追記(2024年)
この記事を書いたのは2019年なのですが、そこから数年で中国コンテンツは驚くほど日本に入るようになってきて(特に中華BLやアニメ)、もう以下に書いてあることは嘘みたいな出来事になってしまいました。
これから記事を読まれる方は、この頃はそうだったんだ~程度の理解に留めていただければ幸いです。
ほんと、今は中国本場のコンテンツを楽しみたいという人達にとって至福の時代だと思います。
滅茶苦茶解せない日本人の文化の受け入れ方。
欧米の映画や小説→普通に日本へ入ってきて、普通に流行る。
中国の映画や小説→中国本土のものが全然入ってこないし流行らない。代わりに日本人の作った中華ものが流行る。これって、なんかおかしくないですか?
— 春秋梅菊 (@chunqiumeiju) April 18, 2019
Twitterで呟いたことで割と反応いただいたのだけど、日本で流行る中華ものって、日本人が作ったものばかりで本国ものが全然ないよねって話。そもそものきっかけが、まあ例によって「キングダムの映画? キャスト全員日本人とか敦煌かよ」みたいな偏見オタクの愚痴だったりするんで、気に入らねえなって方はスルーしておくんなまし。
色々いただいた意見もご参考に、何となくまとめみたいなことを書いてみる。
何故、本土の中国ものが流行らないのか。様々な要素が絡んだ結果にせよ、主だったものは下記あたりになるのでは。
・市場の問題
そもそも市場に中国ものが流通する土壌が出来ていない。音楽も映画も小説も、中国ものが入ってくる比率が少ない。本屋に行けば棚の隅、蔦屋に行けば棚の隅、大陸は今屈指の映画生産国なのにも関わらず、日本で上映される映画は僅かだけ、云々。メディアもこぞって抗日ドラマや日本のパクリものみたいに、中国娯楽はレベルが低いような報道をしてしまう。市場がこんな有様だから、中国ものは売れない、面白くない、感覚が日本に合わないといった意見がツイートのリプでもフツーに出てきてしまうんだろう。けれど、ちょっと中国に深く触れれば、そんなのはただの偏見でしかないことはよくわかる。過去にはカンフーブームがあったのは周知の事実。また詳しいフォロワーさんによれば、ゲーム界隈における中国勢の進出が目覚ましいとのこと。市場は作ろうと思えば作れるのではなかろうか。やる気と量の問題だ。
ちなみにいただいたリプの中にあった「本土モノが流行らないって、中国に限らず、色んなことに言えるよね~」って意見は大いに賛同します。みんないいものは広めていこうね。
・日本人のスタンスの問題
これはフォロワーさんと話してて大いに納得したこと。日本人は昔から中国本土の娯楽を自分達で受け入れやすいように改変して享受している。江戸時代の読本がいい例で、水滸伝を元ネタに水滸伝を作ったり、笑話をもとに落語を作ったり。この前中国怪奇小説集のレビューをした時にも話したけれど、一昔前の日本なんて、近頃の中国を笑えないくらいのパクリ大国だったのだ(でも、欧米とかの作品は改変したり、自分達好みにリメイクして、といったことはあまりやってないように思う。何なんだろうな、この差は)。
文化の受容方法としては、むしろこういうやり方がフツーなんじゃないか、という意見もあった。確かにアメリカ人の考えるサムライとか、ゴジラや日本ホラーもののリメイクを見れば、自分達の好みに海外本土の娯楽を作り替えるってよくあることだよなぁと思う。文化需要のスタンスについてはわからないことだらけなので、文化人類学者の意見を求む。
・中国側の問題
大陸側の話になるけれど、中国は戦後から国内でゴタゴタ続き(内戦、大躍進、文化大革命、その他諸々)で、特に娯楽に関しては政治方面からの圧迫で壊滅状態、結果として国外に良質な娯楽を送り出せなかった事情がある。中国が安定して映画やドラマを制作出来るようになったのは80年代の半ばくらいからなのだ。みんな大好き三国志演義が大陸できちんとドラマ化されたのは、なんと90年代に入ってから。つまり、日本側が中国の娯楽を欲しがっても、本土がそれに応えられなかった。で、日本人はどうしたか。結局自分達で作っちゃったのだ。わかりやすい例として、人形三国志、堺正章版西遊記、中村敦水滸伝といったドラマ作品を、少しご年配の方ならご存じだろうと思う。日本人が中華ものを自給自足できる状態が出来てしまっているのは、大陸側が自分達の娯楽を送り出す機会を逸したことにも原因があるのでは。その証拠に、香港映画はカンフーブームが冷えた後も安定して供給が続いているし。
でまあ、何を問題にしたかったって、日本人が自分達で作った中国もので市場を埋め尽くしてたら、娯楽を通した中国への理解は深まらないよねってこと。
娯楽なんて面白ければいいのであって、文化理解のためのツールではないみたいな意見もあったけど、さすがにそれは娯楽の力をバカにしていると思う。
この前見た動画の受け売りなんだけど、中国にはない日本の文化として、食卓での掛け声がある。いただきますやごちそうさまの言葉は、中国からすると異質な習慣で、自分の言語にぴったりあてはめる言葉も無いそうな。でも日本のアニメや小説において、こういう日常的なシーンは必ず出てくるし、中国人からすれば「へえ、日本ってそうなんだ」という発見に繋がる。
学校の真面目な授業や、ニュースの極端な報道より、頭空っぽにして外国映画一本見る方が、よっぽど楽でためになるんじゃないか。キスやハグが日常的な欧米の文化を、私達はおかしいと思うだろうか? そりゃ、日本人が日本でやってたらあれだけど、向こうの国のそういう文化だよね、と理解しているはずだ。それはやっぱり、欧米の映画やドラマや小説が何十年もかけて物量的に沢山流れ、我々が彼らの異質な文化・日常を見るチャンスが増えているからだと思う。
翻って中国は? 中国の日常風景がニュースでちょっと捻じ曲げて報道されると、あれがおかしいだのわけがわからんだのといった風潮になる。中国の娯楽に日常から触れていれば、別段不思議に思わないことだったりするのに。
自分は日本の中華ものも好きだから沢山紹介しているけれど、やっぱり中国本土の娯楽ももっともっと日本へ入って来て欲しいと思う。