今更! バトルスター・ギャラクティカ 艦隊戦戦術論

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感想(2件)

今更過ぎるSFドラマ「バトルスター・ギャラクティカ」の考察です。本編視聴前提ですのでわかる方のみどうぞ。

バトルスター・ギャラクティカは2003年から2009年まで放映されたアメリカのSFドラマ。
十二の植民惑星に住む人類が、自ら作り出したロボット生命体・サイロンの反乱によって壊滅に追い込まれ、僅かな生き残りを率いて伝説の星・地球を探す壮大な物語。
本作の見所は沢山あるのだけれども、その一つが重厚でリアリスティックな宇宙戦闘シーン。普通SFのスペースバトルといえばキラキラしたビームや現代の科学力を大きく飛び越えた超兵器が飛び交う画面を想像するだろうけど、本作は敵も味方も実弾兵器を使い(最大火力も核兵器止まり)、戦闘機はダッシュや姿勢制御に細かくスラスターをふかし、主役戦艦のギャラクティカは外観も中身も実在兵器の延長線上にあるようなレトロぶり。それがまたとないリアルさと独自性を生み出している。まさにSFの新境地を開いた素晴らしい宇宙戦闘なのだ!
しかし……本作の主体は人間ドラマであり、これだけ気合入れて描写しているにも拘わらず、戦闘シーンはむしろ本編のオマケに近い。そのせいか、戦闘における戦術や、人類側の戦艦ギャラクティカとサイロン軍の母艦ベーススターのスペック差などについても劇中では殆ど触れられない。

で、私はドラマを見てずっと気になっていることがある。
バトルスターとベーススター、両軍の母艦が遭遇した場合の、通常戦術とはどのようなものなのだろうか、と。
何せ本編のギャラクティカは、何十隻という民間船の護衛という使命があるため、ベーススターと出くわしてもひたすら逃げの一手である。何度かやむなく戦う状況もあったが、四シーズン通しても十回に満たない。
というわけで、両者が通常戦闘を行った場合、どんな戦いが繰り広げられるのかをちょっと考察してみる。ちなみに本編(シーズン1~4 および単発ドラマrazor、the plan)のみを参照して書いてます。

まずはギャラクティカとベーススターの装備・スペックについて本編の内容をもとに検証していこう。

ギャラクティカの武装は以下の通り。
①上部二連主砲。計四門。過去はもっと沢山装備されていたが、ギャラクティカが退艦予定だったので撤去されてしまった模様。レイダーおよびミサイルの迎撃に使われ、命中すればベーススターの装甲も破壊可能な威力を持つ。主砲が上下左右に動くので、射角は広い。ただし連射には若干間隔がある。
②側面砲塔。船体側面に沿って多数装備されている。対空防御としてベーススターとの戦闘時は基本打ちっぱなし。接近してくるミサイルやレイダーを打ち落とす。射角は主砲に比べると狭めだが、防御効果は非常に高く、シーズン2第1話の戦闘シーンではその弾幕の激しさが描写されている。シーズン後半では弾切れをおこしてしまったのか使用シーンが無くなる。
③核弾頭。ギャラクティカの切り札。普段は内部に収納されている。うまく当てればベーススターも木っ端微塵。しかし段数が限られているので、使用は限られる。
④艦載機のバイパー。偵察から戦闘までなんでもござれの万能単座戦闘機。シーズン初期は旧式のマークⅡタイプが使われていたが、後期はペガサスからの補給もあり、最新機のマークⅦが多くなっていった。一回の戦闘における出撃数は大体20~40機。本来は40機運用らしいが、本編のギャラクティカは常にパイロット不足、機体不足に悩まされそういう状況は少なめ。
④偵察機ラプター。後半はミサイルを装備して戦闘にかり出されるようになった。恐らく側面砲塔の弾切れを補うため? 劇中で説明が無いためこのへんは憶測。

