中華人民共和国演義 3、4巻

【中古】 中華人民共和国演義(1) 毛沢東の登場 /張涛之(著者),伏見茂(訳者),陳栄芳(訳者) 【中古】afb

価格:200円
(2020/7/16 18:27時点)
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中華人民共和国演義の三、四巻のレビューです。現代中国の激動期だけあって、どちらも非常に楽しい巻でした。

第三巻「粛清の始まり」
帯の文句は「中国ものブームの真打!!血湧き肉躍る現代中国史劇」。
主な内容は大躍進と反右派闘争、中ソ問題、チベット侵攻、中印戦争などなど盛り沢山。建国十年足らずで大事件の連続。
歴史小説の素晴らしいところは、教科書や参考書で読むと退屈極まりない事件の羅列を、かみ砕いた内容で、かつ楽しく読み進められるところだと思う。それが実際の史実を幾つか捻じ曲げたり、簡素化させてしまう弊害はあるにせよ。
本作に描かれた歴史を読み、やっぱり中華人民共和国は色んな意味で凄い国だと感じた。たった十年で三つの戦争を戦い抜き(この後もやりまくるけど)、内政では社会主義経済を本当に実行していく。
とりあえず、個々のイベントについて詳しく触れていこう。
まずは大躍進。成功面も失敗面も良く描かれている。所詮社会主義は机上の空論であり、人間の実態にはちっとも則していない。最初は上手くいったものの、徐々に粗が出始めていく。
大躍進は現代中国における大失敗政策の一つでもあるが、今回読んで思ったのは、毛沢東や共産党指導部の誤りはもとより、大衆側の暴走も相当に酷かったのだろうな、ということ。そりゃ、上から命じられれば下は従うものだけれど、そのやり口が滅茶苦茶悪い。農業や工業の生産に行き詰った地方幹部が故意に数字を誤魔化して実績を水増ししたり、政府の指導部が視察に来たら人民へ「大躍進は素晴らしいです! 人民公社万歳!」などの台詞を言わせる、といった偽装工作が全国的に横行する。作中の毛沢東も徐々に大躍進が実を伴っていないことに気づくけれど、大衆が率先して政策を台無しにしているものだから、コントロールも上手くいかない。大躍進の混乱は幹部同士の対立を招き、ついには反右派闘争といったかたちでさらなる暴走へ発展してしまう。中国の社会主義政策が失敗した原因を毛沢東全部に押しつけている人もいるが、実態はもっと複雑なのだと感じる。
そんな大躍進の中でも、社会主義的な人民英雄は沢山生まれている。現代中国史に詳しい方なら、雷峰のことはもちろんご存じだろう。本作でも彼をはじめ、模範的な労働者が多数出てくる。現実にはあり得ないけれど、人民がみんな雷峰のようなら、社会主義はうまく機能するのだろう。
反右派闘争の始まりは、論文による遠回しな人物批判なのだが、こういうのは実に中国的で面白いところ。
次に対外戦争とチベット侵攻だが、こちらに関しては中国に正義があり、悪いのはソ連でありインドでありアメリカでありチベットの反乱者である!という断定的な描写が強すぎて、ちょっとう~んと思ってしまった。でもまあ、こういう歴史小説では中国に限らず、どこの国の作家もわざわざ自分の国が悪とは書かないと思うので何とも言えない。現代の出来事なら尚更だろう。それに当時の中国の国際的立場を考えたら、強硬的な外交姿勢もやむを得ない部分はある。
キャラクターとしては毛沢東がやっぱり印象深い。内政よりも対外戦争とかの場面で活き活きしている感じがするあたり、根っからの戦略家なのだと思う。長江で泳ぐシーンは何だか可愛かった。
それから彭徳壊。朝鮮戦争での英雄が、廬山会議であっという間に地位を追われてしまう。中国政府の首脳陣は軍人あがりも多いのだけれど、軍で重視される率直さや豪気さが、権力闘争ではかえって仇となってしまうのが悲しい。

4巻「文化大革命」
いよいよ来ました現代中国における屈指の暗黒時代。いくつか脇のエピソードはあるものの、ストーリーの殆どは六十年代の文化大革命について描かれている。
長く野心を抱いていた江青が本格的に暴れ出し、階級闘争が激化。政府内部では次々に有力な古参幹部が弾圧される。
この権力抗争の構図がとにかく面白い。トップにいる毛沢東は、これまでの積み重ね(政策の大失敗、部下の様々な密告、劉少奇や鄧小平など古参有力幹部との対立)もあって、いったん党内をクリーンな状態に戻すべく、文化大革命の拡大をあえて放置する。その周辺で、周恩来、江青、林彪がそれぞれ毛沢東の権威を使い、互いに闘争を繰り返す。相手を打倒する時の文句は決まって「毛主席の命令です」。各自がそんなことを繰り返すうちに、毛沢東そのものが神格化され、皇帝じみた存在になっていく。皇帝がいない筈の社会主義国家で、どう見ても皇帝がいた旧社会とおんなじような権力闘争をやっているのが中国的だと思う。それから誰かを批判する名目として、とにかく文章が重視されているのも面白い。重要なのはあくまで文章を用いる形式と著者名(もちろん、毛沢東とその周辺人物が書いたことにするのが一番良い)で、内容自体は殆ど言いがかりみたいなもん。それが本当に弾圧の火種なってしまうのだから恐ろしい。
古参党員達を襲う悲劇の数々は読んでいて本当に辛かった。特に、死ぬに死ねない状態へ追い込まれる劉少奇夫妻のエピソードは悲し過ぎる。政府内部の闘争模様についてはかなり詳しく描かれている反面、人民の被った被害に言及が少なかったのは残念だったかも。
江青と林彪は相当な悪人として描かれている。江青はとにかく胸糞が悪い。林彪は頭が切れる反面、小心者な人物になっている。バックにいる林彪夫人の葉群の方がもっと凶悪。
周恩来は文化大革命の中で毛沢東との距離感が広がり始める。劉少奇や鄧小平の失脚に関しては、毛沢東が彼らを嫌っていることもあって何も出来なかった。巧みに頭を使い、江青に狙われている幹部達を牢獄という名目の避難場所へ逃がしたり、閑職に追いやられた幹部を色んな口実で復帰させたり必死の工作を続ける。江青や林彪の暴走をおさえるためには時に毛沢東の権威を利用しなければならず、同様の手口を相手に使われると彼もまた何も出来ない、という状況がもどかしい。
小粒なエピソードだが、ソ連のコスイギンが十年ぶりにホットラインで中国に電話をかけたら、無知なオペレーターの女性に「侵略者! 修正主義分子!」と罵られた話が滅茶苦茶面白かった。

本作で描かれているのは六十年代の終わりまで。文革はまだまだ続き、物語は七十年代に突入していく。