哪吒鈎沈

同人サークル「中壇元帥進香団・日本支部」より1999年に刊行された同人誌。タイトル通り、中国における少年神・哪吒について特集した作品。神保町をほっつき歩いて偶然見つけたのだけれど、面白かったのでレビューさせていただく。二十年前の同人誌なので、当然ながら現在では入手困難。

内容は140頁とボリュームたっぷり。哪吒に関する解説は、小説や雑劇だけでなく民間信仰や経典など幅広い分野から紹介されていてとても参考になる。その他マニアックなネタ、グッズ、巡礼地、イラスト、コラム、さらに有名教授の寄稿(なんと「封神演義」の新訳を刊行した二階堂善弘先生だ!)まであり。
著者の水歌ななこさん曰く、当時はちょうど藤崎版「封神演義」の連載によるブームがあり、またインターネットを使った幅広い情報収集(当時はまだネット黎明期だからね)もあり、完成にこぎつけることが出来たのだとか。古い同人誌は製作経歴にも時代性が感じられるのが面白い。

目玉はやっぱり明雑劇の翻訳「二郎神酔射鎖魔鏡」だろう。抄訳とはいえこんなマイナータイトルを同人誌で掲載しているのは凄い。しかし後書きでも述べられているようにあんまり面白くはない(笑)。ストーリーは突っ込みどころだらけで設定もガバガバ。まあ雑劇や通俗小説にはよくある話だ。哪吒が登場する古い作品、という部分以外の価値はあんまりないように思う。

その他、当時日中合同で製作されたスーパー歌舞伎・京劇の「リュウオー」に関するコラムも見物。哪吒の作品が演目に選ばれた理由がとっても興味深い。中国古典には全然日本が登場しないし、歌舞伎の中国像はデタラメだし、でなかなか合同で作るのに相応しいタイトルが探せなかったのだとか。ていうかコレ見てえ! どっかのアーカイブとかに残ってないのかな。情報求む。

参考文献も凄く充実している。どうせ同人誌作るなら私もこんぐらい気合入れなくちゃなぁ…と学ばせていただきました。

コメント

  1. 田中卓 より:

    はじめまして。

    最近、中国文学の森に足を踏み入れた者です。

    周囲に中国語や中国文学に興味ある者がおらず、また私自身も、これまで中国現代史や台湾史、台湾文学ばかり好んでおりましたので、中国(大陸)文学に対する知識がない中、大変素敵なブログに出会い、思わずコメントいたしました。

    今後、ブログを拝見しながら勉強させていただきます。