文化大革命を描いた余華の「芙蓉鎮」をドラマ化した作品。
製作は台湾電視公司。全三十五話。時期から考えて、大陸映画版「芙蓉鎮」の人気にあやかって製作されたことは想像に難くない。
ストーリーはかなり原作に忠実。大陸版が時間の関係で切り捨てたエピソードもことごとく拾い上げ、時系列順にきちんと映像化している。が、二十話ちょっとで原作のネタを使い尽くしてしまい、その後の展開はほぼドラマオリジナル。引き離された胡玉音と秦書田がお互いを死んだと思い込んだり、会えそうなところですれ違ったりの繰り返しで、正直退屈。
全体的にメロドラマ化しており、文革の実態とか思想運動への警鐘といったメッセージ性は映画より薄い。画面作りもおどおどろしかった大陸映画版に比べるとずっとソフト。まあ連続ドラマであの映画版の暗いノリを長々やられたら気が滅入ってしまうから、視聴者が見やすくするための配慮なのだろう。原作や映画は、芙蓉鎮という小さな舞台で広い中国社会の実態を描こうとしているのがよく感じられたけれど、ドラマ版はそこらへんも弱い。
台湾で作られたせいか共産党への悪口はかなり露骨。主要人物に「大躍進は失敗だ!」「こんな社会のどこが共産主義なんだ!」とか言わせたり、民兵の過激な暴力や、幹部層のあからさまな腐敗を描写したり。
というか、オリジナルキャラとオリジナルエピソードの大半がその悪口絡み。うーん、ちょっと力の入れどころを間違えてない? どうせ時間をかけるなら、もっと紅衛兵や下放の実態とか、四人組が打倒されていく過程とか、そのあたりを深掘りすべきだったのでは。
決して出来は悪くないのだけれど、総合的には大陸映画版に軍配があがると思う。
以下キャスト
胡玉音/赵雅芝
主人公にしてヒロイン。原作の玉音は田舎のちょっとした美人といったイメージが強いので、赵雅芝の美しさは正統派過ぎると思う。演技も全体的に上品さが漂い、あんまり田舎の女性らしくない。時々見せる、現代ドラマにそぐわぬ古装劇チックな仕草も気になる。娘時代から中年まできちんと演じ分けているし、普通に見れば文句のつけどころは無いんだけど、なにぶん、大陸映画版の劉暁慶の演技が素晴らし過ぎたので、比較するとどうしても見劣りしてしまう。
原作と明確に異なるのは、最初から最後まで秦書田に好意的なこと。後半は鎮の掃き掃除以外に道路建設の労働までやらされるようになる。悲惨な目に遭いまくりで可哀想なのは原作同様。
秦書田/沈孟生
芙蓉鎮きってのインテリ。右派認定を受け迫害されてしまう。後、寡になった玉音と結ばれるも、夫婦認定されず労働改造所送りに。
恐らく本作で最も話や人物設定が水増しされている。ビジュアルは原作を正当に映像化したらこうなるろうな、といった感じ。眼鏡をかけた中年以降のスタイルもよく似合う。むしろ映画版の肉体派な秦書田の方が意表を突いたキャストだったと思う。
音楽教師としての活動や、労働改造所へ送られた後の日々など、原作ではしょられたエピソードもオリジナルの改変含めて多数再現されている。また、やたらと女性にモテる。
谷燕山/云中岳
芙蓉鎮の食物主任にして解放戦争の英雄。鎮のみんなに慕われている。いい歳して未婚なのは、戦争でタマを打ち抜かれてしまったため。後、玉音と書田の子供の義父になり、面倒を見る。
役どころは映画版と殆ど変わらない。若い奥さんをめとるのはオリジナルエピソード。古参党員なので、悪人たちも簡単に谷燕山の行動を邪魔出来ず、そのおかげで玉音は度々助けられる。
李国香/邓程惠
本作の悪役。行き遅れの女党員。芙蓉鎮を足掛かりに出世していく。オリジナルエピソードとして若い頃に秦書田との確執が追加されてる。正直いらない…。こいつと王秋赦が悪巧みしている場面は色々胸糞が悪い。玉音へのいじめは単なる女性の嫉妬では片づかないレベルで陰湿。ここまで悪役をやらせるのなら最後は成敗されて欲しかったなぁ。
王秋赦/江明
芙蓉鎮のならず者。鎮でもっとも下層な暮らしをしていたことから、李国香によって労働英雄に引き上げられ、以後彼女の手足となって民衆を虐めまくる。学はまるで無いが悪知恵はまわり、国香が一時的に落ちぶれた時はあっさり見限るなど狡猾。
原作の三割増しで悪事のエピソードが追加。出てくるだけでイライラする。とはいえこっちはちゃんと報いを受ける。
黎满庚/萧大陆
若き共産党員。玉音とは恋仲だったが、家柄の問題で結ばれなかった。原作ではちょっとしか触れられていなかった玉音との恋愛エピソードが詳しく描かれる。そのせいでヘタレぶりも増加。奥さんに対するDVが酷すぎて見てられない。
伍川娜/马维欣
黎满庚の妻。玉音とは正反対で清楚さのかけらもなく口うるさい人。結婚後も夫が何かと玉音を気にかけ、そのせいで度々騒動に巻き込まれるので、玉音を憎んでいる。気持ちはわかる。
黎桂桂/赖水清
玉音の最初の夫。気弱で頭も悪いが、優しくて力持ち。李国香を殺そうとしたが、逆に民兵によって殺されてしまう。
黑子/蔡富贵
ドラマオリジナルキャラ。芙蓉鎮に住む右派分子の少年。名前も無いので黑子呼ばわり。成長してからもずっと同じ呼び方なのは可哀想。度々玉音や書田を助ける。あと、民兵に追いかけられるシーンでは何故か彼だけいつも被弾する。
刘小如/马萃如
ドラマオリジナルキャラ。芙蓉鎮に逃げ込んできた右派分子の少女。労働改造所に送られてきた書田を愛するようになり、ついには玉音との再会を邪魔したりする。正直こういうメロドラマ要素は余計。うまく料理すれば色々面白い話が作れそうな設定のキャラなのに。
楊民高
李国香のおじで県委員。かつて解放戦争にも参加していたが後ろ暗い過去を持つ。李国香の悪だくみをバックアップする本作の黒幕。