さて、劇中で見ていて特に興味深いのはバイパーの運用法だ。対ベーススター戦におけるバイパーの任務は、もっぱら敵戦闘機の迎撃である。母艦攻撃はまったくといっていいほど行わない。別に武装が貧弱というわけではない。ミサイルを装備してるし、状況に応じては核兵器も搭載可能だ。それがひたすら対レイダーに用いられているのは、レイダーがギャラクティカの防御網をかいくぐって攻撃してくるからだろう。
本編を見てもわかるのだが、ギャラクティカの砲塔の有効防御範囲は、ベーススターと向き合っている正面部分に限られる。真っ直ぐ向かってくるミサイルなら問題無く打ち落とせるが、その防御範囲を大きく迂回して攻めてくるレイダーは防げないわけだ。ゆえに、バイパーに頼るしかない。こう書くと、一見ギャラクティカが守勢に回りすぎているようにも思える。敵はミサイルとレイダーで雨あられと攻撃を浴びせてくるのに、こちらは守るばかりでどうやって攻めるのか?
そこで論点になるのがベーススターのスペックだ。こちらは下記の通り。
①ミサイル。通常弾頭と核弾頭を織り交ぜて使用。船体の至る所に砲塔が設置されており射角に隙は無い。なので敵がどの方向から迫ってきても対応可能。また、ギャラクティカが人間の生活空間に省いているスペースも、ロボットであるサイロンは弾薬庫などに回せるため、武装の搭載数は圧倒的に上回っている。
②艦載機レイダー。バイパーと同様、戦闘から偵察までこなせ、さらに単独のジャンプ機能まで備えた優秀設計。ウィルス攻撃も出来る。しかも無人なのでパイロットの消耗を気にせず運用可能。主要装備は機関砲とミサイル。ベーススターに無数搭載数されており、常に数の暴力で圧倒してくる。が、その割には数十機のバイパーで毎回何とか対応出来てしまうあたり、戦闘機同士の戦いはちょっと苦手なようだ。生体脳を入れることで、自己回復や学習機能といった生物らしい能力も持っているが、反面生き物の限界を超える反応速度は不可、病気にかかるなど、生物としてのデメリットも持ってしまっている。これはベーススターも同様。
上記の通り、攻撃力は圧倒的にベーススターが上である。
では、防御力はどうだろう? ギャラクティカについては、かなり堅牢である。現役から四十年が過ぎた戦艦にも関わらず、ベーススターのミサイルを何発浴びでも沈まない。シーズン3では行動不能に陥ったところを四隻のベーススターから囲い攻めにされたが、それでもペガサスが駆けつけるまで持ちこたえていた。まあ、沈まないのは物語上の都合も大いにあるとして。
対するベーススター。実は結構脆い。シーズン2の再生船をめぐる戦いでは、ペガサスとギャラクティカから通常兵器で挟撃され一隻が撃沈。もう一隻もペガサスから大ダメージを受けている(描写は省かれたが、恐らく撃沈か、撤退に追い込まれている)。シーズン3のニューカプリか脱出時も、ペガサスの正面大口径主砲でも大ダメージを受け、2隻が撃沈している。この脆さ、本編では説明されていないが、ベーススターに生体パーツが組み込まれているせいもあって、装甲強度は機械部品オンリーだった旧大戦時より落ちたのではないかと推測する。
つまり、ギャラクティカは防御しながらの反撃でじわじわダメージを与えていけば勝機があるわけだ。

まとめると、ギャラクティカの艦隊戦通常戦法は下記のようになる。

①ベーススターと遭遇したら、攻防に適切な距離と角度をとる。
②主砲・側面砲塔一斉射撃。接近してくるベーススターのミサイルとレイダーを片っ端から打ち落とす。
③安全空域を確保したらバイパーを発進、弾幕をすり抜け死角から襲いかかってくるレイダーを迎え撃つ。
④あとはひたすら持久戦。敵の苛烈な攻撃をしのぎつつ、主砲をじわじわ浴びせてベーススターを撃退もしくは撤退に追い込む!

てな感じではなかろうか。しかし、毎回こんな調子で戦っていたらあっという間に弾切れを起こしてしまう。本編のように補給もままならぬ状況では、逃げ回るのも致し方なしといえるだろう。
またこの戦術でいくと、基本的には物量がものを言う。結局のところ戦いは数なのだ。そこらへんも、どこまでも戦争をリアルに描いているギャラクティカらしい、といえるかもしれない。