略でまんまと若い嫁さんをゲットしてハッピーエンド!というもの。いくら何でもあんまりすぎる。当時の観衆はこの終わり方で納得したんだろうか?  
関漢卿といえば「救風塵」や「竇娥冤」をはじめ女性描写が秀逸で、内容も女性視点に立ったものが多いのだけど、本作はクズ男の好き放題に話が進んでしまう。まあ、確かに温嶠は救風塵の周舎みたいにDVはやってないし、竇娥冤の張驢児みたいに殺人も冒してないが、現代人の感覚からしたらとても許される行為ではないような。
倩英も結婚してから長らく冷め切った態度をとっていた割に、たかだか一度の宴会で文才を見せつけられたら夫婦円満なんて、ちょっと納得がいかない。まあ、そもそも才子佳人ジャンル自体が男にとって都合のいい話ばかりじゃん、と言われたらそれまでなんですが。
過去にも今古奇観などで高齢男性に若い女性が嫁ぐパターンの通俗小説をいくつか読んだけれど、そちらは最初から夫婦円満だったり、妻の方が望んで嫁いできた、という展開ばかりだった。そのせいで余計に、策略を巡らす温嶠の印象が悪く見え、婚礼を強要された倩英が可哀想に思えてしまう。
「救風塵」みたいに真面目な若い書生を出して再婚する、ってな展開を加えた方が、ラストもすっきりしたのでは。

ちなみに温嶠は実在の人物で、両晋を通して重用された功臣。若妻をめとったエピソードも世説新語に元ネタが存在する。