環肥燕瘦

久々に中国語のことでも。
今回ご紹介したいのは「環肥燕瘦」という言葉。環は唐の楊貴妃(彼女は名を玉環といった)、燕は漢の趙飛燕を示す。前者はぽっちゃり美人として、後者はスレンダー美人として有名。つまりそれぞれの異なった美しさを表現した言葉。
出典は蘇軾の「墨妙亭詩」。実はここで出てくる環肥燕瘦は、字体の多様な美しさ(細い字も太い字もそれぞれ良さがある)といった意味合いで用いられていて、女性の美について述べたものではなかったりする。それが後代になると、徐々に意味が現代に通じるものへ変化していったようだ。

ところで、やせ型美人とぽっちゃり美人の対比で私の頭に浮かぶのはやっぱり「紅楼夢」の林黛玉と薛宝釵。しかし作中だと前者は西施、後者は楊貴妃にたとえられている。どうして「環肥燕瘦」ではないのだろう。ちょっと考えたんだけど、趙飛燕は健康的なやせ型美人、西施は顰に倣うの故事もあって病弱なイメージだからかもしれない。飛燕は掌や壇上で軽やかに舞ったエピソードとかもあるし、不健康な黛玉には少々そぐわない。宝釵も薬を飲んでたりするんだけど黛玉に比べたら全然健康的な感じ。しかし作中では、人が集まる場所にいるだけで汗をかく、腕の肉が太いせいで腕輪がなかなか外せない…なんて描写もある。ううん、ちょっと健康的を通り越して太り過ぎでは…? 本人も宝玉にからかわれてキレてたから、意外と気にしてたかも。まあ、当時の適正体重がどんくらいとかは知らんのだけど。
話を環燕に戻すと、飛燕には合徳という妹がいて、こちらも漢の成帝に愛されて姉に匹敵する地位を得ていたんだけど、彼女はスレンダーな姉と違ってふくよかで肌のつやつやな美女だったとか(小説「飛燕外伝」など)。楊貴妃との知名度の差もあるんだろうけど、徳肥燕瘦にはならなかったわけですね。

コメント

  1. にしきの ふみ より:

    そういえば紅楼夢の中で、林黛玉を趙飛燕にたとえた所って、有りそうで無いですね。飛燕って、「健康的」を通り越して、妹にまでニラミをきかせるような、権力欲の強そうな人だから、黛玉のキャラとは違うのでしょう。じゃあ西施は権力欲がなかったのか?と言われると、よく分かりませんけれど…w やっぱり病気がちとか、美しい眉をひそめたイメージがピッタリはまる、とかいうことなんでしょうね。

    • chunqiumeiju より:

      そういえば飛燕は怖い人でしたね…。
      黛玉も西施にたとえられてはいますが、第七十二回で下男の興児が言ってたような「よわよわ西施」みたいな感じがより近い感じでしょうか。
      紅楼夢以降だと、黛玉みたいなヒロインはみんな黛玉風みたいな言われ方をされますから、彼女のヒロイン像は紅楼夢が描かれた当時はやはり斬新で、それ以前の歴史にはイメージぴったりな人はいなかったのかも、と思います。