水滸戯「梁山泊黒旋風負荊」

中国古典名劇選 II [ 後藤裕也 ]

価格:4,620円
(2021/10/30 14:27時点)
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雑劇「水滸戯」の一作。水滸戯とは、水滸伝に登場する梁山泊のキャラクターを用いた雑劇で、主に元代以降作られた。話のパターンはある程度決まっており、宋江が配下の節句のお祝いや休日などにかこつけて頭領に下山を命じ、その下山した頭領が何らかの事件に巻き込まれるといったもの。本編の水滸伝とは設定で異なる部分も多い。(梁山泊の面々が最初から揃っている、個々のキャラクターの造形が本編と異なる、など)。
本作「梁山泊黒旋風負荊」はタイトル通り李逵が主役である。水滸伝本編第七十三回の一部と内容は大体同じ。

ものがたり
宋江を頭として栄える梁山泊。清明節のお祝いで、配下達は山を下りることを許された。頭領の一人である李逵は、王林が営む酒場へ顔を出す。と、王林は娘をさらわれ泣いているところだった。しかも犯人は宋江と魯智深を名乗ったという。これは許せん、と梁山泊に帰って宋江を糾弾する李逵。が、王林のもとへやってきて状況を突き合わせてみると、その娘をさらった宋江達は偽物であった。宋江は勘違いした李逵を罰するべく山へ戻る。その後、王林の店に、娘を手込めにした偽物達がまた現れた。王林は彼らを酔い潰すと、急いで梁山泊へあがり李逵の無実を訴える。事情を聞いた宋江は李逵に、偽物二人を捕らえてくるよう命じた。早速李逵は山を下り、偽物を捕らえて事件を解決したのだった。

ううむ。まず、これってハッピーエンドなんだろうか笑 娘は陵辱されて手遅れになってるし、偽物を捕まえられたのもどちらかといえば王林の手柄で、李逵は殆ど空回りする道化役。天真爛漫な暴れん坊ぶりは本編同様だけれど、肝心の物語が好漢の活躍劇としては何だかすっきりしない感じ。
水滸伝本編七十三回は、本作の内容を取り入れてはいるが、こちらよりもずっと出来映えがいい。相方の燕青がいい味を出しているし、李逵が宋江を疑う理由もうまい感じに過去のエピソードを拾っていて説得力があるし(本作は王林から聞いた話だけで宋江を疑うので、何となく無理を感じる)、李逵達はちゃんと自分の足で賊を探し回りさらわれた娘を取り返す。まあ、娘が陵辱されて手遅れな展開は同じとして…。そこは命も貞操も紙より軽い水滸伝世界だからしょーがない。

ちなみに水滸伝研究者の高島俊男氏は「水滸伝の世界」で水滸戯の物語の多くが水滸伝本編に取り入れられず、また当時作られた戯曲の総数から見ても数が少ないので、あまり人気が無かったのだろうと推測している。水滸戯の中でも李逵を主役にした作品が一番作られ、また人気もあったそうだが、それがこの出来映えなのを考えると、何となく納得してしまう。ただ、李逵のキャラクターはちゃんと完成されていて、そこは水滸伝本編にも劣らないと思う。