円形の精霊

干暁威の短編小説。
ひつじ書房の「中国現代文学 11号」に翻訳が収録されている。

あらすじ
清朝・順治年間に造られた一枚の銅銭。それは宮廷に仕えた伯母、皇帝の教師、都の兵士、名も無き農夫、文化大革命期の女学生…長い歴史の中で次々と持ち主を変えながら、一つの物語をつづっていく。

僅か数十ページの短編にも関わらず、中身は非常に濃いしスケールもデカい。まず物語のコンセプトが見事。一枚の銅銭を橋渡しに、異なる時代の色んな人々の話が描かれる。銅銭は度々消滅の危機に陥るが、偶然か運命か、歴史の激動や事件を生き延びて、人の手から手へと渡り、幾多の物語を作っていく。
読み終えた途端に、自分の身の回りを振り返り、あれこれ空想したくなる作品。確かに、ちょっと探せば自分より長生きしてきた「物」が身近にいくらでもあるし、それはきっと自分以外の人間と何かしらの物語を作ってきたのだろう…とか何とか考えてしまう。
また、作者はラストで面白いことを言っている。銅銭は無限にあり、一枚一枚がそれぞれに物語を生む。ならば、本編で書かれているような運命をたどった銅銭も必ず存在するはずだ、と。
そう考えればこの小説はまるきり作り物というわけではなく、本当にあったお話だといえるのかもしれない。